ファンクラブ設立
クラスメート全員の自己紹介が終わると、今日の予定を伝えられて休み時間となった。
今すぐにでも寝たい。騒がしいクラスメートと対照的に、俺はげっそりとしていた。
ただでさえ注目を浴びることに慣れていないのに、双子や橘のおかげで俺は非常に目立ってしまった。慣れないし、怖いし、精神力がもたない。
フラフラしていると、また一人、うるさいやつがやってきた。
「姉さぁぁん!! 」
「あ、飛鳥。どうしたの?」
「大丈夫だった!? 変な人に絡まれなかった!? もう姉さんがいないと辛くて死にそうだよ……!」
「飛鳥は私の大事な妹だから、ちゃんと生きてね」
「わかった! はぁぁ……姉さん天使すぎる……」
飛鳥はいつもはクールキャラ(たぶん)なのだが、弥生絡みになるとキャラ崩壊が酷い。さすがは筋金入りのシスコンである。今もうっとりとした目で弥生を見つめている。
飛鳥は一通り弥生を堪能したあと、思い出したように顔を上げた。
「そうだ、姉さんファンクラブ設立していい?」
「ファンクラブ?」
「そうそう。「秋葉弥生を愛する部」を作ろうと思って。部長は私。副部長は真弦。名誉部長は姉さん。入部希望者はいっぱいいるよ」
「私は別にいいけど……」
「ちょっと待った!」
何で俺が副部長なんだよ。
そして、ファンクラブは部活ではない。
最後に、名誉部長って何だ?
その三点を訴えようとしたら、飛鳥に睨まれた。テレパシーを受信でもできるのだろうか。
「真弦は姉さんが嫌いなの?」
弥生のことは友達として、オタク仲間として、普通に好きだ。仮に嫌いと言ったら間違いなく社会的に殺される。シスコン怖い。
「そんなことはないが、他にも副部長やりたい奴なんてたくさんいるんじゃないか?」
橘とか。
余計な恨みを買うのはごめんだ。
「いや、抜け駆け禁止とか、部内のルールを作ろうと思うの。副部長が姉さんガチ勢だったら作れるかわかんないじゃん」
「最高権力者がシスコンで務まるんだから大丈夫だろ」
正論だったようで、飛鳥は押し黙った。
今飛鳥の頭の中は副部長候補者でいっぱいになっているに違いない。
その中から適当に選べば俺の陰キャライフは守られるし、そいつも幸せだし、まさにウィンウィンだ。
「えーと、なら、私が名誉部長兼副部長でどう?」
「姉さんにそんな下等な役職は似合わない」
「どう考えてもいろいろおかしいだろ」
弥生の提案は秒で却下された。
そして、飛鳥の目が焦点を取り戻した。
「やっぱ副部長は真弦で」
「なんでだよ」
「第一に、姉さんに過度に近づかない。第二に、私のライバルにならない。第三に、便利」
「心の声ダダ漏れじゃんか」
便利とか言われるのは、俺悲しい。
というか、ライバルを増やしたくないのならファンクラブなんぞ作らなければいいのに。
「ファンクラブってまず必要か?」
「ファンクラブは、ファンに対する規制と裏切り者に罰則をかけることと、姉さんを守るためにあるから。まあ……姉さんの魅力を語り合ったり、姉さんを拝んだりもするけど」
「確かに少しだけ部活っぽいな」
どちらかというと宗教団体……、という言葉は伏せておいた。
「ねえ、お願い! 副部長になってくれたら、真弦のお願いも一つ聞くから」
「じゃあ、来月のF9五周年記念イベントの物販の列に並ぶのを手伝ってほしい」
「いいよ!!」
飛鳥より先に弥生が反応した。
まあ当然だ。五周年記念イベントはファンタジーナインの未公開シーンのお披露目、物販、トークショーなどととても気合が入っていて、俺も告知された日から興奮で二日は眠れなかったくらいだ。ファンタジーナインオタクの弥生が喜ぶのは当然。
「え……また人混みの中をよくわからないフィギュアのために数時間も並ぶの?」
「そうしたら副部長になる」
「頑張るわ……」
飛鳥はイベント経験済みらしい。フィギュアの魅力がわからないとは、まだまだだな。
げっそりとする飛鳥の横で、弥生が何かを閃いていた。
「あっそうだ!! 私と真弦でさ、ファンタジーナイン研究部つくらない?」
「その話、乗った」
学校でもファンタジーナインを愛でられる。もしかしたら、仲間も見つかる。
……素晴らしいじゃないか!!
そうして、俺はファンクラブの渋りようが嘘のように快諾した。
……ちなみに、この西大芝高校は兼部は可能だが、部長や副部長を兼ねることはできない。
だから、F9研究部にはもう一人副部長になってくれる部員が必要なので集めないといけない。
帰宅部の俺は、なんとファンクラブ副部長とF9研究部の部員になってしまった。オタクぼっちの進化具合が素晴らしい。
良くも悪くも、これから忙しくなりそうだ。