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偽物と珍獣

 

『へぇ、アンドロイドもびっくりすると跳び上がるんだ。初めて見たな。この映像は記録したか、ゴン?』


『勿論です。貴重な映像デスので、きっとドクターが学会で発表するでショウ』


『ち、違うわよ。今のは予測された危機に対する正常な回避行動の一つだから……』

『なるほど。危険予測が外れて何の攻撃も来なかったと……』


 だが俺が美玲さんをからかっているうちに、本物の危険が動き始めていた。


『来るわよ!』


 澪さんの言葉が終わらぬうちにハンバーガーショップの壁をぶち割り、太いタコの脚が横薙ぎに向かって来る。


 四人は一斉に道の反対側へと高く飛び退いてその脚を躱し、そのまま空中で態勢を整えると、すぐに銃で迎撃した。


 さすがに子ダコを葬った小径弾では、脚の表面に傷をつけることすらできない。


 大ダコは店を破壊して路上へ全身を現し、俺たちへの攻撃態勢を見せる。


『半分脚を吹き飛ばされているから、こいつが例の親ダコのコピーだ。脚を再生するためにももっと人間を食いたいのだろうが、残念ながら相手が悪かったな』


 残った四本の脚が二股に分かれて、やや細いが八本足の大ダコに見える。

 しかし無残に千切れた四本脚の付け根はそのまま残っている。


『皆さんは、後方から援護を!』

 俺は破獣槌をハンマー形態にして、大ダコへ向けて突進する。


 エルザさんの手による試作品を改良してパワーアップした破獣槌は、プラズマハンマーによる一撃でこの太い脚を根元から千切るポテンシャルを持っている。


 俺は右手一本でハンマーを振り回し、左手には刃の厚いナイフを握り超振動ナイフとして使う。


 襲い掛かる脚の先端をナイフでスパスパと切り裂いて、怯んだところにハンマーの一撃を加える。一振りで二本の脚が途中から半分吹き飛んだ。


 念のため胴体部分にはダメージを与えないよう気を遣いながらも、そうして一本ずつ脚を減らしてやる。


 俺が着地の瞬間を狙われぬように、後方からはタコの眼や足先の敏感な部分へ銃弾の雨が降る。


 バイパーによる炸裂弾が退路を断つように残った足元を死角から襲い、遂には攻撃に回せる脚を全て刈り取った。


 最後はバランスを崩し横倒しになったタコの脚をナイフで斬り刻んで、料理は終了。

 破獣槌と超振動ナイフの威力の凄まじさには、呆れるだけだった。


 俺たちが大ダコと戦っているころ、南側の繁華街でも銃声が鳴り響いていた。

 きっと澪さんのやったように、子ダコを始末していたのだろう。


『八雲隊長、大ダコの料理終わりましたぁ』


『そうか、早いな。こっちも雑魚の始末はあらかた終了した。次はトンネルに隠れている中ダコを片付けに行くぞ』

『了解!』


 三つのトンネルを塞いでいる中ダコは攻撃専門なので、トンネルを破壊しない程度には派手に戦える。


 遠距離射撃の名手たちが揃えば、俺たちの出る幕はないだろう。

 俺の場合は、肉弾戦担当なので。



『澪さん、どうですか、他の怪獣は?』


『この辺は大丈夫。気配を探りながら繁華街を北の端まで調べてから、広場を横切りトンネルへ向かいましょう』

『了解!』


 俺たちも、何となくそれらしくなっている。

 あくまでも、なんちゃって討伐隊の感は拭えないが。


『ワタシたちは揃いも揃ってにせの部隊ですから……』


『偽物の人間であるアンドロイドが二人。そして大島晃の偽物とその中にいる偽機械知性。澪さんは生まれた時から歌姫の二世』


『あのね、私は本物の二世だからね!』


『でも最近の澪さんは、なんちゃって超人の偽サイボーグかな』

『母さんは偽アンドロイドかもしれませんね』

『だから、母さんと呼ぶな!』


『昔は喜んでいたのに、清十郎さんが来てからは変に気にしているんですよね』

『鈴ちゃん、そんなんじゃないから!』


『ワタシは本物のAIですが』

『黙れ。野良AIめ』


『そうだったわ。野良AIとその娘の野良アンドロイドなのよ』


『そんなことを言っていると、AIの反乱がありますよ』

『俺たちのこの会話は、既にAIの反乱じゃねーのか?』

『さあ、ドウナンデショウネ?』



 バカなことを言っているうちに、三つのトンネルを奥に見下ろすターミナルの二階部分へやって来た。


 三本のルートが分岐合流するジャンクションなのだが、交通状況により進路を自在に変更できるように、俺の知っている高速道路のジャンクションとは大きく違っている。


 見た目は広場に面した壁面に眼鏡型の横に長い穴が三つ開いているだけだ。

 クルマが左側通行なのは、ここでも同じだった。


 ここを通行するクルマの進路はAIにより個別に振り分けられて、自動制御されている。


 仮に手動運転をする場合でも、進路は視界に現れるディスプレイに従って指示通りに操作をすることになる。


 二次元の制御だけでなく、三次元的に制御されていて、浮上性能の高い車は俺たちのいる二階へ直接上がって来ることが可能だ。


 その複雑な制御をするために、この周囲は飛び切り敏感なセンサー類に囲まれている。

 そのデリケートなトンネル入口で、既に戦闘が始まっていた。



 中ダコがトンネルの奥へ逃げ込めないように、浅い位置の隔壁が閉じているのが見える。


 三隊に分かれて銃撃を繰り返し、タコをトンネル入口に釘付けにしている。

 眼鏡型のトンネルには、二体ずつの中ダコが入っている。


 トンネルの内壁は低電圧で発光する塗料が全面に塗られていて、擬態するタコの姿を影としてはっきり浮かび上がらせている。


 皮肉なことに、この特殊塗料も怪獣素材の研究から派生したものだ。


 銃撃が大きなダメージを与えられなくても、確実に少しずつ体に傷を増やしている。施設への損傷を考慮しながら闘う余裕があるということだ。


 釘付けにされたタコは落ち着きなく動き回るが、射線から逃れることはできない。

 奥の隔壁に貼り付き身を縮めている奴は、既に致命傷に近いダメージを負っているのかもしれない。


 そうして八雲隊長が長い狙撃銃を手にして、一体ずつ順に仕留めていく。


 やがて、全てのタコが路面に落ちて動きを止めた。


『よし、深度地下の隔壁を完全に閉鎖する。ターミナルの繁華街をもう一度精密探査して、怪獣の生き残りを殲滅後、シェルターへ向かうぞ』


 俺たちは眼下の三部隊と共に、ターミナルに残った怪物の完全掃討に当たる。

 ただ、最終的には澪さんの反則的な対怪獣感知能力に全部頼ることになる。


 これから当分の間、澪さんはこの街の隅から隅までを、怪獣の気配を探して歩き回る羽目になることだろう。


 何しろ世界に一頭しかいない、怪獣専門の警察犬のようなものだ。

 本人は自分がそんな珍獣扱いされる未来に、気付いているのだろうか?


 俺にはそんな恐ろしいことは間違っても口に出せないし、澪さんに読まれないよう極力心の奥底へ閉じ込めている。


 同じころ、地上の戦闘もそろそろ終盤に差し掛かっていた。



 


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