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告白

「えっと、カウンセラーの山野さんが同行していたので、詳しい話はそちらに聞いてくださいね~」

 俺はそれだけ言って疲労を理由に元の病室に引きこもり、美玲さんに背中を流してもらいながら浴室で一息ついていた。


 という妄想を実現すべく、帰還後は極力山岸小隊長や山野さんとは距離を置いて、迎えに来た美玲さんにひたすら疲労と体調不良を訴える作戦で乗り切ろうと考えていた。


 しかし、冗談ではなく本当に疲れ切っていたのだ。


 元のワゴン車の形に戻ったクルマが出発した駐機場へ帰還すると、俺は出迎えの美玲さんに本気で体調不良を訴えようとしたが、美玲さんの横には見覚えのある自動運転の車椅子が待機していた。


「ささ、早くここに座って!」


 挨拶もなく強制的に座らされると、車椅子は動きながら変形してそのまま小型のベッドになる。救急隊が患者を運ぶストレッチャーという奴だ。そうか、こいつらは同じ機械マシンだったのかと今更ながらに感心しているうちに、俺の意識は遠退いた。



「まさかと思ったけど、出来ちゃったんです」

「わ、私は知らんぞ。大丈夫だとおまえが言うから……」

「何を言っているんですか、ちゃんと責任を取ってくださいよ」

「何か月だ?」

「ちょうど3か月ですよ」

「……」

「大事な時期ですから」

「だが、君に頼るしかない」

「ひどい、ドクターはまたそうして丸投げする気ね!」

「それにしても、こんなに早くフェーズ2に達するとは」

「確かに、覚醒からまだ数日ですからね。あんなことが出来るなんて誰も思いませんよ」

「3か月前に突然呼び出された時は驚いたが、それだけ順調だということではないか」

「でも精神が追い付かないので、危険です」

「肉体的には文句のない仕上がりだ。アオの判断に我々の制御が及ばない以上、君に何とかしてもらう他ない。だが、最初に話を聞いた時には、いきなりフェーズ5が発動したのかと思って焦ったぞ」

「そうですね。アオちゃんがいきなり動いてもおかしくない状況でしたから」

「ああ、そこは君が何とかしてくれ」

「やっぱり私に全部責任を取らせる気でしょ」

「いや、私もできる限りの協力はするが、頼むよ」

「本当に、仕方ないなぁ~」

「今回は、娘たちも成長しているし」

「そうか、今日から職場復帰でしたっけ?」



 半覚醒の中で、そんな昔馴染みの男女が繰り広げる修羅場のような会話を聞いた記憶が残っている。

 それから再び眠りに入り、目を開けると涼しい笑顔が目の前にあった。


「やっとお目覚めですね、晃さん」

「もしかして、美鈴さん?」

「はい、ご心配おかけしました」


「どうしてわかっちゃうんだろうねぇ」

 後ろに隠れていた美玲さんが顔を出した。


「昨日はずいぶん活躍したらしいじゃないか」

「いや、どうしてでしょうね?」


 起きた瞬間から、今日はただ事では済まない雰囲気だ。

「おかげでドクターと山野先生は朝から調査隊と討伐隊に呼び出されて、大変ですよ」

 ということは、逆に今は安心していられるということだ。


「朝食にしますから、顔を洗ってきてください」

 美鈴さんが早速朝御飯の支度を始めている。


「美鈴さん、体はもう大丈夫なんですか?」

「はい、ドクターのおかげで、もう完璧ですよ」


「良かったな。晃の奴はボロボロ泣いていたからな」

「私のために泣いてくれたんですね」

 美鈴さんは両手を前に組んで、顔を赤らめている。


 美玲さんはそのまま部屋を出て行こうとするので、俺は慌ててその背中に声をかけた。

「美玲さん、ありがとうございます。お世話になりました」

「ふん、これも仕事だからね。私は普段上の階にいるお偉いさんたちの面倒を見ているから、ちょうどいい息抜きになったよ」


「それって、役員秘書とかそんな奴ですか?」

「ただの雑用係さ。でも看護の仕事もするから、何かあればいつでも呼んでくれ」


 美玲さんは最初に会った時とはずいぶん雰囲気が変わっている。恐らくこちらが本来の姿なのだろう。


「じゃあ、姉さんの言うことを聞いて、大人しくしているんだぞ」

 そう言って美玲さんは部屋を出て行った。


「昨日のことがあるので、今日の午前中は部屋で安静にしていてください。抜け出してはダメですよ!」

 早速美鈴さんのご指導がある。


 しかし鍵をかけて閉じ込めようとしないところが、この組織のやり方らしい。

 逆に言えば、今捕まっているドクターや山野さんを飛び越えて、昨日の山岸隊長や他の隊員たちが俺のところへ説明を求めに来ることも可能なはずだ。


 だが、誰もそうする者はいない。

 もっとも、説明してほしいのはこちらの方なのだが。


「美鈴さん、その、ごめんなさい。俺のせいでひどい目に会わせてしまって」

「いいんですよ。それに、私たち姉妹はそのために造られたのですから」

「造られた?」


「はい。わたしたち姉妹は世界最初の完全自律式ヒューマノイド型タロス。ドクター永益の最高傑作です!」


「タロスっていうのは?」


「タロスはロボットのこと。工業用のロボットや自律式のオートメーション機器などと区別して、人型のものをそう呼んでいます。ロボットと言えば一般には金属製のタロスを指します。これは、あちこちで普通に働いているのが見られますよ。でも私たちは完全ヒューマノイド型。人間そっくりのアンドロイドです」


「アンドロイド……」


 では最初に「OK!Google」と話しかけるべきだったのか……

 無駄なことを考えているうちに、朝食の用意ができたようだ。


 それにしても、二人は人間にしか見えない。美鈴さんに愛の告白をしなくてよかった、と心から思う。


 衝撃の告白はあったが朝食後は例によって眠くなり、おかげで午前中は居眠りしながらのんびり過ごせた。

 


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