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役立たず

 

『林が行方不明者を地下へ誘導した証拠は?』

 澪さんの怒りが直接食事中の林へ向かないように、俺は体を盾にして視界を遮る。


『希薄です。幾つかのケースを積み重ねて、初めて疑惑が浮かび上がりました』

『次のターゲットは?』


『いえ、今はもう動きがありません。食事は充分取れたのかと……』

『くそっ!』


『デザートに澪でも囮にしてみますか?』

『やっぱりゴンちゃんはポンコツね。私は地下に投獄されてることになってるからダメよ』


『これはジョークです。真面目に答えられては困りマス』


 見る見るうちに澪さんの耳が赤くなるが、これに関して俺はノーコメントを貫いて無視する。澪さんには、このポンコツAIとの会話に早く慣れて貰うしかない。


『ではその怪獣がどこに潜伏しているのか、何を狙っているのか、が問題だな』

『そうです。そこまでして生かす必要のある怪獣とは、どんなものでしょうか?』


 林氏は食事を終えて立ち上がり、トレイを運んで行った。


 入れ替わりに、空いた席へ意外な人物が現れた。

 その人は、神田川日奈かんだがわひな様。討伐隊副隊長であり、俺たち第ゼロ小隊の小隊長でもある。


 日奈さんは先月タツノオトシゴに飲み込まれ最近復帰したばかりで、俺とはすれ違いになり久しぶりに姿を見かけた。


 だが澪さんは、一目見て顔色を変えた。

『あれは日奈ちゃんじゃない』


『『まさか……』』


『二人目の怪人発見!』


 林と違い日奈さんは何も怪しい行動はなく、ただ黙って食事をしているだけだった。

 しかし、林と日奈さんが怪人同士で知覚を共有している可能性がある。俺たちも、うっかりした動きはできない。



 俺たちは日奈さんが食事を終えるのを見届けると、次の行動に出るために一度アジトへ戻った。


『今日もドクターはいないのか?』


 ドクター夫妻は初日の打ち合わせ以降外出したまま、今日も戻っていない。

 定期的にゴンとの連絡は取れているとのことなので、放っておくしかない。


 美鈴さんと美玲さんは帰って来てから変装用の偽DNスーツとプラント作業員の制服を脱いで、見慣れたナース服と白衣に着替えていた。


 が、どちらもアジトの中では全く無意味な制服姿だ。

 変装を解いたらコスプレかよっ、と突っ込みたいところだ。


 或いはお医者さんごっこか。

 どうせコスプレなら、美鈴さんのメイド服姿を見てみたい。


 美鈴さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら情報交換をして、今後の行動を決める。



 美鈴さんと美玲さんの報告。


 医療と生活部門は頭出し済み。製造・生産部門はエルザさん経由で話が通っており、本日二人で顔見せが終わった。


 科学・研究職は変態ドクターの分野で、施設関連も押さえていると聞き、二人で確認して来た。


 同様に俺と澪さんの行動についても説明し、残る現業部門は施設部門に連なる建築・土木関連である。


 そこは、一番厄介な、通天閣の面倒を押し付けられている部門だ。

 当然、大阪からの助っ人にも同席して貰い直接話さねば、失礼に当たる。


「あのバカの相手は、鈴ちゃんと玲ちゃんに任せたから」

 澪さんが早々に言い放つ。


「ずるいです。澪さんは清十郎さんと一緒にいたいだけでしょ!」

 美鈴さんが頬を膨らませる。


「じゃ、玲ちゃん一人でもいいよ」

「絶対に嫌です!」


『大阪から通天閣と一緒に来た藤村さんに全部押し付けてしまえばいいのでは?』

 ゴンがこともなげに言った。


「一人で苦労している理恵ちゃんにこれ以上負担を強いるなんて、やっぱりあんたは悪魔ね!」

 遂に、ゴンは澪さんにも見限られたようである。


 だが、海馬事件で三馬鹿が乗った人型巨大重機の活躍は、忘れられない。

 地上を守る重要戦力として、今後林が行う可能性が高い妨害工作を回避する手を打っておきたい。


 海馬事件以降も真面目に働いていた通天閣の三人だが、ドクターがまた俺の肉体再生をすることになり、定期メンテナンスの日程が延期されていた。


 ある程度の余裕ができたのは更に二週間後で、そこから一週間の日程で定期保守をすることになった。


 本来は一晩で終わる定期メンテだが、今回は美鈴さんと美玲さんが三日かかったナノマシンによる肉体改造を、一週間かけて行おうという試みだった。


 ゴンが直接手を出さずにメインコンピューターの機能を借りて、ゆっくり行うことで副作用を抑えるのが目的だ。


 普段から言動がアレな三人組の副作用が一体どうなってしまうのか、怖くて慎重にならざるを得なかった、というのが正直なところだ。


 結果的には無事に三人の改造が終わり、副作用もなく機能が強化されたうえに、今後の定期メンテナンス作業も不要となった。


 メンテ後には三日の休日を貰い新しい体に馴染んだ三人は、EAST東京以外の街を観光することが出来た。もちろん、理恵さんの監視付きで。

 気を良くした三人は、再び復興の仕事に精を出している。



「仕方ない、私と玲ちゃんで行こうか」

 そこまで言った手前、自分が行かざるを得ないと澪さんは諦めた。


 それに、万が一観測者の一味があちら側にいないとも限らないので、やはり澪さんは欠かせないのだろう。



 俺と美鈴さんはアジトに残り、遠隔で地下を徹底的に調査することになる。

 俺の存在は特殊なので、下手に潜んでいる怪獣を追い詰め刺激すると、観測者に俺が檻から出ていることがバレる。


 とはいえ、潜んでいる怪獣を探すのは難しい。


 以前桜の木の下に潜んでいたカニをゴンが発見できなかったように、周囲に溶け込むように息を潜められると、発見は困難を極める。


 ちなみに、怪獣も地球上の動物と同じ酸素呼吸生物であるが、食事をしなくても長時間の活動が可能なのと同じで、無呼吸で活動可能な時間も長い。


 身体組織自体が、エネルギー密度の高い電池を搭載しているようなものだ。

 雛祭り侵攻などでゴンが怪獣を認識していた方法は、市民やアンドロイド以外の生物を調べることが主体だった。


 ドクターの作った埋め込み型のインターフェイスや通信端末、それにDNスーツの発する個人認証用の信号などを利用して人を認識していた。


 もう一つは体温だ。怪獣は変温動物で、コア部分の深度体温さえ安定していれば、肉体の温度は室温に左右される。


 地下都市で飼われている愛玩動物は電子的な認証装置を身に着けているし、ほぼ全てが哺乳類で体温が高い。赤外線により容易に識別可能だ。


 ちなみに、俺たちの身代わりとしてドクターの用意したダミーも、ドクターの発明品であるインターフェイスや通信端末、それにスーツの認証機能などで本人と同一に認識されるよう作り込まれている。


 基本的にそういった認識信号が無く、低い体温で動いている存在は、怪獣とみなしている。


 通常のカメラによる監視でそれとわかるような場所には出現しないとなると、新たな監視装置が必要となる。ま、それはそうだ。


「で、それを誰が作って、どこにどうやって設置するんだ?」


 アジトに残された俺と美鈴さんは顔を見合わせて、両手を上げる。

 俺たちには無理だって!



 


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