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ミーティング

 ヒトヨンマルマルに第2ブリーフィングルームへ集合。

 そんなことを言われたら、普通の男子はその気になってしまう。


 だから、気合を入れてその部屋へ入った時の落胆ぶりはすさまじかった。


 そこは新型ゲーム機を買う金欲しさに隠れてこっそりやっていた夜間警備員のアルバイトでお馴染みの、田舎の工事現場にあるプレハブ小屋の現場事務所とそっくりだった。


 折り畳みテーブルとパイプ椅子が乱雑に並んだ汗と埃の臭いが充満する汚ない部屋で、澪さんや美鈴さんのようなうら若き女性が入るのはきっと何千年ぶりかの快挙に違いない。


 しかもこの安っぽいパイプ椅子とテーブルはノストラダムスインパクト以前の廃ビルから発掘されたような古代遺物に類する代物で、きっと何かの呪術的アイテムだろう。失われた二十世紀の呪いだ。

 

 こんな場所で行うのは会議ではなく、悪魔復活の儀式に違いない。


「入隊前の忙しい中集まってくれてありがとう。俺がこのEAST東京支部怪獣討伐隊隊長八雲だ。以後よろしく頼む」


 俺の妄想を打ち破り、例によって年齢不詳の中年男が歪んだホワイトボードの前に立ち、自己紹介を始めた。


 ホワイトボードの中央に殴り書きされた名前を読むと、視野の中に付属する情報がポップアップする。

 USMの組織表の一部で討伐部隊の文字がハイライトされていて、そこにこの男、八雲隆英の名があった。


 以下副隊長と隊長直轄の特務隊6人、それに小隊長を入れて9人編成の小隊が4つで総勢、44人の名が並んでいた。


 そこに俺の名が何故か大島晃ではなく富岡清十郎として新たに浮かぶと、組織の列が動いて新しい塊が一つ生まれた。


 部隊名は第ゼロ小隊。


 討伐隊副隊長が第ゼロ小隊長を兼務し、その下に元特務隊の2人と別の小隊から異動した2人、それに俺を含めた600億円チーム4人、計9人の名があった。


 なお、特務隊には他の小隊から二名が移動して穴を埋め、各小隊は小隊長含めて8人の編成となっている。

 これで総勢48名となった。定員50人なので、欠員2名だそうだ。しかし、俺以外の医療科学者班3人も小隊に名を連ねていること自体が驚きだ。


 同時に扉が開いて、俺たち以外のゼロ小隊メンバー5人が入室した。

 討伐隊の精鋭である。


 小隊長は討伐隊の副隊長が兼務する。その人は俺より遥かに大きい身長2メートル前後の巨体を誇る浅黒い肌の女性で、神田川日奈と小声で名乗った。


 実質的に戦闘に参加するのは俺を含めて5人。指揮官である小隊長を加えても6人。他の小隊は一人減ったが、8人いる。


「チームトミーの4人には、明日から3日間の訓練を受けてもらう」

「勝手に変なチーム名をつけるな!」

 ドクターが不愉快そうに隊長へ抗議する。


「じゃあチーム借金王、とでもしますか?」

 ドクターを一言で黙らせた隊長の八雲は、中々のやり手のようだ。


「我々支部単位で想定しているのは、あくまでも管轄内における単発の戦闘だ。そういう意味では軍より警察に近い。それに、いたずらに人員を増やしても怪獣に食われる機会を増やすだけだ。それより少数精鋭のチームで一気に殲滅するのが我々のやり方だ」

 主に、浦島太郎の俺に向かって説明してくれているのだろう。


 まあそれはいいが、チームトミーの俺以外のメンバーは首を傾げるしかない。

「あのー、私たちはトミー専属ってことで本当にいいの?」


 澪さんの質問に、八雲隊長が笑って返した。

「業務の中心はチームの仕事ですが、我々の部隊は自前の専門家部門を持たないので、ドクターを含めたお三方には、全部隊の後方で科学技術班として医療や装備を含めた参謀として全体のバックアップをお願いすることになります」


