2退屈ほど尊いものはない
「ところで、嵐君。今日、新しい入院患者が入るって看護師さんが言っていたよ」
「新米が入っても、盛り上がるのその時だけッスからねぇ」
「そうなんだよねぇ。新しいものはすぐに飽きてしまう」
この閉鎖病棟に新しい入院患者が入ることは珍しくもない。この病院は一階が開放病棟、二階が閉鎖病棟、三階より上に開放と閉鎖の中間くらいの病棟を抱えている。急性期の患者はまず、ここ、二階の閉鎖病棟に入院することになる。まぁ、その新しい入院患者が急性期なのかは分からないが。たまに、軽度だが様子見の必要な患者も入院してくる。
「それにしても、どうしてこうも午後は長いんだろうねぇ」
「退屈だからだと思いますよ」
「嵐君、一発芸でもやってよ」
「そんなもん、俺には無いッスよ……」
くだらない会話の応酬。後藤さん、そして、徹君とは付き合いが長い。俺の記憶の始まり、この病室で目が覚めた数年前からずっと二人とは一緒に同じ病室で時を過ごしている。ここは四人部屋だが、ずっとベッドが一つ空いている。気心の知れた三人だけで過ごすのは、結構心地が良いものだ。
退屈でさえなければ。
「後藤さん、新米、男と女どっちだと思います?」
「うーん。最近、女性続きだがらそろそろ男性じゃないかなぁ」
「徹君みたいなタイプじゃないといいんスけどね、まずケンカになる」
徹君の喧嘩っ早さは、銃弾より速いのではないかと思われる。今までも何回か他の患者とケンカになったことがあり、一時は薬を追加され、一日中寝ているようなこともあった。最近の徹君は落ち着いている。