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異世界冒険譚~不遇属性の魔術師《コードマスター》~  作者: 栢瀬千秋(旧:火跡夜隊)
第5章:ベネトナシュ騎士団
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第73話:再会

すみません、色々忙しく更新していませんでした。

「あら、お帰りなさい」

「ただいま」


 まるで夫婦のような会話に聞こえるが、あいにくここは宿である。

 俺はフィアと共に、例の二人組の尋問を行って帰ってきたところである。


「食事は? 部屋で食べるかしら?」

「そうだな、それがいい」

「うむ、色々話さねばならんからの」


 俺とフィアは装備をインベントリに片付けつつ、ノエリアに返事をした。

 そうしている間にノエリアが宿の給仕を呼び、食事を持ってくるように伝えている。

 いつもながら、良い部屋に泊まっているな……


 それこそ、昇格を重ねたというのとかなりの金銭を得ているため、妥協をしないですむというのはありがたい。

 まあ、こんな贅沢も今日が最後だろうか。

 カリャキン男爵領に向かう道のりでは、そこまでいい宿場は無いからな。

 まあ、マジックテントもあることだし、そう心配はいらないのだが。


「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました」

「ああ、ありがとう」


 ドアがノックされたので迎え入れると、宿の給仕だった。

 彼女は手際よく食事をテーブルに並べると、頭を下げて出ていく。


 とにかく今は、一旦腹拵えをする事だな。


「うん、美味しいわね」


 皆で食事を楽しむ時間は中々楽しいものだ。

 ここは北部に向かう中継地であるだけで無く、様々な食材が通っていくことからバラエティに富んだ食事が楽しめる。


 ワインを口に含み、独特の酸味と同時にどこか燻されたかのような、味わい深い香りを楽しみながらローストビーフに似た肉料理を楽しむ。


「このドレッシングも美味しいのう」

「確かにな……上手に処理されている」


 生野菜も彩りよく。

 中々生野菜というのは生産地近辺でしか手に入らないのだが、流石は中継地点だな。

 将来的にはこの街も、もう少し拡張されていくのではないだろうか。


 さて、ひとしきり食事を楽しんでから、俺はノエリアに状況を説明した。


「――どうやら、例の冒険者たちは依頼を受けて名乗っていたらしい。期間は決められていないが、少なくとも俺に見つかるまでは、という条件だったらしくてな」

「変な条件ね……それで?」

「金貨10枚、だったらしい」

「……内容の割に高いわね」


 変に報酬が高い。

 同時に、『俺に見つかるまでは』という部分もかなり変だ。

 なぜわざわざそんな指定をしたのだろうか。


「うーん……」


 いまいち理解できない。

 彼らの依頼主は、一体何を目的としていたのか。


 異名を騙ること、それはあまりにも割に合わないものだ。

 多少良い思いが出来るかも知れないが、もしギルドカードの提示を求められればそれで終わり。

 この街に入るには、当然門があるため衛兵に身分証明書を提出しなければいけない。

 冒険者であれば、必ずギルドカードを提示する。


 例えば自分の本来のギルドカードで街に入ったとして、もし自分が異名持ちだと詐称した場合、真実を知っている衛兵がそれを指摘してしまえば終わり。

 なぜなら衛兵もこの街に住んでいるわけで、完璧に名前を覚えていたとしなくても“違う”ということは理解できるはず。


(そうなると考えられるのは……)


 どうやって門を通るか。

 まずその点に注目するならば、可能性として考えられるのが2つ。

 1つは、門を回避して……つまり潜入するという方法。

 そしてもう1つは、貴族の家人として通ったという方法。


 はっきり言って、門を回避するのは非常に困難だ。

 この街はそれなりの規模であり、当然防壁部分も定期的に補修されている。

 そのため、例えば裏組織を使うとか、あるいは余程高度な隠密技術を用いるか、ということになる。

 だが、あの二人がそんなことを出来るとは思えない。


 そうなると確実なのが、貴族によって門を通過しているということだ。

 貴族が街に入る際、家人の確認はされない。

 というのは、貴族に雇われるという時点で相応の信頼を得ているということになり、その貴族家が立場を保証するということにもなるからだ。

 というよりも、貴族が同行する者全てのチェックをしていては、時間が非常に掛かるので……というのも理由である。


(しかし、彼らはここに来た際には自分たちだけで来たと言っていたが……)


 可能性としては、依頼元である貴族の情報を漏らすわけにはいかないと考えているか。

 そうなると、冒険者としては口を割るわけにはいかないということなのだろう。

 しかし、異名を偽る時点でかなり問題だが……


(それも依頼者である貴族の責任とするつもりか?)


