第72話:騙る者
「あら、思ったより賑わっているわね」
「確かにな」
ノエリアの言葉に頷きながら、俺たちは途中の街に立ち寄る。
ここは王都から馬車で2日ほどの距離にある街で、【サングリム】という名の宿場街だ。
王都である【ベラ=ヴィネストリア】からは何本か主街道が走っており、王都のある東部地域と、北部地域を結ぶ街道の真ん中に位置している。
途中の町にも宿はあるものの、ここは特に1つの中継地としての役割を果たす関係で規模が大きくなっているのだ。
ここからさらに北上するか、あるいは西に向かうかという分岐でもある。
その関係で卸市場もあり、一般参加は出来ないものの賑わいの1つとして有名だ。
レオーネ商会はこちらには手を広げていないが、いずれはこの辺りにも進出していくのがいいだろう。
東部では得られないような材料も多いだろうし。とはいえ、現状は王都での地盤固めだろうか。
「む、良い香りがするぞっ」
「向こうだな」
フィアがどこかから漂ってくる香りをキャッチしたようで、耳をピコピコと動かしながら香りのする方向を見る。
俺もそれに合わせて視線を向けると、確かに通りの向こうで屋台があるのが見えた。
「ふふっ、確かにお腹が空いたわね」
「折角だから、露店巡りでもするか?」
「うむ、それは良いな」
この香りは串焼きだろうか。
それにしては、独特の……ハーブのような香りがしている。
もしかすると、内地からのものを使っているのだろうか。
俺は屋台に近付き、店主に声を掛けた。
「3本もらえるか?」
「おうよ、60ディナルだ!」
俺は財布から銅板を取り出し渡す。
店主が串焼きを焼いているのを見ていると、店主の方から声を掛けてきた。
「そういやアンタ、初めて見る顔だな。冒険者か?」
「ああ、そうだ」
「そうか! 俺も昔冒険者だったんでな、懐かしいぜ。どうも最近冒険者がここを通っていくが、何か儲け話でもあるんかな?」
「どういうことだ?」
店主に聞くと、どうやら最近この宿場街に冒険者が来ることが多いとのこと。
あくまで中継らしく、すぐに出て行ってしまうらしいが、例年に比べても多いらしい。
「まあ、冒険者ってのは良い依頼に食いつくからな」
「確かにな……ちなみにどこに向かったかとかは聞かないのか?」
「現役だったら聞いたかもな! まあ場所は聞いてないが、北西に向かう連中が多いらしい」
「……ふむ。これといって聞いたことはないが、そうなのか」
俺は考える素振りを見せつつも、内心「やはり」という気持ちだった。
冒険者というのは儲け話に聡い。
商人ほど嗅覚が鋭くないものの、その日暮らしの冒険者にとっては実入りの良い依頼というのは何としてでも取りたい仕事。
そのため、冒険者ギルドでも様々な情報がやり取りされており、少しでも冒険者が良い暮らしが出来るように情報提供がされている。
だが……
(王都本部で確認した限りでは、これといって良い依頼は無かった)
王都の冒険者ギルドは、その国に存在する冒険者ギルドの総括である。
そのため、もっとも情報が多く、精度も良いものが集まるのだ。
俺は出発前に、異名持ちのBクラス冒険者として王都ギルドに確認を取っている。
だが、北部や北西部においてこれといって目立つ依頼は無かった。
(そうなると、考えられるのは……)
もっとも可能性が高いのは、冒険者ギルドを通さない「直接依頼」と呼ばれるカテゴリの依頼だ。
通常、冒険者ギルドを通してなされる仕事の依頼を、依頼主が直接冒険者とコンタクトを取り、契約を行うもの。
多くの場合は秘匿性が高いものであり、報酬も良いのだが、報酬の未払いやトラブルなどの問題も起こりやすい。
また、口外できないような後ろ暗い依頼だったりもするため、余程信頼置ける相手でない限りは冒険者も依頼を受けることはまず無い。
「よっと、出来たぜ」
「ああ、話も楽しかった」
俺は串焼きを受け取りながら礼を言う。
フィアとノエリアは別の屋台でサンドイッチのようなものを買っていたので、そちらと合流する。
「フィア、ノエリア」
「ん、来たか」
