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消耗戦

 俺は前方の5体の怪獣の集団を目にして絶望的な気持ちになっている。


 とりあえず最後方を行くタコを排除しないと、人々のところへ辿り着くことも出来ない。だが、タコより先にやっておくことがあった。


『逃げている人たちが追い付かれる前に、何とかここから前衛陣を狙撃できないか? レーザービームの連射とスキレットの投擲で少しでも足を止めて、標的をこちらに向けられれば……』


『いいでしょう。ギリギリ市民に当たらぬように射線を取ります。スキレットも天井へぶつけるつもりで投げれば、その先にいる人に当たる確率が下がります』


 俺が銃を構えると、すぐにゴンが射撃管制に入る。


 目に見えぬレーザーパルスが蛾とコウモリの羽を的確に焼いて、火花が散った。


 すぐに俺は銃を足元に下ろして、スキレットをフリスビーのように投げた。


 連続して投げた4枚のうち2枚はタコの脚に阻まれ、1枚はヒトデの足一本を砕き、もう1枚がウニの針を何本か空中へ散らした。


 俺は破獣槌を拾い上げると、ハンマー型に変形させながら走った。


 俺を敵と認定したタコの触手がこちらへ迫るが、その前に二体の飛行型が出た。


 羽を焼いて一度は地に落ちたはずだが、多少空力性能が落ちても反重力機関に異常がなければそれなりに空を飛ぶのがこいつらの嫌なところだ。


 ただ、羽に穴が開き以前のような機動力はない。見たところでは、攻撃力もそれほど高くなさそうだ。


 触手の攻撃が来る前に、俺は残るスキレットと鉄鍋を投げた。


 回転したスキレットが蛾の腹を割り、次のコウモリは避けるのが得意なのでスキレットを囮にした。


 回転するスキレットを避けたところに飛来した二個の鉄鍋のうち一つが直撃して、その頭を砕いた。


「討伐隊だっ! 怪獣どもを引き付ける。今のうちに避難してくれっ」


 できる限りの大声で俺は叫ぶ。


 マップ上の輝点が無事に離れていくのを確認して、ほっと一息ついた。


 怒ったタコがこちらへ向かって来る。

 背中の中華鍋を盾にしたかったが、最悪なことに触手の先端はスタンガンのようなスパークが飛んでいる。


『何か電気を防ぐ絶縁物の盾とかないのか?』


『セラミック包丁と強化樹脂製のモップの柄を組み合わせた槍が一本あります。非金属製の武器としては一応有効と思われます』


『一応、ねぇ』


 俺は背中に束ねている槍を一本選んで、左手に持つ。触手の太さを思うと、あまりにも貧弱だ。


 このでかい化け物に手造りの槍とハンマーで立ち向かうとは、原始的過ぎて笑ってしまう。

 戦国時代の戦だって鉄砲を使っていたのに。


 ジャングルで一人ゲリラ戦をしている気分になる。

 俺はランボーという古い映画のシリーズを思い出して、せめて弓矢くらい練習しておけばよかったと後悔した。



 俺は左手に持った絶縁槍で電撃を放つ触手を牽制しながら接近する。敵もまだ様子を見ているようだ。


『よし、じゃあ一丁釘打ちハンマーを試してみるか?』


 俺に向けて伸びてくる触手の一本に狙いを定めて、床へ釘付けにすべくハンマーを叩き込んだ。

 爆発音とともに、触手の先端部分だけが吹き飛ぶ。


『もっと根元でないと、だめなようですね』


 ただ幸いにして電撃を放つのは先端部分だけだったので、厄介なスパークは一つ減った。


『わかった。次は根元の太い部分を狙う』


 槍の先でスパークする電極を突きながら、俺は一本の触手に殴り掛かる。今度は右側の壁に太い脚を縫い留めるつもりで叩いた。


 同じような爆発音とともに一本の足が壁面のコンクリートに張り付く。熱と衝撃でタコの筋肉が収縮し、いい具合に固定された。


 使用している合金製の杭は貫通して飛び出さぬように、着弾後に展開する小さな頭が付いている。それがうまく機能したようだった。


 壁に縫い留めた触手の先からは、スパークも消えた。残る脚は6本。


 トカゲの尾のように脚を自切して自由に動き始めぬよう、タコから距離は取れない。


『ゴン、上手くいった。床と左の壁と、あと2箇所やりたい!』

『了解。残弾3発です』


 一本の脚が壁面に縫い留められてはいても、攻撃対象の俺が近くにいるので大ダコはそれほど気にしているように見えない。


 こちらとしては厄介な攻撃手段を少しでも減らして中央の口に接近すること。

 当然防御にも足が使われるが、最初から開いて止めてしまえばどちらも解決となるはずだ。


 二撃目を狙うがさすがに動きが早く、こちらは襲い来る脚を躱すだけで精いっぱいとなる。


 その間に、残る二体のSS級が接近していた。


 星形のヒトデは足の先端部が刃物になっていて、意外と俊敏に動いて切りかかる。


 それを避けた先に転がるようにして長い棘のウニが待ち構える。


 ウニの棘は俺の槍に近い長さがあり、本体を攻撃するには棘を折るしかない。


 先にハンマーでウニの棘を折る作業に取り掛かる。


 普通に振り回すと意外と器用に棘が動いてハンマーの攻撃を受け流す。一本や二本折れたところで大勢に影響はない。


 そこで、背負っている二枚重ねの中華鍋をハンマーの代わりに強引に叩きつけた。鈍い音がして、棘が折れる。

 二度三度と追いながら叩きつけ、後方から襲い掛かるヒトデの刃もこれで振り払う。なかなか具合がいい。


 出刃包丁とステンレスの柄でできた一番長く丈夫な槍に持ち替え、棘が少なくなった部分へ突き刺した。

 ウニの固い体を貫通した手ごたえを感じる。

 逃げ出すウニに向かい、その槍を思い切り投げる。

 団子のように串刺しになったウニは、動きを止めた。

 だが武器を手放し無防備になった俺に向けて、電撃触手とヒトデの刃が同時に襲う。際どく中華鍋でヒトデの攻撃を受けたが、タコの電撃を躱し損ねた。


 中華鍋に電撃を受けて、俺の体は硬直する。


 意識が飛びそうになるが、何とか堪えた。


『セイジュウロウ、緊急回避、後方へ跳びます』


 ゴンの介入により何とか触手の二次三次攻撃を逃れたが、手放したハンマーと絶縁槍はタコの近くに落ちたままだ。

 中華鍋の盾は背負っているが、電撃から身を守る術はない。


 背中の鞄からもう一本の槍を取り外して右手に持つ。


『右腕と両足は電撃に耐えると思います』


 俺は左手にキッチン用の分厚いミトンをはめて絶縁し、最後のフライパンを握る。


 とりあえず、前方の市民は逃げ切ったようだ。

 このおかしな格好は、あまり人には見せたくないよなぁ。

 


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