 可能性は否定できないな。


「レオニスは、やっぱり背後に貴族がいると思っているのかしら?」

「そうだな。まず間違いないだろうが……理由が分からないというのが本音だ」

「確かにのう……」


 フィアもノエリアも首を傾げながら考えているが、特にこれといった可能性は思いつかないらしい。

 結局、この日は考えても仕方が無いということで早めに就寝することにするのであった。


 * * *


 翌日。

 俺たちは街を出てカリャキン男爵領へ向かって移動を続け、夕方頃には到着することが出来た。

 雰囲気としては、ごく普通の町という感じだ。


 しばらく市場や宿を見てみるが、これといって特徴的な産物があるようにも見えないな。

 物価は……少し高いな。

 だが、それも当然かも知れない。ここはあまり位置が良くないので、食料品……特に野菜類は輸入に頼ることになるからだ。


(それにしても……冒険者の姿はあまり見えないな)


 もしかすると、既に発掘を終わらせてしまっているのだろうか。

 いや、流石にそれはないだろう。

 しかし、冒険者の動く時間としては既に終わりだと思うのだが。


「まだ、冒険者は帰って来ておらんのか?」


 フィアも気付いたらしく、そんな事を呟いている。

 不思議に思いながらも、俺たちは冒険者ギルドに向かうことにしたのだが……


「は? 冒険者ギルド?」

「ああ、どこにある?」

「うーん……まあ、あの通りを過ぎて、2本目の道を奥に入れば着くが……物好きな奴だな」

「?」


 メイン通りと思わしき場所を歩いてみたのだが、冒険者ギルドがない。

 不思議に思い近くの八百屋に入り、そこのオヤジに聞いてみたが変な反応をされた。


(『物好き』? どういうことだ?)


 しかもなぜか奥の方にギルドがあるらしい。

 そんな目立たない場所にあるなんて……と思いつつも向かってみると……


「「「…………」」」


 思わず、冒険者ギルドの前で立ち尽くしてしまった。

 というのも、冒険者ギルドがあまりにも貧相すぎるのだ。


「……これ、ギルドかしら?」

「……こういう建物は“廃墟”と言わんかのう?」

「……一応人の気配はあるから、廃墟ではないだろうな」


 かなり寂れた雰囲気の建物が目前に現れた。

 窓は割れ、扉は外れ、所々虫食いの痕跡が見受けられる建物。

 さらに建物に絡みついた枯れた蔦が、建物を全体的に古く、廃墟に見せている。


 ここが冒険者ギルドだと分かったのは、明らかにやっつけ仕事に見える取り付けをされた冒険者ギルドの紋章が取り付けられているからだ。


(これはおかしい)


 冒険者ギルドは国から独立した組織とはいえ、そこで働く冒険者はその国の民だ。

 そのため冒険者ギルドというのは緊急時の避難所や簡易的な砦の役割を果たさせるために、必ず石造りになっている。


 もちろん、景観に合わせるために木造のテラスが付随していたり、色々と地方に合わせた装飾やデザインが取り入れられているものの、根幹の建物の建て方というのは決まっている。

 それに比べ、これは一体どういうことだろうか。


「流石にこれは問題だろう……」

「どうするの?」

「そうだな……」


 本来、このような状態はすぐにでも報告を入れる必要がある。

 だがそうなると、少々調査が難しくなるのも事実。


 こうなると、しばらく放置をしておくのが良いだろう。

 ただ、一応叔父上(・・・)にだけは報告を入れておくことにする。


「……今は調査が先決だ。とにかく中に入ってみるか」


 * * *


 ――……ギ、ギギィィ……ィッ……


「「「…………」」」


 扉を開けると……というか開けようとすると、かなり大きな軋み音がする。

 このまま壊れたりしないだろうな?

 少し心配に感じながらも開けて中に入る。


「誰かいるか?」

「……ん~? ……誰?」


 中は薄暗く、あちらこちらが埃っぽい状態だが、中に気配は感じていたので声を掛けてみる。

 すると、奥の方から眠そうな雰囲気の人物が現れた。


「……君は?」

「……質問に質問で返すって、どうかと思う」


 思わず聞き返したら窘められた。

 だが、驚いて聞き返したのも仕方ないだろう。

 出てきた人物は、ダボダボのパーカーらしき服を着ており前髪で目元も隠れているが、明らかに若い女性……少女だったのだ。


 年代的には、俺よりも2、3個上だろうか。

 身長はノエリアよりは高く、フィアと同じくらいという程度。

 髪は亜麻色だが、ボサボサであまり手入れをされていないために、少しくすんで見えるのが残念である。

 隠れた目元だが、片目だけは分かれた前髪の間から見えており、どちらかというと明るめの青い瞳だ。


「……で?」

「あ、ああ……失礼した。俺はレオニス。レオニス・ペンドラゴンと言う」


 俺が自己紹介をすると、少女は驚いたように目を瞬かせてから口を開いた。


「……【竜墜の剣星】がここに来るなんて。ということは、その二人は【竜墜の弓星】と【狂蝶姫】?」

「……えらく詳しいな」


 俺の名前を聞いただけでそこまで理解するとは驚きだ。

 というのも、どうやら北部ではあまり俺の名前は知られていないらしく、知っているのは精々ギルド職員という程度なのだから。


(西部では有名なんだが……まあ仕方が無いか)