「どこへ行ったかと思ったぞ」
「あら、ごめんね?」
そんな事を話しながら、近くのベンチに腰掛けて食べる。
どうやら串焼きはオーク肉らしく、かなりしっかりと食べ応えがあった。
そして、ハーブを使っていることで臭み消しもされており非常に食べやすい。
フィアとノエリアが買ってきたのは、BLTサンドのようなものだ。
どうやらこの辺りでは生野菜も手に入れやすく、こういったサンドが多いらしい。
飲み物はインベントリから果実水を取り出して飲む。
「美味いな」
「うむ、良い味付けじゃ」
「もう少し買っておいた方が良かったかしら」
インベントリがある関係で、こういう食品を大量に買い込んでおくということが出来るのだ。
おかげで長距離移動をしても、食を妥協せずにすむというメリットがある。
実際、冒険者として活動を始めた頃は干し肉や固い黒パンを食べていたが、あれはしんどいものだった。
まあ、小さい頃に慣れさせられてはいたが。
軍家である以上、軍事行動の際の食糧に慣れるという意味合いから、定期的に食べさせられていたのである。
そんな事を思い出しながら、俺は今後の予定を話す。
「さて、まだ昼過ぎだが、既に行程の半分は進んだからな。さっさと宿を取ることにしよう」
「そうね、ここから先はあまり良い宿場は無さそうだし」
フィアもノエリアの言葉に頷きながらサンドを口に頬張っている。
どうやらこのサンドはお気に召したらしい。後でそれなりに在庫を仕入れておくことにしよう。
「さて……そろそろ宿をとるか」
「うむ、その後また色々見に行こうかの」
「何かお土産があると良いわね」
どうにも目的が観光になっている気がするが……気にしても仕方が無いだろう。
二人を連れて、俺は宿を取りに行くことにした。
宿場というだけあって、先程の商業地区以外、ほぼ全てが宿と言っても過言ではない。
素泊まりのみのところから、高級な旅館まで様々な種類の宿がある。
さらには、冒険者ギルドと提携している宿もあり、冒険者であれば格安で宿泊できるようなものもある。
「うーん……流石に冒険者用の提携宿はやめておこう」
「あら、どうして?」
ノエリアが首を傾げながら質問してくる。
それに対して俺は、バッサリと答えた。
「風情が無い」
これである。
自分だけで泊まるのであれば別にそこでも良いが、折角婚約者2人と共に来ているのだ。
良い宿に泊まって、疲れを取った上で動きたい。
「ということで、一旦冒険者ギルドに向かうぞ」
* * *
「冒険者ギルドへようこそ! ご依頼ですか?」
冒険者ギルドに入り、カウンターに近付くと受付嬢が笑顔で声を掛けてくる。
どちらかというと、元気印というタイプでまだ若い。
恐らく、最近入ったばかりだろう。
今の時間帯は、冒険者たちは仕事中のためそこまでギルド内に人はいない。
精々仕事が終わって早くから飲んでいる冒険者くらいだろうか。
さっと見回してそんな状況だと認識してから、俺は受付嬢に答える。
「いや、少し聞きたいことがあってな。宿を探しているが、お勧めを聞きたい」
「宿ですね! 少々お待ちください!」
そう言って調べ始めた受付嬢。
その様子を見ていると、戸口の方が騒がしくなった。
「……ん?」
「なんじゃろうな」
「問題は無さそうだけど」
特に喧嘩騒ぎではないようだ。
どちらかというと、有名人がやってきたことで、騒いでいるというような感じだろうか。
どうやら受付嬢も気になったらしく、顔を上げている。
と同時に二人組の冒険者が入ってきたようだ。
「やあ諸君、出迎えご苦労! いやぁ、人気者は辛いなぁ!」
「ふふふ、有名税というものよこれは。甘んじて受け入れなさいな」
なんともキザな仕草をしながら周囲に声を掛ける男。
それを窘めるかのようにしながらも、艶のある笑みを浮かべて周囲に自慢するかのような表情を向ける女性。
男性はいわゆるイケメンと呼ばれるカテゴリだろう。
独特の淡いブロンド髪を手で掻き上げながら周りに群がる人たちに声を掛けている。
女性の方は割と露出の大きい服を着ており、杖を持っているところからして魔法使いだ。
