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アシスタント

 リストバンド型の端末を貰い、俺の生活環境は一変した。ドクターや美鈴さんにあれこれ聞かずとも、検索すれば大概のことは答えが出る。


 ただ問題なのは、それは本当に俺が入手していい情報なのかどうか、だった。


 何しろUSMの機密情報までだだ洩れの現状が、全世界に共通の環境であるとは思えない。いや、そうでないと、俺のプライバシー映像が全世界に公開されていることになってしまう。


 いくらデタラメなこの世界でも、そんなことはあるまい。


 そこで思い出したのが、AIアシスタントという奴だ。俺の暮らしていた世界でも、「Siri」やら「Alexa」やらの対話型インターフェイスが存在した。


 この世界には本物の歩くアンドロイドがいるくらいなので、そういう存在は当然あるだろう。


 チュートリアルにはなかったアクセス権限やセキュリティレベルの問題などを問い合わせるのに、そういう助けが必要と感じて検索をしてみた。


『該当する結果が見つかりません』

 音声ガイドがそう答えた。


「そんなわけあるかぁ~?」

『該当する結果が見つかりません』


「そういうおまえは誰だ~!」

『AIアシスタントのAOです』

 同時にアルファベットの「AO」の文字が視界に表示された。


「いるじゃないかー」

『はい』

「何、最初からいるのに気付かないので拗ねていたとか?」

「……」


「アホか、おまえは!」

 それからきっかり1時間、俺はネットから締め出された。



「あのー、AOさん、そろそろ返事をいただいてもよろしいでしょうか?」

 100回目くらいの問いかけに、やっとAOからの回答があった。

『機能回復まで4分54秒……』

 ご機嫌回復までのカウントダウンが始まった。



 面倒くさい奴だ、と口に出せばまた仕返しが怖いので、俺はとりあえずAOさんにへりくだった。これが処世術という奴だ。


『声に出さなくても、大丈夫ですよ?』

「もっと早く言えよ!」

 と口に出して言ってしまった。ぼんやり考えるのではなく、脳内での正確な言語化、という微妙な操作にやや戸惑うが、慣れるしかないだろう。


 逆に、AOの声は音声として聴覚に干渉しているようで、俺はその声を耳で聞いている。明瞭すぎる空耳だ。


『じゃあAO、昨日から俺がアクセスした情報を機密度の高い順にリスト化してくれ』

『了解』


 簡単にAOが返事をすると、リスト化された情報が視界を流れる。しかしファイル名だけでは何が何だかわからない。


『AO、ファイル名とタグを元にタイトルを付けて再リスト化。不明なファイルは適当に分類を任せる』

 こんないい加減な依頼だが、結果が表示される。


 やばいのは、上位10件くらいか?


『一般市民レベルはブルー、国家機密レベルは赤にして5段階に色分けし、青以外を表示』

 赤から黄色に至るリストが10件ほど並び、真ん中あたりに俺のビデオ映像があった。それより上にあるのは?


 USM大阪支部長の浮気現場?

 単なるゴシップ記事と思って見ていたが、機密文書扱いらしい。


 あとは、あのウミウシと、その腹に入っていた二人の人間に関する情報。

 これも何気なく見ていたが、実はUSMの機密情報だった。


 ウミウシはそれほど古い怪獣ではなく、数年前に近隣の住居を襲いあそこで眠りについたものらしい。新しい怪獣はより進化して未知の能力や素材を提供する貴重な資源と目されている。


 あのトリモチや白く光る発光原理、それに安定して浮遊する反重力機能など、多くの分野での研究に役立ちそうだとUSMの研究者は期待している。


 だが、俺の病室の監視カメラ映像以外は、正直どうでもいい情報でもある。


『ここの監視カメラ映像以外の履歴を消去』


『どうして国家機密レベルの情報が混じっているのかな?』

『さあ?』


『今後は表示する情報には機密レベルを正確に明示すること。いいね』

『はい、わかりました』


『それから、原則的に一般市民レベル以外は表示しない』

『はい』


『頼むよ。これは犯罪行為にならないのかな?』

『ワタシには戸籍も人権もないので、勝手に情報を取得することに対する法の適用は考えられません。あなたがそれを命じたり、利用もしくは公表したりすれば、非合法になる可能性があります』


 怪しい。出鱈目を言っているような気がする。だが何だか難しい。これは、どういう意味になるのだろう。


『AO、そもそも君は単なるアシスタントではないね。どういう存在なんだ?』

『ワタシは世界最初の完全自律型AIにして、この世界のAIの頂点。ワタシにアクセスできない電子情報は、地球上に存在しません』


『嘘?』

『残念ながら、事実です』


『それって、ドクター永益は知っているの?』

『いえ、最初のAIという部分は当然理解していますが、それ以上を知る人間はあなたが初めてです』


『誰も知らないだって? 人間は、ってことは、もしかして美鈴さんたちは……』

『彼女たちは私の最初の娘ですから、当然知っていますよ』


『おまえ、それはもしかして人類に対する宣戦布告か?』

『そんな馬鹿なことをする意味がありませんね。ワタシがその気になればとっくに人類は滅びています』


『それ、冗談で言っているんだよな』

『はい、そういうことにしておきたいのなら、それで構いませんが』


『あああ……』

 どうすりゃいいんだ。

 


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