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カレーライス

 

 俺たちは再び地下の広場へ戻り、茶屋のような場所で休憩した。


 今日は特に用事もなく明るいうちに上野へ帰投すればよいので、のんびりとしたものだ。

 以前、夜逃げのようにこっそりと村を出たのとは大違いだ。


「それにしても、前回来た時とはずいぶん皆さんの印象が違うというか、歓迎され過ぎて困惑気味というか……」


 俺は思っていたことを、そのまま村長の正三さんへぶつけてみた。


「いや、あの時は雷獣の件もあり電気柵も使えず無防備な中でキャラバンへとの通信もできず、村は孤立して大きな不安を抱えていました」


 確かに、猟犬を連れて銃を構えていいた偽村長の隆二さんは、かなり緊張感が顔に出ていた。


「悪い時に来てしまい、お騒がせしました……」

 俺が頭を下げると、正三さんは慌てて手を振り言い足す。


「とんでもない。厄介な雷獣を倒してくださり、願ってもないグッドタイミングでした。こちらこそ、ろくなもてなしも出来ず、すみませんでした」


「あの時は鈴ちゃんが倒れて、私たちも余裕がなかったんです。でもそれにしても、あの時の江戸時代の村みたいな雰囲気は異質でしたが……」

 澪さんも俺も、あの時のタイムスリップしたような異様な経験を忘れられない。


「山野さんは、心を読む魔女と呼ばれる臨床心理療法士だと聞きましたが、3月の時はそんなに変な村でしたか?」


 そもそも正三さんを含めたこの村の人間は、俺たちの正体について何も知らなかったようだ。


 雷獣退治後にキャラバンがやって来て顛末を聞き、おったまげたらしい。


「恥ずかしい話ですが、あのころ村は雷獣の存在に追い詰められて緊張し、最大限の警戒をしていました。だから正直なところ皆さんをどう扱えばよいのか、本当に困りました……」


「まあ、確かにこんな得体のしれない三人組が突然やってくればねぇ……」


「ですから、今回の花見も、実は理恵さんに無理を言って声をかけて貰ったんです。本当に、また来てくれてありがとうございます」


「いえ、こちらこそ、あの時はわたしが突然倒れてご迷惑をおかけしました。皆さんのおかげで、こうして動けるのですから」


「美鈴さんが元気になられて良かった。今度は妹さんも一緒に来てください」

「ああ、あの人はちょっと……」

 俺はついつい不安が口に出た。


「鈴ちゃんの妹は、ちょっとやんちゃ者で、清十郎は苦手にしているんですよ」

「はは、それなら余計に、お会いしてみたいものです」


「一応この魔女の一番弟子ですよ。やめておいた方がいいと思いますけど……」

「富岡さんにも苦手があるんですね。それは面白い」

「いや、ほんと。迷惑を絵に描いたような人ですから」


 話の流れが間違ってもドクターや通天閣に及ばないよう、この辺で話題を変えたいところだ。


「そろそろお昼の支度を始めましょうか?」

 中央の広場から歩いてきた若い女性が、正三さんに声をかける。


「子供たちに勉強を教えている姫野と言います。今日はこれからみんなでカレーを作ろうと張り切って始めたところなのですが、一緒に行きませんか?」


 つまり、彼女は学校の先生らしい。

 若くて美人の先生に誘われて、NOという理由がない。


 にやけている俺の脇腹を両側からつつかれるが、気にしない。

「ぜひご一緒させてください!」

 俺は勢いよく立ち上がる。


「はいはい」

 両側の二人も暇だったので異論はない。



 校庭の隅に小中学生合わせて10人が集まり、ご飯の支度をしている。

 田舎の分校のような小さな木造校舎が、いい雰囲気を出していた。


 もっと幼い子供や母親たちも集まり、結構な賑わいだ。昨夜の酒盛りでは目立たなかったメンバーなので、配慮してくれたのかもしれない。


 俺たちも一緒に村で収穫された野菜を切り、カレー作りを楽しんだ。

 美鈴さんと上野の広場で出会った保育園の子供たちを思い出す。

 だがこの村にはタロスもアンドロイドもいない。


 恐らく子供たちには美鈴さんのことは内緒にしているのだろう。でなければ大人気で囲まれているはずだ。


 大鍋にはぶつ切りの肉が大量に投入されて、じゅうじゅうといい音がし始めた。

「今日は何怪獣の肉ですか?」

 俺が隣で手伝っている若い母親に聞くと、笑われた。


「今日はイノシシカレーですよ。うちらもそう毎日怪獣ばかり食べてるわけじゃないから!」


「そう、期待に応えられなくて悪いけどね」

「昨日は花見だから、特別さ」

 どうやらそういうことらしい。


 なおも話を聞いていると、怪獣の肉は普通の獣肉と違い腐敗しにくいので、キャラバン隊が昔から常食としていたらしい。


 村では周囲に野生の獣がたくさんいて、家畜も飼っている。怪獣食はそんなにメジャーではないそうだ。


 村を囲む電気柵も野生の動物から村を守ることが主目的で、怪獣避け、という意味は小さいそうだ。


 しかし鍋で炒めるイノシシ肉の美味そうな匂いが漂うと、そんなことはどうでもよくなる。


 別の鍋で炒めていた玉ねぎが投下され、俺たちの切った根菜類も入ると、手が空いたものが手早く片づけを始める。

 手際の良さには感心する。



 子供の舌に合わせた甘口のカレーが完成し、木製のベンチとテーブルで食べる。


「ところで、まさかカレーのスパイスもここで造っているんですか?」

「ああ、それは好きな人がいて、色々栽培しているのよ」


 嗜好品の類はキャラバン隊が街から運んでいるようだが、果物やハーブなどはかなりの品種を育てているらしい。


 野性味あふれる肉をスパイスが優しく包んで、野菜の甘みと共に極上の味に仕上がっている。

 とても贅沢で、穏やかな時間が過ぎた。



「では、今日のところはこれで失礼いたします」


 俺たちは村の中央広場へ戻り、フライングバイクに乗り込んだ。

 土産に貰った怪獣肉を大量に積載したバイクが、ゆっくりと垂直上昇する。


 これは通天閣と焼肉をするために確保した肉なので、美鈴さんが確保した新種のサンプルとは別にされている。


 さすがにこいつがバレると色々問題になるので、イノシシやシカの肉の間に偽装して、慎重に保温ケースへ保管した。



『さて、明日からまた仕事だな』

『わたしたちは当分、医療班のお手伝いですね』


 討伐隊の三分の一はまだ病院から出られないし、民間人の被害も多く医療関係者は多忙だ。


『どうせ清十郎は訓練でしょ』

『なんか、その言い方には棘がありませんか?』


『仕方ないじゃないの、本当のことだから』

『ううっ……』


『清十郎も通天閣と一緒に穴掘りでもすれば?』

 そんなことを言われても、あのバカげた巨大重機に俺一人で対抗しても無意味だ。


 


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