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異世界冒険譚~不遇属性の魔術師《コードマスター》~  作者: 栢瀬千秋(旧:火跡夜隊)
第6章:嵐の予感
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第81話:会議にて

 戦いの知らせを受けた俺が騎士団幹部に通達してすぐ、ベネトナシュ騎士団は全体が緊急体制となった。

 それも当然だろう。ベネトナシュ騎士団は俺の近衛騎士団であると同時に、れっきとした軍事組織。

 そうなれば、当然国の命により参戦する可能性が高くなる。


 当然俺が独立指揮権を持つため、国が頭ごなしに命令することは出来ない。

 とはいえ、俺自身が間違いなく参戦命令を受けるだろうから、結局彼らも動く事になるのだ。

 そう考えると、最初から出撃の可能性を考慮して動いていた方が良い。


「それにしても、遂にこのような状況になるとはの。しかし、まだ王国軍は動かんで良いのか?」

「ああ、今回のような状況ではな。まずは防衛戦力として動くべきは辺境伯軍だ」


 俺はプエラリフィアと歩きながらそう呟く。

 現段階においては俺やベネトナシュ騎士団はおろか、王国軍もすぐに動くことはない。というのも、今回攻撃を受けたのは南部。

 そしてルーレイとの国境を守るマクシミリアン・フォン・ミロノフ辺境伯がその地を治めており、今回のような状況においては辺境伯軍が迎撃に当たるのが基本。


 ここで下手に王国軍が出て行くと、辺境伯はその防衛能力に問題ありと見なされたことになり、周りの貴族だけでなく敵国からも舐められかねない。

 まあ、こう言ってはなんだが辺境伯位というのは軍事権を持つと同時に、ある意味そのエリアの総まとめ役を任されている以上、動かざるをえない。

 もし動かなければ、異心ありということになってしまう。


「面倒な習性じゃのう、貴族というのは」

「というより、我が国は中央集権ではなくて連邦制に似たところがあるからな。こればかりは国としての形式の問題だ」

「ふむ……なるほどのう」


 さて、そんな話をしている俺とプエラリフィアは、現在研究室でとある魔道具の解析に当たっていた。

 それはかつて俺がディムから奪ったスペルキャスターと、そしてカリャキン男爵領で見つかったマスケットだ。


「しかし、妾からするといまいちピンとせんな、このアイテムは。大体、盾で防げる程度の威力じゃったし」

「とはいえ、技術というのは進歩するだろう? 対策が無しでは問題だ」


 本来、国家機関である魔道士団で解析されるもの。

 それを今、俺は預かっており、プエラリフィアと解析しているのである。

 本当は辞退したのだが、『お前の離宮の方が設備が良いだろ』と言われてしまい、預かっているのだ。

 まあ、魔道士団では解析が出来なかったためこちらに回って来たというのもありそうだが。


(魔道士団では解析できなかったなんて、流石に漏らすわけにはいかない。その点俺は魔道士団長の息子であると同時に、王弟位を持つ王族でありれっきとした大公家の当主。だからこそ、こちらに回した方が安全ということだろうな……)


 個人としては好都合ではあるが、まあ国としては結構厄介だと思わなくもない。

 そんな事を考えながら、ここ最近よく着用するようになった白衣姿で俺はさらに解析を続ける。


(これがトリガー、これが発動体……実際にストライカーが動くような感じだな。トリガーを引いてこの駆動部が動けば導通して……)


 かなり魔道具らしい姿かと思っていたが、意外と俺が知っている銃の構造に近い。

 違いとしては弾薬を入れておくマガジンやチューブがなく、代わりに魔晶石が組み込まれたカートリッジらしきものがグリップ内に入っていることか。


 この調子で行けば、まず俺は間違いなくピストルを作れるだろうし、ライフルもまず問題なく出来上がるだろう。

 だが、俺としては作るつもりはない。いや、作ったとしても個人使用するだけで外には出さないようにしようと思っている。


 これを実際に使うならば、戦争の形態が変わってしまう。そうなれば、これまで以上の犠牲が発生するだろうと思う。


(とはいえ、魔法がある以上結構犠牲は多い気もするが……いや、それでも()()()が問題になるな)


