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 近くに、逃げ遅れた人の集まる区域がある。避難通路の両側から囲まれて、逃げ場を失った人たちが最終的に数十人同じ区域へ追い込まれている。


 このままでは幾つかに分かれているグループが一か所へ追い詰められてしまう。

 怪獣がどこまで意図しているのかは不明だが、幾つかのグループが連携しているように感じる。


 そのうちの一番近い群れに背後から攻撃した。


 既に腹の中には人がいる可能性があり、火器による無差別攻撃はできない。背後から接近し、不意打ちで頭に近い部分を刈り取ることが一番確実な作戦だった。


「くそ、だから無理ゲーだって言ったんだ!」


 破獣槌の一撃と近距離からのショットガンの連射で何とか三体の頭を吹き飛ばしたが、残る百鬼夜行の連中はまだ五体いる。


『こんなのが、まだ二組もこの辺にいるって?』

『他は5体編成と、7体編成ですから、残り17体ですね』


 そう言っている間にコウロギと青虫の頭をハンマーで叩き潰し、引き返してきた戦闘専門の小型斥候獣の蚊を、バイパーで撃ち落とした。


 ここにいるのはあと3体。


 俺は床に落ちた蚊を跳び越えて先へ進む。

『急ぎましょう。人が襲われている様子です』


 シャッターの閉じた商店街の通路を左に折れると、傷ついた人を庇いながら怪獣と向き合う人々がいた。


 先頭の男たちが手にするのはどこかの居酒屋から持ち出したような椅子やテーブルで、それを盾にして何とか凌いでいた。


「討伐隊だ! 皆伏せろ!」

 俺は大声で言ってレーザービームを先頭のアリクイの頭に照準した。


 その場にいた十数人が一斉に床へ伏せるのと同時に、ゴンが絶妙なタイミングで発射したレーザーがアリクイの頭を焼いた。

 こんなところは、市民の訓練が行き届いていることに感謝だ。


『次の大きな2体はヘラジカと似た形態なので、特殊攻撃はないでしょう』

 残る人食い役の水牛2体が振り向くと同時に、俺はダッシュで近付きハンマー形態にした破獣槌でその巨体の頭を叩き割る。


 何とか間に合った。


「この先には怪獣が待ち受けています。俺の来た方向は制圧しましたから、少し戻れば避難階段への誘導標識が見えるでしょう。そこへ向かって皆で避難してください」


 そして俺は休む間もなく次の戦闘へ向かう。


「おい、あんた謹慎中のトミーだろ。ありがとうな!」

 俺の背中にそんな声が届いた。俺は振り向かずに左手を上げて応えた。VR訓練の時のように、左手に盾があればな、とふと思った。


『なあ、ゴン。澪さんたちは無事にシェルターへ入ったかな?』

『はい。まだ不安定ですが、USMの緊急回線を通じて会話が可能ですよ』

『で、できるのか。じゃあ、俺の現在位置と無事なことだけをメッセージで送ってくれ』


『音声でなくていいんですか?』

『ああ、どうやらそんな暇は与えてくれないようだ……』


 前方に新たな怪獣の姿が見えてきた。


『澪はシェルター内の不安を取り除くため、多くの人に話しかけては騒いでいるようです』

『さすが、澪さんだ』


『既にワタシの作った通信網である程度外の情報も得られていますので、これ以上緊張が高まることはないでしょう』


『じゃあ、こっちも次を始めよう』


 今度も迅速に接近し、初撃で確実に最後方にいる一体の頭を落とした。

 残るは4体。


 振り返って鎌首を上げた白蛇の口の中にバイパーを打ち込む。

 隣の黒蛇はこちらから体に飛び乗り、ハンマーを振り下ろした。


 その前方に虫型が2体。


 腹部がくびれた体型から戦闘専門のSS級と見て、ショットガンで二体まとめて吹き飛ばす。


 これで、近くにいる残りは7体だ。


『次は前方の人の集団の向こう側になります。このまま進みましょう』


 今の5体が挟撃しようとしていた避難民の集団が、この先にいる。


 俺は通路を走る。

 何度か角を曲がり、閉鎖されている区画の奥へ最短距離で向かうと、前方から悲鳴と怒号が聞こえた。


「討伐隊です!」


 角の広場に追い詰められた人が、左側の通路から攻撃を受けていた。幾つもの血走った目が振り返って俺を捉える。一瞬緩んだ瞳が、俺が一人なのを見て再び険しさを増す。


「後退してください。ここは俺が食い止めます!」


 混乱する人々の間を抜けて、前線へ出た。今度は20人以上の集団だった。


 最前列で攻撃を食い止めている人の中には、傷ついて倒れている者も多い。多くの人は清掃用具や壊れた家具の部品などを手に、防戦一方の闘いを何とか凌いでいた。


 怪獣たちの前線には、巨大なクワガタと宙を飛び回るハチドリがいた。


 ホバリングして槍のような嘴で突くハチドリの後方に、体を挟もうとするクワガタの角がある。傷ついた人たちはこの連携にやられているのだろう。


「ここは俺に任せて、負傷者をお願いします。この通路の後方は安全ですから」


 俺は素早く飛び回るハチドリをショットガンで撃ち落とすと、クワガタの角を避けてその頭をハンマーで叩く。


 だが黒光りする甲殻は固く弾力もあり、ハンマーは弾かれた。


 一撃では仕留められないのなら、何度でも叩く。


 角の攻撃を避け二度三度とハンマーを打ち付けて、硬い頭を破壊した。


 それを見ていた人々から歓声が上がる。


 本当に強く、闘いにくいのはこの後に控えている腹の中に人間が入っているかもしれない個体だ。


「今のうちに後方へ避難してください。この近くにいる怪獣はこれが最後です。最寄りの避難階段までは安全に行かれます」


 俺はすぐに残る5体に対峙する。


『奥の3体はUnknownです』

 今日は本当に未知の怪物が多い。


「兄ちゃん、一人で大丈夫なのかっ?」


 傷ついた人々はまだ戸惑っている。それはそうだ。俺が簡単に倒されれば、すぐに追撃を受けることになるのだから。


「任せてください。これくらいなら一人で大丈夫です。戦闘に巻き込まれないように、早く怪我人を連れて逃げた方がいい」


『ゴン、派手に一発ぶっ放そう!』


『わかりました。手前の2体はレーザーで倒せます。二連射で頭を吹き飛ばしましょう』

 エネルギー残量が心配だが、ここは残った人たちを安心させるためにも、派手な攻撃が必要だ。


 二列目にいた二体のヒキガエルの眉間を狙い撃つ。


 フルパワーで放ったレーザーパルスがカエルの脳天を焼いた。嫌な臭いの煙を巻き散らしてカエルは倒れる。


 再び後方から歓声が上がる。

「よしいけっ、残りは3匹だ!」

「いいぞ、やっちまえ!」


 すっかり興奮した人々は逃げるどころかその場で応援を始めてしまった。

 


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