「じゃあ、一度各専門家チームの担当者と打ち合わせをしておくよ」

 ふてくされているドクターに代わり、澪さんが言った。


「お願いします。実際に現場へ出ることは少ないと思いますが、規模の大きな戦闘になれば、充分そういうこともあり得ますので」


「うん、そこは期待しているよ。でも、普段は今まで通りにトミーの世話を中心に置いておけばいいんだよね」

「はい、基本はそういうことになります」


「それから、ドクターから戴いた富岡隊員の基礎データについてですが、一度我々も検証したいのですが、可能ですか?」


 俺の基礎データだって?


『ドクターが提出したのは、8年前に行われた最終試験時のデータと思われます』

 唐突に、ゴンが俺の疑問に答える。


『おまえ、今まで俺の体のことは何も言わなかったよな?』

『聞かれませんでしたから』


『今だっておまえに聞いてないぞ……』

『ソウデスカ。脳内ノ独リ言ト、ワタシヘノ問イカケヲ、正確ニ区別シテクダサイ』

 急に機械のふりをして誤魔化そうとしている。芸の細かい奴だ。


『どうして言わなかった?』

『セイジュウロウは、既にその答えを知っているはずです』


『まさか、その方が面白いから、か?』

『ピンポーン』


『あ、頭が痛い……ひょっとして、8年前のデータと今の俺のデータは違うのか?』

『もちろん違いますよ。たぶんドクターは同じだと思っているでしょうが』


『それは、おまえのせいで能力が上がっていると考えるべきなのか?』

『まあ、大筋では正しいです』


『それは、俺が眠っていた8年間に、おまえがこそこそ何かしていたってことか?』

『ほんの少しだけですよ』


『面倒だな。どうすれば、隠せる?』

『ご心配なく。ワタシがうまく出力を調整しますので』


『それなら、8年前の4割~5割引きくらいにしておいてくれよ』

『はい。慣れない今の能力としては、その辺りがいいところでしょう』


『おい、まさかウミウシと戦った時の記録は8年前を超えていないだろうな?』

『あっ……あれは、火事場の馬鹿力ということで無かったことに……』

『できるかっ!』

 あの時の映像は既に世界中のUSMへ広がっている。


『3D映像で記録されてデータが解析されているんだぞ!』

『……大丈夫、データは想定の範囲内ですから』

『……って、今データを確認して改竄しただろ、今!』

『ソンナコトナイヨ』


『そもそも今の100%はどのくらいなんだ?……いや、聞くのは止めよう。この世界には、知らない方がいいことが他にも沢山ありそうだ』


「では明日からの訓練で、データの検証をさせていただきます」

 隊長が言った。

「ちょっと待ってくださいよ」

 俺は隊長とドクターの話を止める。ゴンと話しているうちに、妙なことになっていた。


「何でしょう」

「入隊日は明後日ですよね。その訓練も、明後日からの間違いではありませんか?」

 冗談じゃない。明日の午後は、美鈴さんとデートの約束をしているのだから。


「あれ、そうだっけ?」

 隊長は隣の副隊長に顔を寄せて小声で話している。


「うむ、そうだった。すまん。もう部屋の引っ越しは済んでいるよな? では明後日、訓練場で会おう。制服などの支給品は本日中に部屋へ運ばせる。その他細かいことは隊の掲示板やマニュアル類を確認しておくように。以上。他に何か質問はあるか?」


「ありませーん」

「じゃ、これで本日は終了でーす。皆さんお疲れさまでしたぁ~」


 まるで修学旅行前の中学生のようだ。敬礼もお辞儀も何もない。

 言うことは多少形式ばっているが、俺の知る軍や警察などの組織に比べると規律が滅茶苦茶に緩い。というか、無いに等しい。この世界らしい適当な雰囲気が強く匂う。


 この組織、本当に大丈夫なのだろうか?

 


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読みやすくなるように、ちょいちょい直しています

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