表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険譚~不遇属性の魔術師《コードマスター》~  作者: 栢瀬千秋(旧:火跡夜隊)
第6章:嵐の予感
87/87

第82話:出撃

「総員、傾注! レオンハルト様よりお言葉を賜る!」


 ガインの言葉に合わせて、俺は訓練場に集まった騎士団総員の前に立つ。


「――時が来た」


 そう、まず口にしながら全員の表情を見る。

 普段訓練場として使っており、騒がしくない時がないと言える場所に、静寂が満ちる。


「ルーレイの連中が、スプートニク要塞を攻撃してきた。我々は、ミロノフ辺境伯軍の支援、ならびに敵勢力の排除に当たる」


 俺の騎士たちの表情は、皆真剣だ。

 だが、緊張の面持ちではなく、適度な集中力と共に高揚感を抑える様子が見て取れる。


「無論、我らはたった120余名の、1個中隊程度の騎士団だ。だが、私は知っている」


 そう言って強い視線で全員を見回してから、声高らかに告げる。


「諸君らは間違いなく一騎当千であることを!」


 近衛騎士相当である彼らは、お行儀が良いのでこういう時に声を出したり、騒いだりはしない。

 だが、その表情からして更なる高揚感に満たされているのは確かだろう。


「つまり! 我らは実際には12万に匹敵する圧倒的な軍団ということだ! 故に臆するな、我らは必ず勝利する! そして――」


 そこで俺は息を大きく吸い、宣言する。


「――生きて帰るぞ!!」

『『殿下の仰せのままに!!』』


 全員が、大きな声でありながら揃って敬礼の姿勢を取る。

 それに対して返礼しながら、俺がガインに視線を向けると、ガインは頷き声を張り上げる。


「総員、馬車に搭乗! 各分隊長より作戦詳細を聞け!」

『『はっ!』』


 その様子を見送りつつ、俺も馬車の1つに乗り込む。

 ちなみに今回、全員が騎乗しなかった理由としてはとある魔道具の実地使用試験を兼ねているからだ。


 それは、『兵員輸送馬車』として使うための空間拡張型魔道具だ。

 今俺が搭乗している馬車もそうだが、見た目は貴族が乗りそうな箱馬車なのだが、中はかなり広くなっており、約20人の搭乗が可能となっている。

 だが重量は外装分のみとなっているため中の搭乗人数が多くても影響しないようにしていたり、振動がないようにされていたり、馬の疲労回復、加速強化などの魔道具が仕込まれていたりとかなり特殊な魔道具の馬車だったりする。


 通常、王都からミロノフ辺境伯領まで進む時間は早馬で乗り継いで数日、馬車であれば1週間以上は見なければいけないだろう。

 だが、この馬車で進むならば、道の度合いにもよるが2日で到着するのだ。

 ただ、街道を走るのは少々危険なスピードが出るという問題があるが。

 なんにせよ、このような火急の状況においてはこのスピードは非常に重要になってくる。


 ……なお、言いたくない話ではあるが俺やプエラリフィアが全速力で走れば1日掛からなかったりする。まともな道を通らないということもあるが。


 ちょっとそんなどうでも良いことを考えながら、俺は作戦指示のために通信用の魔道具――マギコム――を起動させる。


「総員傾注。今回の作戦において重要なのは、スプートニク要塞の防衛、人員の保護となる。そのため、まずは防衛線の強化が必要だ。これについては【メラク】が担当せよ」


 単なる敵軍討伐ならば全員で突っ込めば済む話。だが今回はまず要塞の防衛と保護が重要視されている以上、防衛線を強化するのが先決になる。

 どの部隊でも概ね得意とする魔術は同じだが、それでも専門性を高めるために今のところ、スヴェン率いる【メラク】がこういった工兵に近い働きをするようにしている。


「――負傷者については、【フェクダ】が担当だ。辺境軍の医療担当と連携し、即座に動け」


 第4番隊【フェクダ】が主とするのは、医療および後方支援に関する任務だ。

 貴族との繋がりを強くする関係上、こういった後方支援に適性を割り振っている。


「残る【ドゥーベ】と【アルカイド】だが……【ドゥーベ】はまず到着後すぐに山脈を駆けて敵陣の配置など分かる範囲での情報収集に当たれ。【アルカイド】は辺境軍と合流し、敵攻撃力に関する情報収集だ。俺、フィア、エリーナ、ノエリアについては、ミロノフ辺境伯に会うことにする」


