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ユニバーサルすぎる

無事、部活設立届と三人分の入部届を出した俺たちは、部活棟の三階にある広めの部室をゲットした。

部室の備品は折り畳みの会議用テーブルとパイプ椅子とホワイトボードしかなかったが、これから少しづつ模様替えをしていこうと思う。

ということで、今部室には部員三人が突っ立っている。


「わわわ、ぶ、部室ですね……」

「なんか部活っぽくていいね!」

「そりゃあ部活だからな」

「そうだ、このあとどう部室改造しよう?」


喜びと達成感によって意味のない会話を交わしていたが、弥生の一言に、俺たちは考え込んだ。


「F9のグッズとか原作とかを置きたい」

「私はモカちゃんを崇めるための神棚が欲しいな」

「え、えと、アニメミュージアムのようにアニメ年表や名作アニメのポスターを貼るのは、ど、どうでしょうか……?」


俺含め、部室改造計画の案はそれぞれの本性が出ている言葉だと思う。

この先新入部員も入るかもしれないので、部員が揃ったら改めて改造しようという話になってその日の活動は終了した。





しばらく三人で平和に活動をしていたが、その日常に変化が現れたのは数日後。入学式が終わり、一年生の部活動見学期間が始まって、なんとこんな部活棟辺境の部活にも見学者が来てくれたのである。

それも、超ド級の。


「失礼しまーーーーす!!」

「私たち、入部希望です! うわあ、なんかモデルさんがいる!」

「伊月、凛堂、うるさい。失礼だ」


三人の一年生を見て、俺たちはまず固まった。

言動を見る限り、三人のうち少なくとも二人は紛れもない陽キャだったからだ。

軽度の陽キャ恐怖症を発症している俺は軽くパニック状態になった。


この部活って、オタク陰キャが楽しくオタ活する部活じゃなかったっけ? 陽キャが何の用? 罰ゲームですか?


俺と夏川さんは同じ思いを共有していまだ硬直していたが、弥生は一番早く復活した。


「えっと、三人は見学? 入部希望?」

「「「入部希望です」」」


マジかよ。


衝撃により硬直が解かれた俺は、信じられない思いで一年生を見つめた。

偏見込みで、絶対バスケットボール部とかに入りそうなイメージなのに。

俺は恐る恐る、一年生に聞いてみた。


「えーと、入部を希望する理由を教えて欲しいです」


後輩相手にも敬語になるのは、陰キャの習性だ。

俺のやや失礼な質問に対して、一年生は笑顔で答えた。


「俺は漫画が好きなんです! 特に異世界転生モノとスポ根(少年漫画とかでよくある熱血系スポーツ漫画)モノが好きです! 少年漫画を読むのが趣味…」

「翔也は実は人気同人作家だもんねー!」

「おいすず、それは誰にも言わない約束だろ」

「二人とも、問われているのは入部希望理由だ」

「改めて、俺は漫画が好きだから……あと、二次創作の漫画をより上手く描きたいからです!」


そのひと文を言うために、どうしてそんなに騒がないといけないのかはわからないが、とりあえず翔也と呼ばれる人が凄い人なのはわかった。


「私はコスプレが趣味で、コスプレの研究をしたいからここに来ました! あ、もちろん漫画もアニメもゲームも小説も好きです! 特にドリーマーアイドルズのれいれい推しです! よくれいれいコスするんですよー。よかったら皆さんもコスプレしませんか? 私が協力します! 」


三人のうち、唯一の女子もまた、凄い人だった。

コスプレイヤーってカッコいいと思う。少しだけ陽キャに対する好感度が上がった。


「僕は日本の漫画やアニメが好きなので入部を希望しました」


淡々と述べるこの一年生は、金髪碧眼のザ・ハーフ。そして、イケメン。

入部理由だが、海外でも日本の漫画人気というのは本当らしい。


あまりに個性的すぎる新入部員に対して、非凡な美貌を持つ弥生も、非凡なアニメ愛を持つ夏川さんも負けていないのだが、コスプレイヤーと同人作家と美少女とイケメンハーフがいる部活って……と思うと、なんだか別次元のような錯覚がする。

一言でいえば、凄い。


「なるほど……なんか、いろんな意味でユニバーサルな部活になったね! 入部届、受け取りました。そうだ、三人の名前聞いていいかな?」


ユニバーサルの一角を築く弥生がそう言うと、三人は順番に名前を述べた。


「俺は伊月翔也いつきしょうやです。よろしくお願いします!」


伊月さんは、いかにもサッカー部という見た目の日に焼けた長身の一年生。

これで人気同人作家というのだから、人は見かけによらない。

絵が上手いって、オタク的にはS級スキルだ。今度教えてもらいたい。


「私は凛堂りんどうすずです! さっき言った通りコスプレイヤーです。よろしくお願いします!」


凛堂さんは、ショートカットにぱっちりした目の一年生。そこそこ美人。

詳しくはないが、コスプレ映えしそうだという感想を持った。


「ジルヴェルト・ルイスです。五歳から日本とアメリカを行ったり来たりしているので普通に日本語話せます」


ジルヴェルト……長いからジルさんでいいや。ジルさんは、さっきも思ったが金髪碧眼のイケメン王子的な一年生。

いつかファンクラブできるんじゃないか? と思うが、絶対そういうものを迷惑がるタイプだと思う。


少しだけ三人のことを知れた今は、陽キャ後輩に対する恐怖心よりも、この後輩と部活をできる楽しみさの方が勝っている。

この先どうなるかはわからないが、今は期待してもいいんじゃないかと思う。

また楽しみな要素が増えた。双子が引っ越してきてから、毎日が少しだけ楽しくなった気がする。


緊張しながら一年生とはじめての部活動をしている間、俺はそんなことを思っていた。

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