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続・性能確認試験

 午前中の訓練が終わるとまたランチミーティングと称する普通の昼食の時間になり、ダイニングに四人が集まり食事をする。


 俺はドクターに聞かれるままに、午前中のひどい訓練の模様を話していた。


「ドクターのトンデモ発明品の中に、何か使えそうなものはないんですか?」

 俺がぼやくと、ドクターもすぐに返す。

「私をドラえもんみたいに言うな」


 おお、そうか。ドクターは俺と同じ、ではない大島晃と同じ20世紀生まれの人なので、普通にドラえもんをテレビで見て育った人なのだった。

 たぶん、俺の知っている別の21世紀のドラえもんとは声が違うのだろうけど。


 それから少しの間、ドラえもんの話題で盛り上がった。2050年にも、もちろんドラえもんは健在で嬉しかった。


「もっと威力のある武器はないのかな。ほら、レーザーソードとか高周波ブレードとか」

「おお、高周波ブレードなら以前作ったぞ」


「超音波メスとかの小さいのじゃなくて、ですよ」

「ああ、武器としても試作した物がある。切れ味はとんでもないぞ。コンクリートをバターのように切り刻む」


「おお、それでいいのに」

「だが、威力があり過ぎて3秒でブレードが自壊するんだ」


「それじゃ使えないじゃないか」

「いや、だから3秒毎に刃を自動交換するシステムを作った。20枚入りのマガジンで連続交換すれば、一分間の稼働が可能になる。マガジン一つが50キロになるが、トミーなら軽く持てるだろ?」


「3分間闘うのに必要な替え刃が60枚、マガジン3個で150キロの重量って……」


「ちなみに試作品だからマガジンは2個しか作っていないぞ。あとは空になったら手で刃を補充することになる……」

 さすがはドクター、滅茶苦茶である。


「戦闘用は諦めてレスキューに売り込もうとしたが、刃のコストが高すぎて不採用になった」

「もしかして、午後から試す予定になっているダイヤモンドカッターに負けたとか……」


「嫌なことを思い出させるな!」


 そういうわけで午後からも引き続き仮想世界の中で訓練が再開する。


 午後最初の獲物は日奈さん一押しの金棒だった。正式名称を金砕棒かなさいぼうという。大きなバットのような形をしている鋼鉄の棒で、全体に嫌らしい棘が付いている。これは田舎の不良の持ち物だ。


 ロングソード以上に重いので、うっかり変な空振りした時にはバランスを崩してこちらが振り回されることになる。その分、当たれば打撃の強度はかなりのものだ。


 ただ、その衝撃に俺の体が耐えられるかという恐怖が付きまとう。体全体に打撃の衝撃が伝わり自爆する、嫌なイメージが頭から離れない。


 次にドクターの高周波ブレードに勝ってレスキューに採用された怪獣解体用のダイヤモンドカッターを試験する。チェーンソーのように高速で回転する刃で切り裂く仕組みだ。


 これは上手く使うと気持ちよく切れるのだが、衝撃には弱いので取り扱いが難しい。


 試しに少し乱暴に振り回すと、簡単に壊れてしまう。そこまでの強度はないので、すぐに壊れて粗大ゴミになるだけだ。


 今日もこれといった大きな成果はないが、新しい武器の選定以外では連携や技術の習熟度が着実に上がっている。俺も武器の試験だけでなく、ホバーカーやフライングカーの操縦訓練を始めている。



 午後の訓練が終わり、寝室のベッドの上で意識を取り戻した。VR器具を頭から外して起き上がろうとすると、何故か体の左側が重かった。

 よく見ると、左腕に何か重いものが絡みついていた。


 木綿の軽いブランケットを捲ると、長い黒髪が現れる。

 澪さんが俺のベッドにもぐりこんで、眠っているのだった。なんだ、この人は?