(売名行為か? えらく派手だな……)
なんとも言えない気分だが、別に関係ない相手である以上気にする必要はない。
だが……
「おや?」
男の方がこちらに視線を向けた。
どうやらフィアとノエリアに目を付けたらしい。
「やあ、そこの美人さんたち。そんなうだつの上がらない男とでは無く、僕みたいな異名持ちの冒険者と一緒にいるべきだよ? いや、この出会いがそれを示しているね! さあ、僕の手を取りたまえ!」
事もあろうに絡んでくるとは。迷惑な話だ。
とはいえ、相手はフィアとノエリアである。
「実力も無い小僧は一昨日来るんじゃな」
「見た目しか取り柄の無い男なんて、御免だわ」
あっさりと振られるキザ男。当然だろうな。
心の中で「ザマァ」なんて思っていない、なぜなら俺自身がイケメンだからである。自分で言うな。
「なっ……!?」
だが、どうやらキザ男にとって振られるということは想定外だったのか、かなりのショックを受けて言葉を失っているようだ。
と、その様子を眺めていたらキザ男が俺の方に視線を向けてきた。
「貴様! 僕を敵に回したくないなら、その女を寄越せ!」
「……はぁ?」
え、言うに事欠いてこれか?
そう考えている間にも、キザ男は訳の分からない理論を並べ立ててくる。
やれ貴様には分不相応だとか、貴様程度の冒険者、簡単に潰してやるとか。
しかもこの男、この街ではそこそこに名が知られているらしく、ギルド内の女性職員や若い冒険者から俺に対して非難がましい視線が向けられるのである。
……権力で潰してやろうか。
それは置いておいて、良く口が回るものだ、なんて逆に感心してしまうレベルである。
そうしている内に、どうやら彼自身の自慢話になってきたようだ。
「僕はこう見えて異名持ちなんだぞ? 貴様程度でも知っているだろう、僕らは【竜墜】の異名を持っているんだ!」
……ほう。
一瞬、俺は苛ついた。いや、キレた。
同時に魔圧が周囲に広がり、それに反応した冒険者たちが肩を跳ね上げる。
「なっ!?」「!?」
どうやら正面のキザ男と魔法使いの女も気付いたようだ。
こちらに驚いた表情を向けている。
(ちっ……迂闊だったか?)
ここで騒ぎを起こすつもりは無かった。
だが、覆水盆に返らず。
こうなれば、逆に開き直る……というか、然るべき対応をすべきだろう。
「……ふっ」
そう思っていると、フィアが彼らに対して鼻で笑った。
それはいかにも「お主らこそ分不相応じゃな」と言わんばかりの態度である。
「なっ!? な、なんだ、その表情はっ」
フィアの態度にキザ男が食ってかかる。
だが、フィアは柳に風と流しながら口を開く。
「精々お主ら程度では、Cクラスが良いところじゃろ。そんなお主らが【竜墜】を名乗るなど……おこがましいわ」
「何!?」
フィアの一言は騒然とする冒険者ギルドの中に不思議と広がり、そのためさらに喧噪が大きくなる。
しかも、最後の言葉と同時に周囲に魔圧を拡げているため、言葉に“重み”を付けている。
そしてそれに対して二人組が反論する前に、今度はノエリアが口を開いた。
「確かにおこがましいわね。それにしても……北部では【竜墜】の名前は知られているのに、詳しい人物像は知られていないなんて。情報収集が甘いんじゃないかしら? この辺りの冒険者の質も、高が知れたものね」
ノエリアの言葉に対して反応したのは、俺たちの対応をしていた受付嬢だ。
「……何が言いたいんですか?」
ノエリアの言葉は、ある意味冒険者ギルドに対して喧嘩を売るような言葉だ。
お前たちは情報集めが下手だ、と暗に言っているようなもの。
だが、同時にノエリアの実力を感じているのだろう。受付嬢は【竜墜】を名乗る二人組に対して、少し疑いを持ち始めたようだ。
それを感じ取ったのだろう、ノエリアが言葉を続け、理由を説明する。
「はっきり言って、私は【竜墜】を知っているわ。彼らは私より上の実力者だし、手合わせをしたこともあるから。つまり……この2人が“彼ら”でないのは確かだわ」
――ザワッ!!
