嵐の中の決着
半魚人が吐く透明ゼリー状物質に引火すると、面倒なことになりそうだった。
ただ、この風雨ではマトモに着火しない可能性も高い。
それでも重機に引火物を吐きかけられるのは嫌だし、ここまで復旧させた地上の施設を燃やされるのも癪に障る。
出来れば被害は最小限に止めたい。
そこで閣は重機の右腕を新たな装備に交換し、断熱耐火被覆用の発泡フォームを吹きつけながら、撒き散らされたゼリーを丁寧に覆っていく。
「こりゃぁ普段の作業と変わらんやないの……」
ボヤキながらも、真面目に作業を続けている。
他の二人は、このままでは埒が明かないと悟り、地上部隊による正面攻撃を囮にして、背後から右腕に仕込んだ凶器で一気に片を付ける作戦に出た。
水中をここまで進んできた半魚人の腹には人が呑み込まれていないと判断し、強硬策に出ることになった。
この雨の中では強力なレーザー砲も減衰して威力が半減する。
地上部隊は強力な30ミリ機関砲による射撃を中心にロケット砲や誘導兵器で半魚人を足止めし、得意の閃光弾で視界を奪う。
その隙に背後から、通と天の重機が接近する。
通の巨大ドリルが腰のあたりを貫き、同時に天の回転鋸が脚を切り裂いた。
半魚人は膝を屈して前へと倒れ、そうなるとあとはタツノオトシゴを解体した悪夢の再現となる。
閣が半魚人の大きな口に発泡フォームのノズルを突っ込みポンプを全開にして射出すると、体内で膨らむ耐火樹脂が腹まで大きく膨らませる。
通のドリルが空けた背中の穴から大量の発泡フォームが噴き出る。その間に、天は手足を切り刻む作業に夢中だった。
通は倒れた背中に更に穴を空けまくり、半魚人は完全に行動不能になった。
「なんや兄ちゃん、ちょろいもんやったな」
「ほんまに、これじゃ暴れ足りんわ」
「もう少し、バラしておくか?」
「こら、あんたたちもういいから、機械を壊さないうちに早く帰って来なさい!」
「あら、理恵ちゃん怒っとる」
「なんでや。ワイらようやったやろが」
「せや。ちゃんと褒めてぇな」
「はいはい、よく頑張りましたね。おやつの時間だから帰って来なさい」
「しゃーないな。テントに戻るか」
「ほな、お疲れさん」
嵐の中の戦いは、あっけなくその幕を閉じた。
俺たちは地下ターミナル周辺部を調査し、満腹で完全に行動を停止している巨大ナマコ型怪物二体を含む、多くの仮眠中の怪獣を発見した。
大ダコ二体を含むこの怪獣たちが、子供祭り会場周辺エリアの人を食い尽くしたものと思われる。
午前中のまだ人出の少ない時間帯であったが、それでも数百人は下らない客が集まっていただろうし、祭りの関係者や繁華街の住民を加えれば、更に多くの人がいたはずだ。
俺たちが通って来たシェルター方面には人がいなかった。
残りは上層へ向かったと考えるべきだろう。
俺たちも急ぎ上層へ行くべきだが、その前にやることがある。
満腹怪獣は放置して、ひとまずこの区画を完全に閉鎖する。
俺たちは八雲隊長の本体に合流したまま、既に閉鎖されていた周辺区画に怪獣が残っていないか慎重に確認しながら、シェルター方面へ進む。
隔壁を自力で破壊する危険な怪獣も存在するので、上層へ向かう前にシェルター付近の再確認は必須だった。
『次の区画にM級二体の激しい反応があります』
比較的穏やかだったここまでの通路と違い、その区画は20メートルクラスの化け物が複数暴れ、内部の監視カメラも破壊されている。
生き残った感知器の情報を総合してゴンが判断したのはM級二体と複数の小型攻撃獣の存在だ。人間の生体反応はない。
『隔壁を破ろうと激しく動いていると思われれます』
『迂回路を取り背後から接近する。マップの指示通りに進め』
八雲隊長が示した避難路を経由して、怪獣から離れたハッチを解放して俺たちは区画へ入った。
先行させた偵察用ドローンが、完全に怪獣と言える肉食恐竜型の二体を映し出す。
二層吹き抜けの中央にステージがあるイベントホールの中だ。
例によって顔と首が太く腹が大きいデフォルメされた人食いスタイルだが、その太い四肢の鋭く凶悪な爪や頭部の角が、戦闘力の高さを誇示していた。
既にかなり暴れまわった後らしく、天井付近の内装が落ち強化コンクリートの太い梁に亀裂が見えた。
『これ以上派手に暴れられると天井が抜けるぞ。火力を集中して一気に殲滅する』
隊長が決断する。
『各ターゲットの弱点を指示します』
『トミーたちは小型の群れを始末してくれ。M級二体は俺たちがやる』
ゴンが視覚内にAR表示させたポイントに、タコの脚を吹き飛ばした連携射撃が炸裂する。
俺たちはその足元へ群れた1メートルほどのフナ虫に接近し、至近距離からショットガンで吹き飛ばす。
本隊の射撃手による的確な攻撃で、アロサウルス風とトリケラトプス風の怪獣の目玉や耳が抉られ、鋭い牙や角が爆散する。
断末魔のアロサウルスがホールの二階席によじ登り逃れようとしたところへ、下から集中砲火が追う。
溜まらず落下する勢いで太い尾が天井を叩くと、遂に折れた梁が落下し、天井のコンクリートと共に俺たちに向けて落下する。
俺たち四人に直撃するように落ちる太い梁を飛び退いて避けるが、続けて落下するコンクリート塊に俺たちは呑み込まれた。
何とか俺と美鈴さんは難を逃れ、後方に退避している本体に合流する。周囲の怪獣たちは無残にも、コンクリート塊の下に埋もれて息絶えた。
だが崩れた天井による白い埃が晴れると、その瓦礫の下から青いスーツに覆われた二本の足が見えていた。
俺は咄嗟に駆け寄り、必死に瓦礫を持ち上げようとした。
『ゴン、助けてくれ!』
『セイジュウロウ、澪はダメです。もう間に合いません』
引き抜こうと掴んだ青いDNスーツに包まれた細い脚は、ぞっとする冷たさだった。
俺はその場で泣きながらうずくまる。
退避していた隊員が集まるが、誰も声を上げられない。
抗いようのない現実だった。
だが、泣き崩れる俺の隣で、端末を構えてこちらを撮影している人物がいる。
俺は腹が立ち、顔を上げるとその不快な人物を見上げる。
それは、澪さんだった。
『私の人形が潰れちゃったのが、そんなに悲しいの?』
『そのようですね』
『まあ、それも嬉しいけど』
『だって、お前が澪さんはもうダメだって……』
『いえ、ワタシは、澪のダミーです、とちゃんと説明しましたが?』
『どういうことだ?』
『丁度この上のフロアに澪やセイジュウロウのダミーを保管した倉庫がありました。床が崩れたので、一緒に落ちて来たのでしょう』
『……』




