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山村の宴

第四部開始です。

これが最終章、完結編となります。

約一か月、毎日投稿の予定ですので、よろしくお願いいたします。

 

 浅間高原の桜も、ちらほら咲き始めたとの便りが届いた。


 見ごろを迎える数日後に花見の宴を催すので来ないかと、キャラバンの浅間本隊長である唐原泉からはらいずみ嬢からのご招待である。


 場所は群馬県嬬恋小山田村ぐんまけんつまごいおやまだむら。まだ雷獣事件から一か月も経っていないが、ずいぶん前のことに感じる。


 全快から数日で破壊されてしまった俺の右腕は、ドクターと修復方針で揉めた末に、約3週間の入院でどうにか動けるように戻っていた。


 花見の宴には雷獣退治で共闘した武装商隊のメンバーたちも集まるというので、フライングバイクに三人乗って、浅間高原を目指した。


 澪さんの直訴によりドクターが改造したDNスーツの機能とゴンが合成した乗り物酔いの薬の効果により、澪さんも通常の移動だけなら何とか頑張ってバイクに乗れるらしい。


 そのフライングバイクも怪獣との戦闘により大破していたのだが、エルザさんのチームが整備して元通りになっている。


 こうして考えると、あの夫妻には多大な苦労を掛け、何度もお世話になっているのだな、と思う。

 まあ、エルザさんはともかくドクターの場合はそれがどうした、ってことなんだけど。



 俺の肉体は数日前にやっと修復作業が終わったばかりで、その後の検査も無事済んで自宅へ戻ったのは、出発の前日だった。


 俺と澪さんと美鈴さんはどうにか予定をやりくりして、三人揃って宴に参加できることになった。


 バイクを飛ばして午後明るいうちに現地へ到着したのだが、澪さんはかなりのダメージを負っていた。


「うえっ、気持ち悪い」

「いや、でもよく我慢しましたね。あとは降下するだけですから」


 村人を脅かさないよう高空から接近し、静かに垂直降下して偽村長だった小山田隆二さんの家の前に降り立った。



 久しぶり、というほどでもない小山田村は、遅い春を迎えていた。


 隆二さんの家と俺たちの宿泊した建物のある村の中心部にはちょっとした空き地があり、そこには三本の枝垂桜しだれざくらの古木があった。


 元々この場所は遺棄された山村の跡地で、そのころから村の中心にあった桜の古木らしい。3月に来た時には、そんな木があったことすら記憶にないのだが。


 上野で花見をしてからちょうど一か月遅れの満開である。


 濃いピンク色の花を全身に纏った立派な枝垂桜しだれざくらは、高原の遅い春を待ちわびた村人の思いを汲んだように艶めき、妖しく咲き誇っていた。



 しかしそんな桜の花よりも、その場に集まった大勢の人の姿にまず圧倒された。

 前回の訪問ではほとんど出会わなかった大半の村人に加えて、近隣の小村やキャラバン隊のメンバーが何十人も集まっているという。


 なんと、二百人近い人間が地上にひしめいている。


 村の中央にある空き地に収容しきれる人数ではなく、村中あちこちにキャラバンのテントが並び、桜の木が植わっている何か所かでは地面に敷物が広げられ、既に宴が始まっている。



