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PROLOGUE



 王。それは人々を支配し、領域を治め、国を為す者。その威光、威力、何人たりとも侵すこと叶わず。



---


異世界レクスラ。その地では王を束ねる『帝』の座を巡り、数多の王が戦っていた。王達は強大だった。民を守るもの。民と共に戦うもの。民を奴隷のように扱うもの。様々な王がいた。そんな王の一人、魔王デザイア。王の中でも別格の彼はしかし、暴虐の王として知られていた。民はやがて、レジスタンスを組み、王へと抵抗を始めたのだった。そして、そんなある日。レジスタンスに転機が訪れる。


---


「法撃隊、放て」


「総員退避!生き延びる事を最優先としろ!」


デザイア領北部、辺境都市アケディアではレジスタンスと軍の抗争が起きていた。ゲリラ戦法を用い、何とか抗戦を続けるレジスタンス。今日も軍の物資を奪取するため、しのぎを削っていた。そんななか、軍の擁する魔術師部隊が前線に投入された事を見るや、レジスタンスの指揮官、ジークムントは即座に撤退を指示した。


「ひっ、やめ、やめろォオオオオオオオ!!!」


「ああああああ!!腕が、俺の腕が無い……!」


「狼狽えるな!帰還出来れば、聖女がいる!!生きることを諦めるなァ!!!」


歩兵部隊だけならまだ抵抗出来る。が、魔術師に抵抗出来るのは魔術師のみだ。レジスタンスには魔術師は居なかった。軍の指揮官はその様子に笑みを浮かべていた。


「はっ、クズどもが逃げ回っている。愚かなものだな。大人しく恭順していればいいものを」


その言葉に側近達が笑った。その様子をレジスタンスは憎々しげに睨むが、なにもできず、そのまま敗走する。


「し、指揮官殿!!被害を報告致します!」


「うむ。今回の襲撃は弾薬庫だったか。損害状況は?」


「はっ、奪われたもの自体は少数です。しかし、そのなかに、例のスクロールがッ!」


「何!!?」


---


 レジスタンスのアジトは負傷者の治療に追われていた。


「縫合急げ!!」


「62番は聖女に回せ!」


「74番、死亡、しましたっ……!」


「クソがっ!!!」


「イヤァァアアアアアア!!ロイド、目を開けて、ロイドッ……!!」


血の匂いが満ちる中、とある少女がその様子を虚ろな目で眺めていた。まだ、10にも満たないような少女。その白髪には血がこびりついている。彼女はアジトに運ばれてくる幾人もの負傷者、死亡者を見ていた。壁際に座り込み、手には古びた羊皮紙を握りしめて、ただ虚ろに。しかしその手は血が滲むほど強く拳を握りしめていた。


「誰か、助けてよ……」


少女の呟きは直ぐにアジトの喧騒に飲まれて消えた。羊皮紙に書かれた古代文字が、鈍く明滅した気がした。


---


 やがて治療が落ち着くと、アジトはいったんの平穏を迎えていた。


「被害と戦利品の確認をするぞ」


 ジークムントは無表情にそう言った。レジスタンス達の顔にも表情は浮かんでいなかった。皆、もう心が磨り減り過ぎているのだ。


「56式魔法弾、60組を42束。マギアオイルを──」


戦利品を淡々と読み上げていくにつれ、少し雰囲気が柔ぐ。これでまだ戦える、と。しかし、被害状況の確認となれば……


「──重傷者は30余名、死者、4名となる。総員、黙祷」


否応なしに打ち付けられる現実。場の雰囲気は、まるで深海の底にいるような重圧につつまれてしまった。無理もない。客観的に見れば、装備も十分でない状況で、被害をここまで押さえたのは奇跡に近い。実際、ここ最近の小競り合いの中では一番被害をが少なかった。しかし、一人、また一人と仲間が消えていく事は、途方もないストレスとなってレジスタンス達を襲っていた。死んだ者と仲の良かった者は、血がにじむ程に唇を噛み、涙を堪えていた。そんな空気を払拭しようとジークムントは言葉を続けた。


「──さて、最後になるが、今回の目的である、王の召喚のスクロール(・・・・・・・・・・)についてだ」


 ──王の召喚。異世界から“王”を召喚する秘術。その魔法は羊皮紙に封じられたもの、スクロールとして発見される。古の大魔術師が作成したと言われ、世界に72個しか存在しない。一人の王が死ぬ度、この世のどこかに再び生まれるらしい奇跡の具現である。


「こんな辺境にある、と聞いた時は疑ったが、どうやらあの指揮官は秘密裏に権力を握ろうとしていたようだな。機をみて王を喚び、デザイアへ反逆するつもりだったのかもしれないが……まあ、あのような小物が権力を握ったところで我々に希望はない」


 レジスタンス達から淀んだ雰囲気は消え、いつしかジークムントの言葉に静かな熱気をもっていた。


「まあ、そのお陰で我々はこのスクロールを手に入れられたわけだが。どこで此を入手したのかは知らないが、感謝しようではないか。そして、このスクロールを奪取した今回の功労者を紹介しよう。」


 その言葉と共に一人の少女がジークムントの隣へとつれられてきた。白髪の幼い少女。スクロールを強く握りしめていた少女だった。


「彼女の名はエリス。まだ幼いが、優秀な工作員だ。彼女がスクロールを奪取してくれた。皆、この小さな英雄に拍手を!」


 大歓声と共に場が沸いた。若干居心地が悪そうに、無表情ながらも困った雰囲気を出すエリス。それを見たジークムントは早めに終わらせようと判断し、歓声の余韻もそこそこに話を続けた。


「ついては、王の召喚は彼女に行ってもらうことにした。文句はないな」


 王の召喚を実行した者は、王の『臣下』として、王より加護を受けられると言われている。本来なら指揮官であるジークムントが行うところだが、この加護は、一人につき一つである。そして、ジークムントは既にある王の加護を受けているのだった。ならば、下手に選考し、嫉妬やいさかいを引き起こすよりも、スクロール奪取の本人、という分かりやすい手柄を持つ彼女を指名したのだった。みな、そのことは分かっているようで誰も何も言わない。ジークムントのもとで、しっかりと統率されている証だった。


「さて、早速だが王の召喚を行う。スクロールを奪われたヤツらは死に物狂いで追撃をかけてくるだろう。最早一刻の猶予もない。エリス、頼んだぞ」


「……はい」


 確たる信念を抱えた顔で、幼い戦士は頷いた。スクロールを開き、魔力を流す。スクロールの利点は魔力さえあれば魔術師でなくとも発動できることにある。すると、魔法陣が起動して記録された魔法を発動するのだ。レジスタンスの誰もがようやく、という万感の思いを込めてその魔法陣を見ていた。


---


【遥かなる境界の帝、ソロモンとの盟約をここに。魔神よ、王を導きたまえ!】


---


 その召喚が成された時、世界中の王は驚愕と困惑、戦慄と共に新たな王が現れた事を知った。本来ならばあり得ぬ召喚。王の指輪から中空に映し出されるのは召喚された王たちの一覧、そこには既に72(・・)の名前があるのだから。そして、今この時、新たな名がそこに刻まれた。その名はノイズにまみれ、明らかなイレギュラーであることを表していた。


---


 そして王は彼女の前に現れる。男とも女ともつかぬ美貌、触れることなど許されないと本能で理解してしまう覇気。長く延びた夜を思わせる藍の髪から、金色の眼が世界を睨んだ。


「ここ、どこ?」


 そして物語は動き出す。


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