 俺の部屋は南西に向いた窓があり、そこから夕日が差し込んでいる。いつの間にか2月も末になって、日が伸びてきたのを感じる。


 理由はともあれ、よく眠っている澪さんを起こしてご機嫌を損ねるのも気が引ける。


 別に急ぐ用事もないので、そのまま上半身を再びベッドへ沈めた。本当によくわからない人物だが、こうして黙って寝ていれば可愛いらしい女の子にしか見えない。不思議だ。


 5分ほどそうしていると澪さんの体が動いて、更に俺に強くしがみつく。次第に蝉の幼虫のようによじ登りながら体を密着させて、無邪気な寝顔を寄せる。


「こら、もう起きてるだろう、あんた」


 俺は澪さんの体をそっと引き離そうとするが、その顔を近くで見て驚いた。叱られた子供のように、泣き濡れた瞳が目の前にある。


「ああ、やっと少し眠れたよ……恥ずかしながら、あの怪獣騒ぎ以来よく寝られなくてね。精神科医が簡単に眠り薬に頼るのもどうかと思うし、まあ何事も経験だな……」


 それで今朝も、俺のベッドへもぐりこんできたのだろうか。


「夢を見るんだ。怪獣に追われる夢を。一人で走って、逃げても逃げても、追ってくるんだ。きっと優秀なカウンセラーが必要なんだろうな」

 澪さんは自嘲的に笑う。


 そうして澪さんが体を捻った拍子にその肌が俺の腕に当たり、いつものDNスーツを着ていないことが判明する。


 あ、これはまずい。そう思った時にはすっかり魔女の手の内に、俺は落ちていたのだった。



「俺は今みたいに澪さんの弱みをつくような真似は嫌なんです」

 散々澪さんの弱みを探していた俺が、一応そう言ってみる。


「ふふ、なら問題ない。隙をついているのは私の方だからな」

「いや、問題大ありですよ」


「トミー、いや清十郎。知っているか? 私は君が大好きなんだぞ」

「うう、俺の気持ちは最初から全部知っているくせに、ずるいです……」


「うん。ありがとう……」

「澪さんがあそこにいてトナカイに襲われたのも、本当はただの偶然だったんでしょ。俺を助けるために無線を傍聴したとか嘘までついて。俺を守ってくれたのは、澪さんです……」


「でも、本当に助けられたのは私とケイなのだから。それは紛れもなく、君の勇気と決断のおかげだよ」


「勇気と決断か……ところで、澪さんは俺が怖くはないんですか?」

「怖い?」

 澪さんは安心しきっているが。


「この状況ですと、俺がちょっと力の加減を誤ると澪さんの背骨がぽきんと二つに折れ曲がったりするんですけど……」


「ん、わかってるって。大丈夫、恐れず立ち向かえ、青年よ」

 俺はもっと色々なことを恐れずに立ち向かわねばならないようだった。



 それから2時間半後、何もなかったようにまた四人揃って夕飯を食べた。


 居間で軽いお酒を飲んで寛ぐという謹慎生活とは思えない優雅な時間が過ぎ、俺は自室へ引き上げた。

 一人で寝室へ戻ると、シーツに澪さんの香りが残っているような気がして突然狼狽えた。


『ゴン、今日はどうにか澪さんをミンチにしないで済んだよ』

『それは、立派だったと思いますよ』


 俺はアルコールで火照った顔を冷やそうと、冷たい水で顔を洗ってからベッドへ入った。


 眠りに落ちる直前に、扉がノックされた。返事をする前に扉が開く。


「清十郎さん、まだ起きていますか?」

 美鈴さんが部屋へ入って来る。こんな時間に珍しい。


「お願い、そのまま動かないで」

 そう言うと、俺の前で服を脱ぎ始めた。


 これもまさか、今朝の続きなのか……


 俺が黙っていると、ゴンが感慨深げに呟いた。

『ワタシの娘も立派になったものだ……』


 そして裸になると、俺の隣へ滑り込んできた。

 


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