 王都ではある意味有名ではあるが、それでも詳しいことを知るものは貴族が主だ。

 庶民は詳しくは知らないだろう。

 その点からすると、やはりクムラヴァであったりヴェステンブリッグでの知名度というのは高いんだなと、改めて納得する。


 と、考えていたら少女が俺の言葉に対して返事を返してきた。


「……ギルド職員なら当然……と言ってもボクは代理だけど」


 まさかのボクっ娘ですかそうですか。

 ……って、そうじゃない。


「代理?」


 俺が聞き返すと少女は頷く。


「……ギルドマスター含め、皆領主邸にいる」

「なぜだ?」

「……さあ。いきなり騎士が来て、『領主の命令だ』って」


 領主命令、か。

 しかし本来領主といえど、冒険者ギルドに対する強制力は無い。


「だが、ギルドは本来独立しているはずだろ?」


 冒険者ギルドは国家を超えた組織。

 もちろん、多少は国に依存する部分があるとはいえ、それでも冒険者ギルドに対して貴族が上から命令することは不可能だ。

 そんな事をしようものなら、冒険者ギルドが引き上げてしまうのである。


 だから本来、領主命令でギルドを閉鎖状態にする事は出来ないのだ。

 だが、明らかにこれは閉鎖状態にしか見えない。


「……そうは言っても、ギルドマスターは領主の弟……しかも妾腹だから」

「……なるほどな」


 領主の弟、しかも妾腹ということは立場の違いが大きいために顔色伺いになりやすい。


「まあ、それならそれは置いておこう。聞きたいことがある」

「……なに?」


 俺は本題について聞くことにした。


「聞くところによると、かなり儲けのいい依頼があるとか聞いたが」

「……ああ、あれ」


 どうやら彼女は内容を知っているらしい。

 俺は彼女から話を聞くことにした。


 * * *


「……この町には、昔から言い伝えがあった」

「言い伝え?」

「……そう、言い伝え。……それは『町の外の洞窟に触れないこと』」


 彼女が語るのは、この町の外縁部に存在する洞窟についての謂れ。

 昔から、その場所には近付かないようにと言われていたらしい。


「……というのも、そこには宝があるけれど、迂闊に手を出すと破滅する、って」

「破滅か……えらく危険な謂れだな」


 だが同時に、そういう謂れがある場所というのは遺跡の可能性が高いというのも事実。

 恐らく、遺跡の存在に気付いて、そこに置いてある魔道具などをカリャキン男爵は懐に入れているのではなかろうか。


 それにしても、危険と言われているにもかかわらず、冒険者を使って強制的に調べさせるとは。

 こうなれば、実際に俺も参加して実状を確認するのが手っ取り早いだろう。


「その依頼に参加したい。手続きを頼めるか」


 俺はそう彼女に声を掛けた。だが……


「……それは出来ない」

「…………何だって?」


 思わぬ反応に、俺は聞き返していた。

 どうやらその際睨んだような目付きになっていたのだろう、俺の表情をみて彼女が肩を跳ねさせた。


「だ……だって……危ないから……」

「ふむ……」


 危険か。

 しかし危険など冒険者にとって当たり前のこと。

 それを分かっていないとは思えない。


 それにこう言っては何だが、俺たちはBクラスの冒険者で異名持ち。

 そうなればそうそう後手に回ることはないのだ。


「危険というのは当たり前の話だろう? それこそ冒険者稼業の基本じゃないか」

「……そうじゃない!」


 だが、それでも彼女は必死に俺たちを止めようとし、勢いよくカウンターの席から勢いよく立ち上がる。


「だってあの男――」

「――おっと、そこまでだよ」


 彼女が何かを言おうとした瞬間。

 ギルドの扉が開き、一人の男がこちらに歩きながら彼女の言葉を遮った。


「……なっ!?」


 その人物は、深緑の髪を棚引かせながらさらに言葉を続ける。


「彼らを心配するのは逆に失礼というものだ。そうだろう?」

「お前は……」


 俺はその人物に見覚えがあった。


「詳しく、僕が話してあげよう」


 それが、かつて麻雀勝負を行った人物――ビルとの再会だった。

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