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双子の美少女が引っ越してきた

今日は朝から家の周りが騒がしい。


家の外の騒音に起こされた俺は、窓の外を見て、アパートの隣の部屋に誰かが越してきたことを知った。

母さんと父さんは新しいお隣さんに興味津々だが、俺は隣人にそれほど興味はない。

そんなことより、今日は春休み真っ只中。せっかく朝寝坊できるんだから、二度寝をしない手はないだろう。

もう一度ベッドに潜り込んだ俺がもう一度起こされたのは、数時間後だった。



真弦まつる! 起きて。お隣さんに挨拶しなさい。」


親に起こされた俺は、不機嫌になりかけていた。

挨拶? そんなもの親同士ですればいいじゃないか。

この隣人は何度俺の眠りを妨害すれば気が済むのだろう?

なんて心の中で毒づきながらも、俺はちゃんと着替えて顔を洗う。我ながら自分の従順さを褒めたい。

二度寝したおかげで、眠気はだいぶ取れていた。

ドアの外では父さんが隣人と話しているようで、少しだけ声が聞こえてきた。

聞こえてくる話し声が途切れたところで、ガチャッとドアを開け、俺はドアから顔を出した。


「あ、はじめましてー!お隣に越してきた秋葉です!」

「どうも、はじめまして……」


アパートの廊下に広がる意外すぎる光景に一瞬俺の思考は停止した。

引っ越してきた隣人は、紛れもない美少女だった。それも、二人……というか、おそらく双子。年齢は俺と同じくらいか年下だろうか。

俺の語彙力ではうまく美しさを表せないが、芸能人と言っても通じると思う。

おじさんかおばさんだと勝手に思い込んでいた俺は拍子抜けするが、すぐに気を取り直した。

そういえば……なんか不自然な光景だと思ったら、二人の親の姿が見えない。


「あの、親御さんはいないんですか?」

「親は事情があって別の場所に住んでます。なので、ここでは私と妹で二人暮らしなんです」

「……そうなんですね」


別に今の会話に気まずい要素はないのだが、なんとなく会話が続かず気まずくなる。

なんとなくお互い愛想笑いをしていると、救世主、母さんが登場した。

母さんは双子の美少女を見ても驚くそぶりを見せず、持ち前のコミュ力を発揮した。


「はじめまして、お隣に越してきた秋葉です!」

「こんにちは、はじめまして。可愛いご近所さんができて嬉しいわ。あら、もしかして二人暮らし? 」

「あ、はい、そうです。親は事情があって別居しています」

「あら、そうなの。隣だし、何かあったらいつでも頼ってちょうだいね。」

「お気遣いありがとうございます。あ、そうだ、これ、もらってください」


そう言うと隣人は手に持っていた紙袋を差し出した。


「引っ越しの挨拶って、何を渡せばいいのか分からなくて、無難なものになってしまいましたが……。もらって頂けると嬉しいです」

「ありがとう。有り難く頂くわ。」


母さんは笑顔で受け取ると、ハッとした顔をした。

この顔をする時は、だいたい自称名案を考えた時だ。嫌な予感がする。


「もうお昼だし、引っ越しの荷物もまだ片付いてないわよね。良ければうちでお昼ご飯を食べて行かない? これのお礼も兼ねて」


出たー!!! 母さんの突拍子もないアイデア!

こういう誘いって一番迷惑だよな……。相手に悪意はないし、断ると関係が悪くなるし。

まず引っ越しの挨拶で貰うものって、お礼する必要なくない? ないよな?

双子の美少女達も驚いた顔をしている。

数秒の間があった後、返答が返ってきた。


「本当に、いいんですか……?」

「もちろん!」

「では、お言葉に甘えて…」


そうして、何故か俺の家に美少女二人がやってきた。



比較的片付いている俺の家のリビングには、昼ご飯のいい匂いが広がっている。

双子の美少女達は俺の向かいのソファに座り、物珍しげにリビングを物色していた。

そんなに面白いものだろうか。この部屋で面白いものと言ったら父さんの趣味のプラモデルか、俺がコツコツ集めているアニメグッズくらいだと思う。


「ファンタジーナイン、好きなんですか?」


双子の、さっきの挨拶で主に喋っていた方が言った。

ファンタジーナインというのは俺の大好きな漫画原作のアニメだ。もちろん部屋にあるグッズはファンタジーナインのもの。深夜アニメなので知っている人は少ないのだが、彼女の視線はグッズの方に釘付けになっている。


