部長は忙しい
俺が部活に顔を出すと、珍しく全員が揃っていた。
来たい時に来る、という雰囲気の漫画・アニメ研究会では、全員が揃うことは滅多にない。
部内一のレアキャラの凛堂すずも来ていたので、俺は首を傾げた。
「なんかあったの?」
「いや、特になにもないです。珍しく全員揃ったのでこっちも驚いてます」
凛堂さんと伊月さんは机でたくさんのイラストを広げているし、弥生は何かを熱心に書いていて、夏川さんとジルさんはアニメ関連の本を熱心に読んでいる。
すごく漫画・アニメ研究部っぽい光景に、俺は少し感動した。
感動していると、弥生がおもむろに立ち上がって前に立った。
副部長になった夏川さんも緊張したような顔で前に立つ。
「ちょっと注目。今日は部員全員いるから、部室改造計画について話そうと思うの。参加できない人はいる?」
見回したが、どうやらいないようだった。
弥生は頷くと、備え付けのホワイトボードに部室改造計画、と書いた。
「じゃあ、計画を立てます。意見がある人はどんどんどうぞ!」
俺が理想の部室を考えている間に、元気よく手が上がった。
「どうぞー、すずちゃん」
「私は本棚とショーケースっぽいものが欲しいです! あと、欲を出せば着替え用のカーテンか何かで仕切ったスペースも!」
その意見を発端として、部室改造計画は盛り上がりを見せた。
「わ、私は、ポスターを貼る用のスペースが欲しい、です……」
「僕もその意見の賛成。あとは、備え付けのテレビもあるといいです」
「鍵付きの棚が欲しいです! ロッカーとは別に、俺の道具とかすずの衣装とかをしまえる場所を作りたいです」
「俺は推しを崇めるための神棚を作りたい」
「じゃあモカちゃん用のも作ろっと」
こんな感じで、混沌に混沌を極めた結果、意見がホワイトボードいっぱいに書き込まれた。
満足そうな顔をする面々を見て、弥生は苦笑いを浮かべる。
「今年度私たちが使える予算は八万円と部長会議で決まりました。設立資金用に五万円、同好会の支給額三万円です。部費を集めればもう少し増えますが、まずは改造をしましょう。ホワイトボード、机、椅子は備え付けでありますし、足りなかったら倉庫から借りられます。ではまず、本棚は必要だと思いますか?」
「「「「「思います」」」」」
満場一致で設置が決まった。
しかし、本棚も安くはない。限られた予算をうまく使うのは、上級生の腕の見せ所だ。
さっき弥生が懸命に何かを書いていたのは、予算配分らしい。
「では次、ショーケースは必要だと思いますか? プラモデルやグッズを飾るためのものですね」
弥生はみんなの意見を聞き、採用したり切り捨てながら予算内での計画を組み立てる。
……弥生には絶対に人間をまとめる才能がある。
わあわあ言い合いながら議論を進め、ホワイトボードが綺麗にまとまった時には、購入するものが決まっていた。
「はい、では、購入するものは本棚二つ、金庫三つ、中古のテレビ一つ、鍵付きショーケース一つに決まりました。すずちゃんの着替えは当分の間は文化部用の更衣室でお願いします」
「「「「「はい!」」」」」
俺の出した神棚案や冷蔵庫案は却下されたが、ショーケースもあるしこれで住み良い部室ができると思う。