 そう考えていたところ、ミリアリアが研究室に飛び込んで来た。


「レオン様!」

「……どうした?」


 切羽詰まった様子のミリィの口調。

 どうやら離宮内を走ったらしく、できる限り見せないように抑えているものの息が上がっているのが分かる。


「国王陛下より、緊急召集との事です! ミロノフ辺境伯軍は迎撃に失敗、スプートニク要塞まで後退したとのこと!」

「!?」


 それは、あまりにも驚くべき知らせだった。


 ◆ ◆ ◆


 スプートニク要塞はミロノフ辺境伯領の領都からほど近い場所にある、南部防衛の最重要拠点だ。

 とはいえ、その前には広い緩衝地帯と共にいくつかの砦が存在しており、歴史的に見ても防衛の際には緩衝地帯、あるいは砦までで抑えられていたはず。


 だが、今回ミロノフ辺境伯軍はスプートニク要塞までの撤退を行った。

 それはそれだけ相手の戦力が大きい、あるいは通常では対応できないような攻撃の様相であるなど、理由が考えられる。


(いずれにせよ、問題が大きいのは事実だ)


 俺は副官としてノエリアを側付きとし、緊急会議を行うための会議室へ向かう。


「レオンハルト殿下」

「陛下は?」

「まだです。今は閣僚級の方々と、王都詰めの貴族たちがおります」


 俺が会議室に入ると、既にそこにはそれなりの人数が集っており、顔ぶれはよく見知った者たちから俺が知らない者たちまで様々だ。

 俺の入室と共に声を掛けてきた近衛騎士に確認すると、叔父上はまだのようである。


 俺は会議室の玉座の横、宮武としての席に着き、ノエリアは俺の後ろに立って副官として控える。

 さて、会議室内は喧々囂々だ。


 ――ミロノフ辺境伯が撤退とは、一体どんな手を使ったというのか!

 ――なに、そう心配なさることはありますまい、後詰めには王国軍がおりますから……


 そのようなミロノフ辺境伯を擁護するような言葉から……


 ――ミロノフも不甲斐ない……

 ――辺境伯閣下といえど、失敗はあるんですな。私であれば……


 非常に批判的な雰囲気を持っている者たちもいる。

 ……というよりも、結構な数が批判的な雰囲気を醸し出している気がするのだが。


「(えらく空気が悪いわね……)」


 ノエリアがそう呟くのも当然だろうな。

 だが、実のところこれは一つの作戦というか……ある理由で彼らを集めている状態である。

 そろそろ良い頃合いだろうか……ちらと横目で俺の反対側、玉座の左側に陣取っている父に視線を向けると、軽く目を伏せ了承を示してくれた。


 では、やるか。


 ――ドンッ!


