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600億円の男

「大島晃、君は当USMのEAST東京支部怪獣討伐隊にスカウトされ、編入することに決まった。今日から3日間の準備期間を経過後、怪獣討伐の最前線で活躍してもらうことになる」


 そういえば、目の前の小さい女性は折に触れて俺の近未来についてそんなことを語っていたような気がする。


「これって、澪さんが再三フラグ立てまくりやがった奴じゃないのか?」

「ゴメン」


 ああああああああ!

 もしかして、最初から知っていたのか?


「断ったら?」

 俺は恐る恐る聞いてみた。


「たぶん、断れないんじゃないかなぁ?」

 ドクターの言葉は非常に歯切れが悪い。澪さんの方を見ると、黙って下を向いて首を横に振っている。


「事情を詳しく説明してもらいましょうか?」

 一文字ずつくっきりと聞こえるように、俺は二人を問い詰めた。


「「はい」」


 ドクターが澪さんをちらりと見たが、諦めて自分が話し始めた。

「君の肉体は損傷が大きくて蘇生できないまま長く眠っていたことは話したな。具体的に言うと、損傷個所は両足、右腕、それと左目が欠損していた」


 俺は、自分の右腕を動かしてみたが、何の違和感もない。


「特に左目の傷が脳まで達していて機能不全を起こしていれば、致命的な結果になりかねない。故に、慎重に扱わねばならなかった」


 俺は右目を閉じて左の目だけでドクターを見る。特に異常はない。


「君が怪獣の腹から発見されたのが30年前で、欠損部分の手術を受けたのがその13年後、2033年のことだ。当然、執刀医は私だ」

 ドクターとはそんな長い付き合いだったのか。


「当時の技術の粋を集めた手術は成功し、君の肉体は修復された。だが、君の意識は戻らなかった」

 その時既に、大島晃の脳は死んでいたのかもしれない。


「その後私は何度も新しい技術により君の体をメンテナンスして、君の意識を取り戻そうと試みた。しかしそれは全て徒労に終わり、8年前にプロジェクトは終了し、私はUSMを離れた」

 しかし、それならどうして今俺がここにいるのか?


「君の肉体は別の場所へ移されてカプセルの中で眠っていたが、建物の補修のため一時的にここへ戻された。それが3か月前のことだ。そしてその時突然、君の脳に活動の兆候が認められたのだ」


 そこで、下を向いていた澪さんが顔を上げた。


「ほんの微弱な脳波の揺れが測定されて、ここの医療班は色めき立った。慎重に何度も測定機器を確認したけど、本当に非常に長い周期での微妙な揺れが測定されていたの。しかも、その周期が短くなっている。USMの医療班は慌てて、君がいつ目覚めても良いように、急遽ドクターと私の二人がここへ呼ばれたってわけ」


「山野さんは、それまで俺の件に関係があったのですか?」

「私は10年前にドクターがやっていた別のプロジェクトに関わっていて、それでここにいたの。ほら、鈴ちゃんと玲ちゃんが生まれた時の話よ」


 それはきっと俺の中にいたゴンが関係しているので、同じプロジェクトじゃないか~、と叫びたかったが我慢した。だとすると、美鈴さんと美玲さんはまだ10歳ということなのか。


「それで、君はここで目覚めたの。予定よりも早くて慌てたけれどね」


「でもそれが、今回の話とどういう関わりが?」

 俺の知りたいのは、そこだ。ゴンの存在は、USMにどの程度知られているのだろうか。


「君が湯島で怪獣相手に立ち回りをしたことは忘れていないよな」

「もちろんです」


 あんな異常な体験を忘れるわけがない。と言いたいが、もっと異常な体験が続いているおかげで、忘れかけていたのも事実だ。


「あれは、私が君の体に施した改造手術のせいなのだ。君の体は当時の最先端技術の実証の場として、欠損した手足と眼球を、機械に置き換えられたのだよ。いわゆるサイボーグ、という奴だ」


 俺がサイボーグだって?


 あの異常な運動能力は、付加された機械の手足のおかげだったのか。


「当初は、君の失われていた手足と視力を回復して覚醒を促すために開発した技術だった。だがその後の研究により機能を強化し続け、プロジェクト終了時には今のように強力な運動能力を持つに至った。気が付けば、君は人を超えた存在になっていたのだよ。討伐部隊が欲しがるのも当然だろう」


 まさか、その研究が美鈴さんたちアンドロイドの誕生へ繋がっていたということか。それなら辻褄が合う。だが、その中にはゴンの奴がまだ登場していない。


「トミーに渡した黒いブレスレット端末から呼び出すと、アオというアシスタントが応答するでしょ。あれは、実はあなたの損傷した脳神経を補助するために加えられた生体チップが進化したものなの。」


 損傷した脳神経? 生体チップだと?


「最初は大きな補助記憶領域を持った演算装置に過ぎなかったのだけれど、ドクターの魔改造の結果、ああなってしまった。つまりあれは、ネットワーク上ではなくあなたの体内に存在するAIなのよ」


「アオは、君の中にまだいるんだろ? アオは8年前を最後に、私たちからの呼びかけに全く応答しなくなった。おかげで、USMは自然進化により知性を獲得した世界で唯一の人工知能であると認知された生体回路型AIであるアオを、その後全く活用できずにいる。今では美鈴たちのコピーが世界中に広まっているのに、その親であるアオには接触することすら出来ないのだ」


 アオはAO。今はゴンであり権十郎だが、そういうことだったのか。

「だけど、それでは俺が依頼を断れない理由がない」


「600億円だ」

「はい?」


「君の肉体を維持し、改造し、復活させるのにかかったプロジェクトの総費用だよ」

「それがどうして?」


「USMはそれを返却するか、討伐隊で働くか、どちらかを選べと言っている」

「そんな無茶苦茶な。俺の意志はどうなるんです?」

 ドクターと山野先生は二人で下を向いて首を横に振っている。


「君の体と心のケアと日常生活を補助するために、他に3名の者が集められた。わかるだろ、正確には2名と1体だが」


「で、俺たちはもう逃げられないと……」

「諦めろ」

「諦めて」

 ああああああああ!


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