1退屈ほど尊いものはない
ここは某県、某市の某所。いくつもの病棟を抱える、県立の精神科。ここに入院している患者、もはや住んでいると言っても過言ではない患者、みんなは──退屈していた。
「退屈だねぇ、嵐君」
「退屈ッスねぇ、後藤さん」
二階閉鎖病棟、部屋番号223。ここにも例に漏れず、退屈している患者たちがいた。それが俺、雨宮 嵐と俺より一回りは年上の後藤さん。そして、退屈過ぎて昼寝を決め込んだ徹君だ。
自分がいつから入院しているのかも分かっていない記憶障害の俺、度の過ぎた繊細さで入院している後藤さん。ちなみにゲイ。で、徹君は血の気の多さをどうにかする為に入院させられたという、それぞれにそれぞれの経緯がある。
「なんかこう、パーッとした大事件でも起こらないかねぇ」
「脱走でもしてみたらどうです?」
「いや、自分に害の無い大事件がいいんだよ」
あはは、と後藤さんと俺は笑う。そう、大事件の一つでも起きればこの退屈もしばらくは紛れるだろう。だが、後藤さんと同じく俺も自分に害のある大事件はお断りだった。
退屈は退屈、それ以外の何ものでもない。そう思っていた、とある春の日の昼下がり。後藤さんとのぐだぐだした会話は続く。徹君は爆睡していた。徹君は昼寝をしようと夕寝をしようと夜も眠れる、羨ましい体質(?)だ。