ノエリアの一言は更なる波紋を広げ、ギルド内では「まさか偽物?」とか、「いや、でも……」という声が聞こえ始める。
「で、でも……そんな状況で顔も見られないんじゃ……」
俺に向かって睨み付けるような視線を向けていた他の受付嬢が口を挟む。
だが、それに対してノエリアは飄々とした雰囲気で言葉を返す。
「あら、私の目を疑うのかしら? こう見えて私も有名なのだけれど」
「は、はい……?」
そう言いながらノエリアが刀を取り出す。
そしてそれを見た瞬間、受付嬢が固まった。
「き、【狂蝶姫】……!」
「ええ、そう呼ばれているわね。……さて、私の言葉の信憑性は確かだと思わないかしら?」
「え、ええ! はい、確かに!」
必死に受付嬢が首を縦に振る。
(ノエリア……君は一体どういう噂を立てられているんだ……)
俺としてはなんとも言えない気分ではあるが、俺よりも酷く動揺しているのが、例の二人組である。
必死に動揺を隠そうとしているのが分かるが、目の動きや微かな防具の音、そして汗の状態などが動揺を明らかに示している。
「そ、そうか……だが、あいにく僕は君のことを覚えていないんでね。……これで失礼するよ」
そう言いながら冒険者ギルドを出て行こうとする二人組。
だが、そうはさせない。
俺は【響駆】で彼らの後ろに立ち塞がる。
同時に、魔圧を用いて彼らに威圧を掛けながら、口を開く。
「そう急いで帰ろうとするな……ゆっくり話そうじゃないか」
「「ひっ!」」
短い悲鳴を上げ、1歩俺から距離を取ろうとする二人に、俺は1歩近付く。
「こ、こんなことをして許されると思うのか! ぼ、僕らは【竜墜】の異名持ちだぞ!」
そう叫ぶキザ男を見ながら、俺は鼻で笑う。
この二人は……一体誰の前で喋っているのだろうな。
「お前らが【竜墜】なら名乗ってみろ。俺たち三人は、【竜墜】をよく知っているぞ」
「ぐ……」
自分たちの不利を理解しているのだろう、どうにかして逃げようとしているようだ。
必死に周囲を見回しながら、さらに1歩下がる。
「どうした? 言えないのか? ……なら、次の質問だ」
俺は1歩踏み出す。
「【竜墜】の異名を付けたのは誰だ?」
俺がそう告げると、今まで口を開かなかった女性の方が口を開いた。
「し、知らないだろうから教えてあげるわ。異名というのは、決まった誰かではなく、誰とも無く言いだしたものなのよ」
確かに、と周囲の冒険者たちも頷く。
そして、そんな質問をした俺に対して不思議そうな、あるいは少し馬鹿にするような視線を向けてくる。
……ま、普通はそうだろうが、な。
俺はそう思いながらも、いい加減種明かしをしてやるかと思い、ギルドカードを取り出し、受付嬢に渡した。
「えっ?」
「俺のギルドカードだ。名前とクラスを見れば……ギルド職員なら分かるよな?」
「えーっと……えっ!? Bクラス!?」
ギルドカードを受け取った受付嬢は、しばらく眺めてから素っ頓狂な声を上げた。
そしてそれを隣で見ていた、先輩と思わしき受付嬢も俺のギルドカードを覗き込んでおり……
「これって……」
そう言うと、こちらに驚愕の表情を向けてから呟いた。
「……【竜墜の剣星】――レオニス・ペンドラゴン」
その呟きが広がると同時に、ギルド内が静寂に包まれた。
* * *
――なっ……
――あんな少年が……
ギルドの静寂を破るかのように、そんな呟きが耳に入ってくる。
そして、その呟きを始まりとして、ギルド内が騒がしくなっていく。
「あ……そ、そんな……」
「う、嘘よ……」
そんな騒がしいギルドの中で、膝から崩れ落ちている男女。