 俺が会議室のテーブルに拳を叩きつける。

 実際にはほんの少しだけ上げて下ろしただけなのだが、同時に魔力を使って振動を拡散させるので音がかなり響くようにした。


 その大きな音に驚き、騒がしかった貴族たちが一瞬にして静かになる。


「ここは御前会議の場だ。陛下がご入来でないとはいえ、騒ぎ立てるとは何事だ」

『『…………』』


 いくら陛下が部屋にいないとはいえ、このように騒ぎ立てるというのは問題である。

 しかも、明らかに今後の方針を話し合うよりも、責任の擦り合いに見えるこの状況。流石に看過することはできない。


「……しかし殿下、現実問題南部がスプートニク要塞まで下がったのは事実。それに関してミロノフ辺境伯が、十分な対策をしていれば良かったのです」


 そう言ってくるのは、貴族派の侯爵だ。ピエット公爵亡き後、現在貴族派を纏めているトップと言っても過言ではない人物。

 しかし、これはいただけないな。その視線はいかにも俺に対して『出戻りの七光り』と言わんばかりである。

 まあ、今そんな事をしていたらどうなるか、分からないはずも無いんだが。


「なるほど?」


 俺が軽くそう答えると、侯爵はどこか勝ち誇ったかのような表情をしている。

 しかしなぁ……


「では、卿等がミロノフ辺境伯の『過去』を批判するならば、私は卿等の過去を批判しようか」

「……はっ?」


 自分たちに矛先が向くとは思っていなかったのだろう、侯爵たちの表情が固まる。


「今回の状況、外交筋である卿等が十分な働きをしていたのであれば、防げたのではないのか?」

「それ、は……しかしっ――」

「――戦争というのは外交手段の一つ……まあ、最終手段だがな。では、相手がその手段を執る前に、何か努力を卿等はしたのか?」

「いえ、しかしそれは……」

「ミロノフ辺境伯を弾劾出来るだけのことを……卿等はしていたのだろうな? あいにく宮武である私には、これといった情報は来ていないのだが」

「…………」


 流石に俺の言葉に侯爵たちは黙るしかなかったようである。

 まあ、元々分かっていたことではあるのだが、実際に現実としてみると腹立たしいというか。


「……殿下には、改めて纏めて報告をと考えておりました」

「今更だな。それに、纏めて報告するメリットがどこにある? この火急の事態において、報告や情報の遅れは命取りだぞ」


 俺の言葉に顔を青ざめさせる貴族たちに対し、俺は口を開く。


「まあ、今日のところは見逃すが……いずれにせよ、今回の御前会議の意味を履き違えたようなことを口にするなら――分かっているな?」

「は、はっ……」


 言外に『余計な口を挟むな』と俺が言うと、流石に彼らも黙るしか無いと思ったらしい。

 微妙な表情でありながらも頷いた。


「ふむ、話は纏まったか?」


 突然、掛けられた声にその場の全員が驚き、慌てて立ち上がる様子を俺は見ながら振り返った。


「陛下」

「うむ。集まったか」


 俺は立ち上がりながら出来るだけ優雅に礼をする。

 それに対してゆったりと頷きながら玉座に座る叔父上を見ながら、俺もその次に座る。

 その後父が座り、閣僚そして貴族たちの順で席に座っていく。


「火急につき挨拶は不要だ。臨時会議を始める――宰相」


 叔父上はいつものような堅い挨拶ではなく、すぐに会議を始めるために省略して開会を宣言する。

 同時に指名された宰相は即座に立ち上がり、状況を説明する。


「――今回、南部辺境であるミロノフ辺境伯領へ、ルーレイ王国軍が攻撃を仕掛けております。敵戦力は5千程。しかし、魔道具による武装を行っており、辺境伯軍は第3防衛線まで下がり、スプートニク要塞にて防御を固めている状況ですな。さらにルーレイ王国軍側も更なる戦力増強の動きを見せており、最終的には2万程までの戦力となるのではと予想しております」


 基本的に、南部辺境を攻撃するのであれば5千は少ない兵力だろう。

 しかし、その少ない兵力で十分な効果を与えるための魔道具による武装ということだ。

 さらには増援の可能性があるため、かなりの厳しさを感じる。


「魔道具の武装ならば、我々の防具を抜けるとは思いませんが」


 参加している貴族――彼は中立派だったか――からの質問が起きる。

 それに対して、軍務院長である父が口を開いた。


「敵の魔道具だが、かなり威力があるようでな。通常防具では貫通してしまうらしい。まあ、シールドに防御強化を掛けておけば大丈夫のようだが」


 そういいながらこちらを見てくる父。

 確かにイシュタリアの防具は、他国と比較してかなり強靱に造られており、一般的な剣や槍では貫通はおろか変形させることも侭ならないと言われるほど。

 しかし、今回の魔道具についてはその防具を突破してしまうということに、周囲の貴族たちは顔色を変えていた。


 とはいえ、ここで混乱させるのは本意では無いため、父に頷き返しながら俺は情報を公開する。


「敵方が使用してきたのは先日、カリャキン男爵領で発見された戦闘用魔道具の一種と思われる。通常のアイアンメイル程度であれば軽く貫くし、チェインメイルも同様だ。ミスリルメイル、あるいはドラゴンの鱗を使ったスケイルメイルなら貫通しないだろうがな」

