7 持ち込み禁止物
俺が怒りを通り越して半泣きになっていると、中谷さんが俺にスマホを差し出してきた。
「え、なに?」
「遊んでいいよ、私のスマホで。ゲームとか入ってるし音楽も聴けるし」
「……じゃあ、遠慮なく」
ベッドを占領した代金として厚意を受け取っておこう。俺はいまいち使い方の分からない中谷さんのスマホで、唯一覚えている音楽を聴くことにした。それで何か記憶が蘇れば儲けものというものだ。
曲名は「雨と傘」。女性ボーカルのバラードだ。俺が唯一、懐かしいと感じる曲。「泣き濡れたあなたに傘を差し上げましょう」。「私は太陽にはなれないけれど」。「雨にこの愛を誓って」……。
「あ、雨と傘だ。嵐君、羽奏 結依が好きなの?」
「……唯一、覚えてる曲」
……あれ、俺、泣いてる?中谷さんが驚いた顔をしている。ポタポタ、ポタポタ、俺の目から落ちた涙がマットレスに染み込んでいく。俺が泣いていることに気付いた後藤さんも、驚いた顔をする。
何で俺、泣いてんの?雨と傘は、流れ続ける。
「あの人が、……よく聴いてたな」
「あの人……?」
「嵐君、ナースコール押す?」
俺の言葉に中谷さんは不思議そうな顔をする。俺はナースコールを構えた後藤さんに上手く作れなかった笑顔を向けて、大丈夫ッス、と言った。──雨と傘を歌っていた。あの人が雨の日、外を歩く時はいつもいつも。
うーん、これはナースコールを押すほどではないけどナースステーション行きかも。