そして俺たち三人は、彼らを見下ろしながら逃げられないように囲む。
「さて……少しお前たちには聞かなければいけないことが出来たな」
「ひっ! ぼ、僕たちは悪くない!」
そう言いながら必死で逃げようとするキザ男。
だが、俺たち三人に囲まれている状態ではそれも無理だろう。まあ、油断するつもりはない。
俺は剣の柄に手を掛けながらにこやかに話しかける。
「安心しろ……大人しく話せば危害は加えんよ」
「うぅ……」
じりじりと追い詰めながら、俺は思考を巡らせていた。
『なぜ俺の異名を騙る者がいるのか』。
今の問題はこの点である。
通常、異名というのは周囲から付けられ、それが定着するものだ。
そして、異名を持つというのはそれだけの実力や能力を持っている証拠でもある。
例えば俺の父であるジークフリードは、【雷剣】の異名を持っている。
というのも、大剣に雷を纏わせて攻撃するという特異性と、その攻撃による圧倒的な破壊力が有名だからだ。
対して、俺の【竜墜の剣星】という異名は功績を元にしているものだ。
ドラゴンを撃退し、その攻撃がまるで流星のように速いということから名付けられたもの。
さて……異名というのは畏怖の対象になると同時に、ある者たちにとっては『どうにかして手合わせしたい』というものになる。
ノエリアが良い例である。
そうなると、実力も無いのに異名持ちであると偽った結果、凄惨な事になる場合があるのだ。
実際に昔、有名な冒険者の異名を騙った詐欺師が、戦闘狂に挑まれて何も出来ずに死んだという話がある。
なお、原因となったのが詐欺師の詐称だったこと、大勢の目の前で正々堂々と決闘形式で行われた事から、この戦闘狂は罰金を払って終わりだった。
ちなみに決闘形式で無く、誰も人が見ていない場合であれば、この戦闘狂は犯罪者として奴隷落ちになる予定だった。
というわけで、異名を騙るというのは相当危険な事なのである。
法律上一応問題はないものの、俺のようにBクラス冒険者の異名の場合は詐称罪、名誉毀損で訴えることも出来る。
なにせBクラス冒険者は準貴族扱いなので。
(そうなると……誰か背後にいるということか? だが、少なくとも王都近隣……いや、あの成年の儀の場にいた者であれば、俺と“レオニス”が同一であることを知っている)
少し調べれば、俺の異名が【竜墜の剣星】であることは簡単に分かるはず。
そのため、俺の異名を騙るということがそう簡単にできるはずはないのだ。
(それとも……俺の異名に傷を付けるという目的でもあるのだろうか?)
確かにその可能性も否定できない。
今の俺の立場は王に次ぐ権力だが、実際はそこまで安定しているわけではないのだ。
父のように軍と直接的に関係があるわけでもないし、魔道士団との繋がりが深いわけでもない。
俺と繋がりが深いのは、俺直属の騎士であるメンバーとレオーネ商会くらいである。
貴族たちにとって、新興も新興の俺に対して近付くというのはメリットがあまりないだろう。
なにせ、別に俺は次の王というわけではない。
王弟位に就いているとはいえ、基本的に王位継承を行うつもりはない。
そうなれば、俺の見方をするというのも貴族にとってはメリットが少ないのだ。
(もう少し仲間を増やすべきだろうか……だが、自分の派閥を持つというのもな……)
面倒な事はしたくない。
まあ、面倒に巻き込まれることは多いのだが、わざわざ面倒なものをさらに背負いたくはない。
そんな事を考えながら、俺は二人組から情報を得ることにしたのだった。