「それは……」


 俺の提案した鎧の種類に言葉を失う貴族。

 まあ、これはかなりアレな提案だろう。ミスリルメイルにせよ、ドラゴンのスケイルメイルにせよ、とんでもない価格のもので、一般兵に支給できるものではない。


「まあ、心配いらん。魔道具の威力は変わるものではないからな。それにこちらで検証した限り、土属性の魔法によって防具強化を施すことで十分防御出来る」


 俺の言葉に頷く父。

 その様子を見ながら、叔父上が口を開く。


「とはいえ、それだけの強化を施せるだけの魔道士が必要になるし、兵力を動かすにも時間が掛かる。スプートニク要塞の危機はすぐに迫っているのも事実」


 これは紛れもない事実であり、非常に大きな問題だ。

 出来るならば騎兵主体で先遣隊を送り、遅延防御を行いつつ軍を待ちたいところだが、相手の戦力集結と魔道具の存在により、間に合わない可能性が出てくる。


 こと、スプートニク要塞は堅固故に相手側も用意周到なはず。

 貴族たちは誰もが難しい顔をするしかない。


「ミロノフ辺境伯軍の様子は?」


 俺は父に視線を向けて尋ねる。


「今のところは負傷者を収容し、防御に徹しているようだが……補給ルートは問題ないとはいえ、士気低下は避けられんだろう」


 こう言ってはなんだが、辺境伯軍が敵側に投降する可能性というのも無いとは言いきれない状況なわけだ。

 勿論辺境伯自身には問題なくとも、軍からの離脱者が出る可能性はゼロではない。

 そうなれば防衛はさらに困難になる。


「……我らが辺境伯家を見捨てぬという証拠が必要でしょうな」

「同時に、即応戦力でありつつ一騎当千と言っても過言ではない実力が求められる」


 俺と父が阿吽の呼吸でそう話すと、その様子を見ていた宰相が口を挟む。


「殿下……その保証とは、王族を出撃させる、と言うことでしょうか」

「そうだな。それが一番早いだろう……いかがですか、陛下?」

「ああ、その通りだ」


 王族が戦場に立つ。

 我らがグラン=イシュタリアにおいてはそう不思議なことではない。

 貴族は民を守ってこそ、王族は国を守ってこそ、という信念に基づき育てられている以上、そのくらいのことは出来なくてはいけない。


 とはいえ、宰相は反対意見を出す。


「恐れながら陛下、それは危険でありましょう。確かに保証ではありましょうが、王族の方がそれで命を落としてはそれこそ問題になりますぞ」


 そう言った宰相の声に、他の貴族たちも同意したように頷き、同調の様子を見せる。

 その背後の声に推されるかのように、宰相はさらに言葉を重ねる。


「それに、王族で軍務に就く事がおできになるのは、ライプニッツ大公を除けば第一王子殿下のみ。ライプニッツ大公子であるハリー殿下では、少々抑えに回るのは難しいでしょう。将来の王太子殿下を、今回のような国難にて失うわけにはいきますまい」


 ――そうだ!

 ――確かに宰相の言葉は一理あるな


 そう言った声が上がる中、俺はニヤリと笑う。


「誰が第一王子や、ライプニッツ大公子を出すと言ったのだ?」


 俺の言葉にピタリと言葉を止める貴族たち。

 同時に、宰相たちは軽く目を伏せ、俺に場を譲る姿勢を見せる。


「陛下」

「どうした、レオンハルトよ」


 俺が叔父上の方に向き直ると、興味深そうに眺めていた叔父上の視線とぶつかる。

 それを受け止めながら、俺は余裕を見せつつ口を開いた。


「宰相の言葉は間違っていないと思いますし、他の貴族たちも同意のようです。故に――」


 俺は軽く言葉を止めて、息を吸う。

 同時に周囲の貴族たちを睥睨してから再度叔父上と視線を交わした。


「――私が出ましょう。現段階において、私は陛下に次ぐ地位に立つ王族。そして、私には【ベネトナシュ騎士団】という戦力がある」

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