 【ドゥーベ】については客観的な敵方の情報収集、【アルカイド】はこちら側での情報収集に当たらせる。

 こうすることで、相互の情報を擦り合わせることができ、それだけ精度の高い情報を得ることができるだろう。

 到着の予定時刻からすれば、まず攻撃は終わっている頃と思われるから、そこについては情報収集の一長一短があるのだが。


「総員、気を引き締めて行けよ」

『『了解!』』



 さて、街道を少しずれた位置を爆走してきた馬車だったが、この旅路ももうすぐ終わるところだ。

 あれから超強行軍にて進んで1日半が経過し、途中の馬の食事以外を馬車の中で過ごした俺たちではあるが、皆もうすぐ面するであろう戦場に思いを馳せつつ武器の点検を行う。


「もうすぐだな」

「ええ……少々天気が気になりますわね」


 もうすぐミロノフ辺境伯領に入るのだが、エリーナの言うとおりどうにも雲行きの怪しさを感じる。

 まだ夕方前だというのに、空は灰色を帯びており、また雲の厚みが増えることで空の高さが低くなっている感じすらある。


 ここしばらくは天気がよかったし、この辺りはそこまで天候が悪くなるということは少ない。

 だが、珍しく雨が降りそうな雰囲気があるということは、行軍の速度も下がるということだ。


「総員に通達――天候により行軍が遅れる可能性がある。今のうちに急ぐぞ」


 マギコムで各員に連絡すると、即座に馬車のスピードが上がるのが分かる。

 この調子でいけば、まず夕方頃には到着出来るだろう。


 もうすぐ見えてくるであろうスプートニク要塞を目指し、俺たちは進むのであった。


 ◆ ◆ ◆


 ――スプートニク要塞


「……報告を」


 会議室の中央、ミロノフ辺境伯は並み居る部下たちに視線を送る。

 だが、普段の眼光鋭く、覇気に満ちた普段の雰囲気とは異なり、どこか疲弊を滲ませている。

 気遣わしげに向けられる視線を感じながらも、ミロノフ辺境伯は首を振り、それを見た部下である一人――彼はミロノフ辺境伯軍の司令官だ――が報告を始める。


「本日の敵の攻勢では、死者は無し。ですが、例の特殊武装による攻撃で防壁の一部が崩壊、重傷者が20名ほど出ております。現在防壁については魔道士隊に修復を急がせておりますが……」


 言葉を濁らせた司令官の様子に「もういい、分かった」と告げる辺境伯。

 魔道士隊は元々は王国魔道士団に属していた者たちを、国の許可によって引き抜いてきた精鋭たちだ。

 とはいえ、連日の敵の攻撃により魔力が枯渇に近い状態になっているらしく、どうしても稼働状況が落ちている。


「……中央はどうするつもりでしょうか? まさか……」


 どこか不安げな様子の内務官。

 辺境伯は頭を振るが、彼自身のいいたいことも分からんではないのだ。

 この状況において、王国軍が出てきたとしても1週間は時間が掛かるし、軍勢が多ければもっと時間が必要だ。

 そうなれば、この要塞は落ちる可能性が高く、ここに援軍を出すよりはもっと手前の街に防衛網を敷く――つまりは自分たちを見捨てられるという可能性が出てくる。


「いや……それはないはずだ。この防衛線の重要性は、なにより陛下がよくご存じのはず」


 ミロノフ辺境伯はかつて、現国王であるウィルヘルムが王太子時代に、共に戦場を駆けた仲だ。

 無論()()パーティほどの仲では無いとはいえ、戦友であるという意識は非常に強く、今でも王都に向かった際にはお忍びで市街地にも出ることがあるくらい仲が良い。


 そうは言っても……と、どうしても嫌な予感がよぎってしまうのは、辺境伯が相当疲弊している証拠だろう。

 それでも今の今まで、一人の離脱者も出さずに指揮を執っている彼の手腕は素晴らしいものなのだが。


 と、突然会議室の外が騒がしくなる。

 甲冑を着けている以上足音は大きくなるし、それが走っているというのはすぐに分かるほどの音を立てるのだ。

 つまり、それだけ急いでいる騎士がこちらに向かってきているのだろう。ミロノフ辺境伯は椅子の上で姿勢を正し、外に向かって声を掛ける。


「入れ!」

「き、緊急故ご容赦願います! 閣下、外に……外に……!」


 相当に急いで来たのだろう、言葉が続かない騎士の様子に何事かと俄に騒がしくなる会議室。


「静粛にしろ! 何があった!?」


 辺境伯は跳ねる心臓を抑えながら、騎士に問い尋ねる。

 騎士は近くの部下から水をもらって一息ついたらしく、息を整えて口を開いた。


「援軍が……参りました」

「援軍、だと?」


 ミロノフ辺境伯は思わず聞き返した。

 ルーレイ王国の奇襲に対して報告と援軍要請を行ったのが数日前のこと。

 辺境だからこそ渡されている通信の魔道具を使い、王都に緊急連絡をしたのは辺境伯自身なのだ。

 それを忘れることはないが、まさかこんなにも早く援軍が来るとは!


 そう思っていた辺境伯だったが、次の言葉にはさらに驚かされた。


「はっ、援軍は王国旗と共に……竜と七芒星、双剣の紋を掲げております」

「!! それは……!」


 ミロノフ辺境伯は目を見開いて驚く。

 通常援軍というのは、貴族のセンチュリアであればその家の家紋を掲げる。

 だが、王国旗を掲げるということは、それは中央……それも国王の指示の下に送られる援軍であることを示す。

 基本的にそれを掲げるのは、王国軍や騎士団だ。

 だが、今回は違う。家紋が掲げられているのだ――竜の紋を持つ、そんな家紋が。


「閣下! もしや……!」

「――我々は見捨てられていなかった」


 ミロノフ辺境伯は天を仰ぐ。


「……レオンハルト殿下が指揮される、ベネトナシュ騎士団か……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=6365028&siz
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