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戦闘

 俺は山野さんの手を引いて、先頭で階段を駆け上がった。全員が地下に降りていて、地上で待機している隊員もいない。


 すぐ後に、武器を携えた隊員たちが続く。

 地下では威嚇射撃のような、散発的な銃声が響いていた。


 警戒する隊員が見守る中、無事に隊長と今泉さんが出てきた。

「今泉君は本部へ救援要請の後、すぐに飛び立てるよう隊長機の準備をしておいてくれ。機体の攻撃準備も許可する。山野さんたちは、先に機体に乗って待機だ」


「はいっ」


 と返事をして駆けだしたのは今泉さんだけで、俺と山野さんはゆっくり後ろ向きにフライングカーの方へ向かいながらも、トンネルの四角い入口から目を離せないでいた。


 4人の隊員は入口付近に留まり、穴の中へ銃を発砲する。

「通常弾では弾力のある体表にめり込む程度で、効果がありません」

「データベースに記録のない個体です。種別・能力共にアンノウン。サイズはSM級!」


 隊員の報告に、隊長がすぐに答えた。

「よし、バイパーの使用を許可する。体の後方には生存者がいる可能性が高い。上半身を中心に狙い、できる限り頭の周辺に攻撃を集中しろ」


 隊長の命令に返事をした隊員4人が銃の弾倉を交換した。


「おお、バイパーか。誘導式の炸裂弾だね。こりゃ派手な戦闘になるぞ……」

 山野さんが琥珀色の眼をきらきら輝かせて、楽しそうに呟いた。


「あなた、本当にカウンセラーなんですか?」

「いや、こっちは趣味だから」

 どう考えても趣味の方が普段より気合が入っている。


 やがて、白いクラゲのような体が地上へ現れた。


 改めて怪獣の全身を確認すると、長さ10メートルほどの白いウミウシが1メートルほど地上から浮いて不規則に揺れ動いているように見える。さしずめ、フライングウミウシ(仮)といったところだ。


 柔らかそうな体全体、特に下側のスカートのようにひらひらした部分が、うねうねと波立っている。海にいるウミウシと決定的に違うのは、体の前面に開いた巨大な口だった。


 だが俺には、不思議と怖さを感じない。あの巨大なアオガエルに比べれば、こんなのはハエみたいなものだ。


「早く、二人はフライングカーへ避難してください!」

 隊長は自分のハンドガンの弾倉を交換しながら俺たち二人の前に出た。

 続いて、4人の隊員が鈍い音を立てて銃を単発で撃った。


 それ自体が小型のロケットのように白く細い航跡を引きながら曲線を描いて飛んだ四発の弾丸が怪物の口の後方へ当たり、小さな爆発が連続して起きた。


 首のあたりが細く削れた怪獣は大きな口を開いて咆哮を上げると、口から白いつきたての餅のような塊を吐き出した。それが一人の隊員の足元に落ちるとトリモチのようにくっついて、片脚が地面に固定されてしまった。


「な、なんだこれは。すぐに固まってしまい、動けません!」

「援護しろ!」

 隊長の言葉に、隊員が更に銃を撃つ。再び口の周囲に命中して爆発するが、ウミウシは爆風で多少変形してもすぐに元の形に戻ってしまい、大きなダメージはない。


 再び大きく開いた口がトリモチを吐き出そうとするのを見て、隊長が咄嗟にハンドガンを撃った。こちらも弾丸はバイパーに換装されている。


 大口の中のトリモチにめり込んだバイパーが爆発すると、細切れになったトリモチが周囲に飛び散り、近くの隊員たちを襲う。


「隊長、なんてことをしてくれたんですか~」

 緊張感のない非難の声が響く。4人の隊員はトリモチまみれになって、その場に釘づけにされている。餅というより、速乾性の接着剤のような性質らしい。


 ふわふわ浮いたウミウシは隊長に向けて迫る。その後ろにいた俺も、慌てた。

 思わず隣の山野さんを抱えると、そのまま後方へ思い切り跳び下がった。


 フライングカーの近くに半分腰を抜かした山野さんを下ろすと、俺は足元に落ちている瓦礫を拾い上げた。バレーボール大のコンクリート塊から短い鉄筋が何本か飛び出している。


 俺は強肩の捕手だったので、送球には自信があった。小さなモーションで送球し、盗塁を阻止する。その素早い一連の動きは血の滲むような練習のたまものだ。

 右手で掴んだその塊を、怪獣に向けて思いきり投げた。


 回転しながらうなりを上げて飛んだコンクリート塊は狙い通りにウミウシの口に命中し、顔の左側半分を吹き飛ばしながら砕けて消えた。


 思わぬ戦果に気を良くした俺はもう一回り大きなバスケットボール大の塊を右手で拾い、怪獣に向かって助走をつける。


 怪獣はやや高度を上げて、上から攻撃する態勢だ。だから俺は、負けずに思いきりジャンプをした。


 それが思わぬ大跳躍になり、一瞬にして俺の体はちょうど怪獣の真上にあった。そこから俺は手に持った瓦礫の塊を、思いきり下の怪獣の首筋に向けて投げ下ろした。


 塊が当たるとぐしゃっと嫌な音がして瓦礫と怪獣の首部分が爆発するように潰れ、完全に首から先が体を離れて前方の地面へと吹き飛んだ。


 そのままの勢いで俺は怪獣の上を飛び越してトリモチに捕まっている四人の近くへ着地した。そして、何が起こっているのかわからない四人からトリモチをひっぺがして自由の身にした。


 ここまで僅か15秒から20秒ほどの時間である。自分でも何が起こったのか理解できていなかった。

 とりあえず、固まったトリモチから解放した4人が首から先を失ったフライングウミウシを慎重に囲んで見分し、完全に死んでいることを確認した。


「タイチョー、死んでますよ、これ~」

 その言葉に、全員が緊張を解いた。

「怪我した奴はいるかぁ?」

「大丈夫でーす」

「じゃあ、応援が来るまで周囲を警戒しつつ、待機だ。今泉君も、フライングカーを降りていいぞ。……あと、晃君はちょっとこっちへ来い!」


 俺は、怪獣の倒れている横から隊長のいる方へとぼとぼと歩く。

 隊長の右には今泉隊員がいて、左には山野さんが立っている。

 先生に叱られる子供のように、俺はとぼとぼ歩いた。


「おい、なんだか知らねえがアキラ、おまえ凄いな!」

「きゃー、トミー。かっこよかったよ~。びやーんと跳んで、ばすんと仕留めちゃったねぇ!」

「ほんと、なんですか、今の技は。忍者ですか?」

 我を失っているのは俺よりも、3人の方だった。


「いやー、あんなの初めて見たっす」

「バイパーの効かない怪獣を素手でやっつけるなんて、サイコーっすよ!」

「新しい重力制御技術ですか? それとも電磁カタパルト?」

「いや、カンフーの技みたいだったぞ。発勁とか気功とか、そういう奴じゃないのか?」

 3人だけじゃなかった。


 周囲を警戒するはずの4人も俺の周りに集まってきて、大騒ぎになった。



 討伐部隊の応援が来て、怪獣の死骸を運ぶ大型のキャリアも連れてきたので、俺たちはお役御免で帰還することになった。


 実況見分などがあるかと思ったが、現場は3D映像で克明に記録されているそうで、余計な質問は受けずに済んだ。


 というより、逆に何が起きたのかこちらが聞きたいくらいなのだが、知ってか知らずか俺が他の関係者とマトモに話をする機会もなく、連れ戻されることとなってしまった。



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