2中谷さんがやってきた
ネームプレートを見るだけ。ネームプレートを見るだけだ。見るだけなのに……勇んで出てきたはずの俺は何故か異様に緊張し、手には汗をかいていた。病室を出て右、閉ざされた扉の脇にあるネームプレート。それを見れば、俺はちょっとした勇者になれる。なれるんだぞ。
「見るだけだ、ネームプレートを一瞬で目に焼き付けろ……」
そう唱えるように言いながら、俺は右方向へと身体を動かした。数歩、数歩進めばネームプレートは見える。ドタン、ゴシャッ、メキッ!!という激しい音が俺の耳から脳に危険だ、とそう告げていたが。
閉ざされた扉の向こうで何が行われているのかはもはや定かではない、だけど、きっと荷物の片付けなんかではないはずだ。絶対に目にしたくない光景が広がっている気がする。正直、俺はネームプレートを見る一瞬が命取りになりかねないのではないか、そう考え始めていた。
しかし、俺の股には(以下略)
俺は意を決し、お隣さんのネームプレートを見た。そこに踊る機械的な文字を、思わず俺は読み上げてしまった。ネームプレートを見たことではなく、読み上げた方が命取りになる、そんな思考すら俺は出来なくなっていた。
「中谷 智恵里……」
女の子、女の子の名前だ。その瞬間、緊張の糸がプツンと切れて、俺は自身が正常な状態に戻ったことを悟った。病室に戻ろう、今すぐ戻ろう、閉ざされた扉が開いてしまわぬうちに戻ろう。俺は身を翻し、223へと駆け込むように、飛び込むようにして帰還した。生きて戻れた。当たり前のことなのに、泣きそうなくらいホッとした。




