もう一つのプロローグ
真っ青な空が、一瞬で紅蓮の炎と共に紅に染まる。
見上げた農夫は「あんれ、もう夕方か?」とぼやく。
しかし轟音の炎の塊が去った瞬間に空は快晴に戻った。
炎の塊の中に一羽。
空に浮かぶ雲より大きな怪鳥が、輝きを放ち飛んでいる。
怪鳥は焦っていた。頭の中には自分の何十倍も小さな鳥の姿が脳裏にこびりついて離れない。
必死で自分の下に広がる大地、人間が暮らす緑と青の世界に目を凝らす。
しかし、どこにも頭の中で元気に駆け回る鳥の姿はない。
「どこにいる...どこにいるんだ我が子よ!私は地上に降りれない!あぁどうすればいいんだ!」
その怪鳥の最初で最後の子供だった。
不死鳥フェニックスは、種族上世界に二匹になることは絶対にない。
その力が強大すぎるため、二匹以上に増えてしまうと世界のバランスが崩れてしまうからだ。
世界に一匹しか生息しない鳥、フェウスに永遠に消えない世界中の炎の大元「ソル・フレイム」が宿ることでフェニックスと呼ばれる存在になる。
フェニックスになると傷がすぐに回復し、大陸をも焦がす炎の力を持つことができる。そのため外傷や病で死ぬ事はない。しかし、フェウスの身体はどんどん老いていく。
そのため、フェニックスは死ぬ直前に1度だけ卵を産む。生まれたフェウスの雛に、生きかた。戦いかた。そして「ソル・フレイム」の使いこなす方法を教えて「ソル・フレイム」を伝承して、再びフェウスに戻りゆっくりと深い眠りにつくのだ。
そしてこのフェニックスは、あろうことか子供を地上に落としてしまったのだ。
フェニックスの炎は強く地上に近づきすぎると地上が焼けてしまう。同じ場所に留まりすぎても、草木だけでなく海も枯れてしまうためゆっくり探すことも出来ない。
「私が死ぬまであと3年。3年の間に見つけなければ世界から炎が消えてしまう。探さねば!」
我が子を見つけても助けられるかわからない葛藤と、そして自分が死んだら世界から炎が消えてしまう責任感に押しつぶされそうになりながらも、怪鳥は空を舞う。
澄んだ新緑の平原に鶏より少し大きいぐらいの小さな鳥・フェウスが1羽。親を見失い鳴いている。
声に引き寄せられた肉食のモンスターが、数匹迫ってくる。
フェウスは飛ぼうと羽を広げるがうまく飛ぶことができない。ジリジリと迫りくる狼のようなモンスター・ガロは、フェウスを食い殺さんと血走った眼差しでフェウスを睨む。
ガロが飛びかかった刹那、フェウスはガロを潜り抜けて走り出す!全速力でどこまでも続くはじまりの草原を駆けていくが、後方を見ると恐ろしいスピードでガロがフェウスを狩らんと追ってくる。
もうダメだと思ったその時、目先の川から人間が流れてくるのが見える。
フェウスは察した。あの人間が自分の唯一の希望だと。
最後の力を振り絞って川まで走り、バシャ!!!と川に飛び込むと流されている人間の服を啄み引っ張りあげた!
必死に流れに逆らい、力を振り絞って人間を引き摺って川原まで引き上げるとツンツンと顔を突く。
追いついたガロに囲まれているものの、ガロは自分の親や子供を狩る人間と、その人間を引っ張り上げる見た目よりも怪力の鳥を前に近寄れずにいた...。
「...ん?」
人間の目が覚めた。
フェウスはこの状況でも自分を助けてくれる可能性のある人間の目覚めに喜びじっと目の前の人間を見つめる。
人間は目の前の見たことのない生物に、帰ってこないであろう質問を投げかけてみる。
「ここは...どこだ? 君は...誰?」
物語が始まる。