 俺たちは枝垂桜のある中央広場に呼ばれて、そこに並んでいる料理に度肝を抜かれた。

 広場に並んだ小さな屋台が競うように、素材の由来や料理の名前を大きく掲げている。


 そこで調理され、皆が自由に食べていたのは、あの雷獣を含む多くの怪獣肉を使った数々の料理だった。


 まさか、怪獣の肉が本当に食えるとは。


「念のため、わたしが毒見をしますね」

 美鈴さんがそう言って一人で走り去り、料理を覗き見しては片端からひょいひょい口に運んでいく。


 岩盤焼きや串焼の肉に北関東伝統の鍋料理、それに中華料理やシチューにケバブなど、あらゆる料理を片端からつまんで回る。


「ご安心ください。ここに並んだお料理は、日本在来種の動物を含め全て人畜無害です」

 美鈴さんは以前ここで行われた緊急的な肉体改造のあおりでしばらく言動がおかしかったのだが、施術に要したのと同じ72時間後には元の状態に戻っていた。

 美玲さんの場合にはずっと同じようなものだったけど。


「一種類だけデータベースにない肉を検出しましたので、あとでヒアリングをしてサンプルを持ち帰りたいと思います」


 美鈴さんが何気なく報告するが、そんなレアモンスターを食べてしまって良いのだろうか?


 そういえば以前、ゴンの奴は生きている怪獣の内部組織からエネルギーやマテリアルを補給するなどとほざいていた。


『そうです。実際に倒した怪獣の死体からそれらを回収していれば、今後生命力の枯渇により行動不能になる心配はありません』


 あれは冗談ではなかったのか。


 しかも、通常の消化器系による食物摂取とは異なる何か乱暴な方法での補給を考えていたようだ。あまりに恐ろしくて、それ以上は聞けない。


 しかし普通に食べてみれば、怪獣は美味いのだった。

 こんなに美味いのなら、もっと早く食えばよかった。

 今も大阪へ帰れず仕事を続けている三馬鹿にも、食わせてやりたいものだ。


 何故か肉好きのドクターにも、という発想は生まれない。不思議だ。


 こっそり怪獣肉を分けてもらい、帰ったら大阪組のキャンプで怪獣バーベキューでもやろうか。

 略して【怪バー】か。

 間違いなく、ネーミングセンスが最悪だと馬鹿にされるだろう。



 怪獣の体は、地球の動物と同じような細胞からできている。

 だが、そこに遺伝子は存在しない。怪獣は繁殖しないのだ。

 野菜の種のような一代限りの交配種ともまた違う。


 怪獣は個体しか存在しない生物で、細胞内にはブループリントと呼ぶ固有の設計情報を持つらしき物質が存在する。


 しかし地上の生物と違い、そのゲノム情報は殆ど何も解読されていない。

 内容だけでなく、DNA情報のように部分的に切ったり貼ったりということすら出来ない。


 死んだ怪獣は自然界では腐敗しにくく、肉体に組み込まれたプログラムにより自壊すると考えられている。


 ただ地上の動物よりも細胞自体の生命力が強く、特殊な条件下では人工的な組織培養が可能で、それにより生体組織を利用した新技術が次々と誕生した。



 ゴンによれば、地上に現れるほぼ全ての怪獣は人間が食用にできるらしい。どうやって消化するのだろう?


「でもさ、これだけの怪獣肉を街で売ったら一体幾らになると思う?」

 澪さんは別の意味で涎を垂らしそうだ。


 だが村人やキャラバンの面々にとって、これは特別な贅沢ではない。


「我々もUSMへ怪獣素材を売って生活していますが、怪獣食は森の民にとっては伝統ですので、全てを売却することはあり得ませんね」


「そうです。この森で50年以上もこうして暮らしてきたのですから。普段遭遇する野生動物や怪獣とは、まさに食うか食われるか、という文化なのです」


 これは、俺が聞いていた自然派集落のイメージとはずいぶんかけ離れている。


「周辺にある小さな自然派集落でも、そんな感じなのですか?」


「森では野生動物が増えているので、怪獣に遭遇する機会は意外と少ないのです。自然派集落では、既に地球産の動物と怪獣とを区別すること自体が無意味と考える人が増えています」


「つまり、怪獣も自然の一部だと……」

 それは、俺たちUSMの存在意義にも関わる思想なのかもしれない。


 グランロワが目指すのは、自然派集落の思想なのだろうか?


『セイジュウロウ、そういうことを性急に考えてはイケマセンヨ』

 ゴンに忠告されて、俺は我に返る。


 そうだ、今日は宴会だからな。楽しまなければ。


 


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読みやすくなるように、ちょいちょい直しています

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