「知ってるんですか!?ファンタジーナインは、知名度は低いんですけど、絵も綺麗だし原作の漫画に忠実で、俺の知っている中では一番いいアニメだと思うんです」

「わかります!声優さんもぴったりだし、何より原作のキャラクター性がしっかり出ていて感動しました!」

「ですよね、オープニングとエンディングも最高ですし」

「語れる人に初めて会いました! 誰推しですか!? 私は圧倒的にヒロインのモカ推しです!」

「俺は主人公のルーマ推しです」

「ルーマですか……、ルーマいいですよね……。ギャグと真面目さの黄金比みたいな感じですよね……、何よりかっこいいし。」

「まさにその通りです……」


なんだか、一気に親近感が湧いた。アニメのちから、恐るべし。

少し打ち解けてきたタイミングで、昼ご飯が完成した。テーブルに昼食のパスタが並ぶと、一気にパスタに視線が集まる。


そうしていただきますをしたあと、改めて自己紹介的なノリになった。


「私は秋葉弥生あきばやよいです!双子の姉で、今年高二です。えーと、好きなものはアニメと漫画です。ファンタジーナインはアニメも漫画も好きです」


主に喋る方……改め、弥生さんは、小さい顔に大きい目、薄い茶色の髪を耳の下で二つに結んだ、ザ・学園のアイドルという雰囲気の美少女だった。

この見た目で、オタク。ギャップ萌えとはこういうことか。


秋葉飛鳥あきばあすか、高二です。双子の妹です」


……初めて声を聞いた。

喋らない方改め、飛鳥さんは、キリリとした目つきに焦げ茶の髪をポニーテールにした、クールビューティという言葉が似合いそうな美少女だった。

あまり妹っぽくないな、と思うが先入観はよくない。


そして、俺の番が回ってきた。


石橋真弦いしばしまつるです。西大芝高校の二年生です。趣味はアニメ鑑賞、好きなものはファンタジーナインとライトノベルです」


言い終わり、周りの反応を伺うと、弥生さんが大きく頷いていた。

そうしてパスタが減るとともに会話も進み、双子の話になる。


「そういえば、弥生ちゃんと飛鳥ちゃんはどこの高校に編入するの?」

「ええと……西大芝高校です。」

「あら!真弦と同じなのね!」

「そうですね、同級生になります」

「ははは、真弦、綺麗な友達ができて良かったな!」

「よろしくね真弦!」

「ああ、よろしく」


話しているうちに双子はうちの家族と打ち解けてきたようで、俺、弥生、飛鳥はお互いを呼び捨て&タメ口で話せるようになった。

飛鳥もぽつぽつと話すようになり、一気に距離が縮まった気がする。


「そうだわ!よければ、真弦と一緒に登校してもらえないかしら?」

「「「え?」」」


俺たち三人は硬直する。


「お、それは名案だな! 真弦はいつも一人で登校しているし、弥生ちゃんと飛鳥ちゃんのボディーガードってことでどうだ?」

「ボディーガード! なんだかカッコいいわね! 弥生ちゃん、飛鳥ちゃん、どうかしら?」


なんかとんでもない案が出たぞ。

ちょっと待て。そんなことしたら、この俺の平和な陰キャ生活が壊れる。

美少女とは実は恐ろしく、人間関係を壊す可能性が非常に高いのだ。

そんな美少女が二人。俺がこの二人と一緒に登校しただけで、妬みや殺意などのマイナス感情を一身に受けることになる。考えるだけで恐ろしい。


「ごめん、俺にはちょっと荷が重いか……」

「真弦、ぜひお願い」

「え?」


意外なことに、声を発したのは飛鳥の方だった。


「え、でも…俺なんかただのオタクの陰キャだし、そんなに強くないよ?」

「男性が一人いるだけでも違う。男除けにもなるし」

「んー、そうだね! 真弦は話が合って楽しいし、良ければ道案内も兼ねて一緒に行って欲しいな」


二人に押されて、俺は非常に困っている。

俺の生活と双子の安全。俺には天秤にかける勇気がない。


「ダメなら無理は言わないんだけど……」

「姉さんの頼みを断るのか?」


飛鳥からの圧がすごい。凄すぎて怖い。


「真弦、こんな可愛い弥生ちゃんと飛鳥ちゃんが誘拐でもされたらどうするの!?」

「男としてここは見栄を張れ、真弦」


親からの圧もすごい。もう四面楚歌だ。

誘拐という言葉を聞いて双子が青ざめている。


「……わかったよ」


俺は圧力に屈した。

仕方がない。二人の安全は守ってやりたいし、道案内もしないといけない。それに、家族と双子の期待を裏切るのも避けたい。


「ありがとう、真弦」

「真弦ありがとう〜! 安心した!」

「弥生ちゃん飛鳥ちゃん、うちの真弦をよろしくね」

「わはは、それでこそ男だ!」


一気に称賛と感謝を受け、少しだけいいことをした気分になる。

新学期からの波乱の日々を知らない俺は、頼りにされることを純粋に喜んでいた。

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