1話 「メス転生」その二
「そう、この世界はランクが絶対なんだ。」
そう言われた途端、俺の頭の中に18歳までのメスの記憶が流れてきた。
〜メスの住んでいる小さな村から歩いて数キロ、ポリエントの城下町〜
メスの前を両親が歩いている。周りを歩く人の格好に比べて、メスたちの服装はみすぼらしい。
メスの父であるケルンが、「今日はメスの10歳の誕生日だ!思い切って豪華な鶏肉を食べよう!」とメスに笑いかける。
母のクゼンも「良いわね!料理研究家の腕が鳴るわ!!」とガッツポーズをしている。
「売んねぇよ。麦でも食ってろFランクごときが。」
吐き捨てられた。
「お金はあります!」とお金を見せるケルン。
クゼンも「息子の誕生日なんです。なんとか分けていただけませんか?」と頭を下げる。
しかし両親の必死な訴えに肉屋は目もくれない。
頭を下げる両親をケルンはじっと見つめていた。
「あの〜。」
振り返るとそこにいたのは一人の男性だった。
男性は、「鶏肉を買いたいのですが、まだ余っていますか?」と尋ねる。
身なりの整った男性は、ステータスと唱えステータス画面を表示させる。
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名前:ブラヒム
ランク:D
体力:150
攻撃力:200
防御力:200
魔力:50
職業:ポリエント兵団,第三団長
スキル:[『スキル』は非公開になっています。]
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ステータスを見た途端、肉屋の店主の態度が変わった。
「Dランク様でしたか!どうぞどうぞ、この鶏なんて丸々太っていて焼いたら絶品ですぜ!」
と裏から一段と大きい皮を剥いだローストチキン用の鶏を持ってくる。
「では、その鶏とそこの一番小さな鶏をください。」と言って二羽のローストチキン用の鶏を購入した。
そして、ブラヒムは鶏を持ってケルンの前に立つ。
「息子さん誕生日なのでしょう?良ければ一羽もらってください。」
その言葉にケルンは息子と嫁の前にも関わらず涙を流した。
「よ...よろしいんですか?」と声を詰まらせて聞くケルンに、
「もちろん。ですがこのままだと息子さんの誕生日に相応しくない。」
そういうとブラヒムは小さい鶏の足を引きちぎり...『地面の砂をたっぷりとつけて』メスの前にしゃがみ、満面の笑みで...
「坊や、はいあーん。」と土と砂だらけの生肉を口に近づけた。
瞬時にクゼンがメスを抱えてブラヒムをキッと睨みつけた。
それを見て、ブラヒムはニヤケながら、
「なんだよ?Fランクが肉を食べれるんだぞ?それなのに俺様にお礼のひとつも言えないのか!この最下位ランク風情が!!」
と、ブラヒムがメスを抱えたクゼンに殴りかかる。
ドカッ!!!と鈍い音がした。クゼンとメスを庇ってケルンが殴られたのだ。
殴られた腕は腫れ上がり、不自然な形に曲がっている。それでも、ケルンは顔色一つ変えずに笑顔で鶏肉の足を手に取ると、
「ありがとうございます!息子に生肉はまだ早いので私が代わりにいただきます。」
と砂のついた生肉を食べ始めた。ジャリジャリと音を立てて食べるケルンを見て、周囲の人々はクスクスと笑い出す。
そして笑顔で食べきると、
「お陰様で今晩は豪勢な夕食になりそうです。この鶏はいただいてもいいんですよね?」
と真っ直ぐにブラヒムを見つめる。
ブラヒムは、高笑いすると
「Fランクはすごいなぁ〜。生肉まで食えてしまうのかぁ〜。」
とケルンをジッと見つめ、
「気持ち悪い!さっさと鶏肉を持って消えろ!!」と怒鳴った。
走り去るメス達を見つめているブラヒムに「お父さん!!」と声を掛けて少年が走ってくる。
ブラヒムは笑顔で少年に抱きしめ
「イブラ!今日はおっきな鶏を買ったぞ!誕生日のお祝いをしよう!」
と並んでメス達と逆側に歩いていく。
帰り道、クゼンは悲しい表情を浮かべながらも、メスを見て
「メス!今日はローストチキンだからね!!たっぷり食べて大きく育ってね。」
と笑いかけた。
「僕たちFランクは助け合って生きていかなくちゃならないんだ。もしメスがFランクになっても、父さんが助けてやる。その分、他のFランクの人も助けてあげるんだよ。」
とメスの頭の撫でながら笑いかけた。
「どうだった?新しい君の過去は?」
...最悪だ。
「最悪なのは、前世も一緒だけどね。でもこの人生は変えられる。」
どうすればいいんだよ。
「君に僕の力を貸そう。その力で今回の人生は成功してみなよ。」
いいのか?
「その代わりに手伝ってもらいたい事があるんだ。」
...?
「僕は元々『フェウス』というモンスターとセットで本来の力を発揮できるんだ。
とてつもなく強い鳥でね。天空に住んでいるんだけど、どうやら地上に落ちてしまったらしい。」
それで?俺はその『フェウス』っていうモンスターを探し出せばいいのか?
「その通り。そのフェウスはまだ子供らしいんだけど、生憎僕は大人のフェウスしか知らなくてね。...おやそろそろ限界らしい、じゃあがんばって!」
...は?おい!どうやって見つけ出せばいいんだよ!!おい!!!!
目の前の炎が段々と消えていくと同時に、目が覚めていく感覚がある。
炎が消える直前、炎が呟いた。
「あっ、言い忘れてたけど3年で見つけられなかったらこの世界滅亡するから☆」
えっ?はああああああああああ!?!?!?!?!?