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キャラバン

 

 絶好調の美鈴さんの後を追いながらも、周囲への警戒は怠らない。


 既に村からは十分に離れたので、派手な戦闘行為もできそうだ。

 気温は下がり、変温型の多い取り巻きの小型怪獣には活動の難しい時間帯だった。


 だがなんとなく、3日前よりも森がざわついているような気がする。

 空が明るくなり、夜明けが近いからだろうか。



『人の気配があります』


 ゴンの言葉に俺たちは歩みを止めて、森と同化するように太い木の幹に身を寄せる。


『あちらはまだ気付いていないようですが、向かっている方向が我々と同じですね』


 わざわざこの時間に怪獣のいる場所へ近寄ろうとする人間がいるとすれば、俺たちの救助に来たUSMの特殊部隊だろうか?


 来るなと言っても来るのはこの世界のお約束なので、俺には文句も言えない。

 もしかすると地元群馬の部隊なのかもしれない。


『先方も雷獣対策で通信を絞っているようで、この距離では確認できません』

 ターゲットは同じ、雷獣のようだ。


『雷獣に気付かれぬように合流できればいいのだが……』

 俺も自分の眼で確認するが、視界にはまだ入っていない。微かな音や空気の揺らぎなど多くの情報を元にゴンが解析しているのだろう。


『ワレワレより先に雷獣と接触しそうです。すぐにでも戦端が開かれる可能性があります』

 そういうことなら仕方がない。


『ではこのまま隠れて接近しながら様子を見て、頃合いを見てこちらも参戦しよう』


『はい。でも、お互いに被害を最小限にするため、早めに合流したいですね』

 美鈴さんは体調万全でやる気満々なのだが、まだ俺にはちょっと不安だ。


『美鈴、雷獣のECMに対抗可能なワレワレの通信距離は、見通しで20~30メートルがいいところです。極力、それ以上離れないようにしてください』

 ゴンも、美鈴さんが心配なようだ。


『では、清十郎さんも遅れないで付いて来て下さいね』

 そう言って美鈴さんが足を速めた。

 おいおい。



 それから間もなく、前方で光が弾け、発砲音と爆発音がした。


『20ミリ機関砲とロケット弾、これはUSMの旧式装備ですね』

『では、討伐隊ではない?』


『その他にも使用している武器の種類が多いので、恐らく民間人でしょう』

『武装商隊ですか?』


 美鈴さんの言葉と同時に強力なジャミングが始まり、前方の戦況が益々読めなくなった。


 美鈴さんは更に歩を速める。


 雪の残る滑りやすい斜面を気にせず、軽快に走って行く。

 俺も、背中の澪さんを気にしながら慎重な足取りで後を追った。



 突然左の藪から2メートルを超えるムカデが現れた。


 取り巻きの小型獣たちも、活性化している。

 美鈴さんは冷静に鞭を一振りして、その体を両断する。


『鈴ちゃんスゴイ!』

 背中の澪さんが感嘆した。



 いつの間にか、周囲を多くのSS級小型獣に囲まれていた。


 前方では派手な爆発と連続する発砲音が聞こえる。


 この腹に響く低い音は、雷獣を狙う重機関銃の発砲音だろう。


 小回りの利かない武器なので、樹林の中にいる小型モンスターには通用しにくい。

 怪獣と間違われて狙い撃たれる可能性は低いが、流れ弾には注意しなければ。



 押し寄せる小型モンスターたちを、美鈴さんの鞭と俺の銃が倒していく。


 俺のために強化されたこの銃は、7.62ミリUSM弾を使用する。高性能火薬によりコンパクトだが弾速の速さで威力を増し、急所に当たれば小型獣を一撃で仕留めることができる。


 特に今日はロングバレルを使用しているので貫通力があり、多少の樹木は気にせずその奥にいる得物を撃ち抜くことが可能だ。


 ゴンの照準は正確で、本来苦手とする森の中でも、落葉したこの季節なら気にせず戦える。


 樹上から弓矢のような針を飛ばして遠隔射撃をするムササビとヤマアラシのハイブリッドのような獣の集団には手を焼いた。


 美鈴さんが飛来する針を鞭で叩き落としている間に、俺が一頭ずつ狙撃して片付けた。


 だが、そうして足止めされている間に、再び他の獣に囲まれる。


 美鈴さんが接近戦を担当してくれるので、今日の俺はロングバレルで中長距離から攻撃するスタイルだ。


 遠距離狙撃から攻撃を始めようとした当初の計画は多少狂っているが、基本的な戦い方は変わらない。


 接近する前に俺が撃ち、撃ち漏らした獣は美鈴さんの鞭が片端から叩いて潰す。

 美鈴さんの鞭も、少々の太さの木なら砕いてしまう威力がある。



『雷獣に気付かれたわ。来るよ!』


 背中の澪さんが、伏せていた顔を上げた。


 戦いやすいように、樹木の少なく明るい場所を選んで移動していたのが裏目に出たのだろうか。


 三日前に森の中を追われていたときと同じ、頭の中を暴風が吹き抜けるような不快な感覚が近付いてくる。


 俺はそちらへ向かって、グレネードランチャーを放った。


 高速で移動する白い影の行く手を読んで発射した榴弾が、跳び移ったばかりの大木の梢付近へ着弾する。爆炎が雷獣の顔と前足の一部を焼いた。


 上半身の白い毛が飛び散り、確実に物理攻撃がダメージを与えることを証明した。

 怯んだ雷獣が後方へ跳び退くと、そこへ周囲から自動小銃の連射が襲う。


 まだ距離が離れているので威力はないが、十分な威嚇になっている。


『ゴン、戦闘隊の指揮官の位置がわかるか?』

『全体の指揮を執っている人物は不明ですが、一番近くに展開している部隊は現在こちらへ接近中です』


『では、先ずそこへ挨拶をしておこう。美鈴さん、移動しますよ!』


『でも、雷獣は清十郎をロックオンして、しっかりとこっちを見ているよぅ』

 澪さんは、雷獣の強い戦意を感じて少々怯えている。よしよし、と背中の子をあやすように揺すってから、俺も澪さんに一応説明しておく。


『ほら、さっき出合頭の一発を当てちゃったしねぇ。追ってくるのは仕方がないけど、うまく誘導して包囲の中に飛び込んでもらえれば一番いいんじゃないですか?』


『相変わらず清十郎はいい加減だね!』


 背追われたまま後頭部を殴るのは止めてほしい。

 負うた子に殴られて戦闘に向かう。なんて凶悪な赤ん坊だ。



 雷獣の周囲にまだ追撃の部隊が追い付いていないのを確認して、俺はグレネードランチャーをもう一発撃ってからダッシュした。


 その先に、武装した人間の一団がいた。


 装備はバラバラで、まさに密林のゲリラ部隊である。

 これが噂に聞く武装商隊であろうか。


 中心にいた小柄な女性が、俺たちに気付いた。


「なんで、EAST東京のヴェノムがこんな所にいるのよ?」


 これが、キャラバンとの出会いだった。

 


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