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異世界冒険譚~不遇属性の魔術師《コードマスター》~  作者: 栢瀬千秋(旧:火跡夜隊)
第5章:ベネトナシュ騎士団
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第71話:出発に向けて

更新が遅くなりすみません。

全く内容が思いつきませんでした……

「――そのようなわけで、今度はカリャキン男爵領に行くことになった」

「どうしてそうなったんじゃ……何が『そのようなわけ』なんじゃ?」


 俺は、先程陛下から受けた命令についてフィアに話していた。

 というのも、フィアは俺の部下としてでは無く、王国魔道士団の特別顧問の立場を得ている。

 これは、魔道士団長である俺の母ヒルデによる推挙であり、同時にフィアは【導師(マスター)】階位を得ている。

 さらに、王族であるエリーナの警護としての立場もあり、多くの場合はエリーナと共に動いている。


 なぜ俺に付いていないのか。

 それは、騎士や軍サイドに立つ俺やノエリアとの住み分け、言うなれば魔道士団側の情報を得るための策である。

 同時に、今後の動きを考えるに俺の専属ではなく、エリーナの専属となることで、王族としての立ち振る舞い、特に王族女性としての立ち振る舞いを学んでいるらしい。


 本人曰く、『えらい面倒な仕来りが多いのう』ということだったが。

 さて、話がずれたが、つまりは現在、一緒に仕事をしていないということでもある。


 今俺と一緒に仕事をすることが多いのは、ノエリアだろう。

 彼女は、現在ベネトナシュ騎士団の剣術指南役としての立場を得ている。

 それに、彼女は元々ドワーフの王族であるため、その方面の十分な教育を受けている、というのもある。


 そのようなわけで、仕事時間とは別にフィアとは話を持つ時間が必要になるのだ。


「……しかしのう、わざわざお主が出るようなことかのう?」

「まあ、基本的には俺が出る必要はない。だが、俺が直接動く事で、煩雑な手続きが不要になり、俺の裁定権を用いれば即時に動けるしな」


 通常、監査というのは役人の仕事である。

 だが、現在どうもきな臭い状態であり、恐らくこちらからの監査役がいなくなったか、あるいは丸め込まれた状態において俺が動くならば即座に判断できる。

 特に、このような貴族の不正に関する処理を、国王の次点で処理できるのが俺の立場だ。

 それは貴族位の剥奪はもちろん、拘束や連行といった警察権の執行もできるのである。


「一応、俺の騎士団から数人動かすさ。別に王国騎士団から数部隊送ってもらうしな」

「ふむ……それならまずまず、か。よいじゃろう」

「よし」


 フィアが了承したため、これで問題なく動ける。

 俺は残りのスケジュールを考えながら、予定を立てるために執務室に戻ろうとした。

 だが、その時フィアから「待った」が掛かった。


「そうじゃ、話しておらんことがあったのじゃ。少し話せるかの?」

「どうした?」


 フィアが俺を引き留めたのはなぜだろうか。

 そう思いながら聞き返すと、冒険者稼業とは別の話だった。


「実はな、以前話しておった【マギ・カリキュレータ】の試作が出来上がりそうじゃ。じゃが……」

「?」


 少しフィアが言いにくそうに口ごもる。

 ちなみに、【マギ・カリキュレータ】については俺とフィアが別れていた間、例の研究所で新しい理論を立ち上げたものらしい。

 結構大変という話を聞いていたが、もう完成間近なのか。


 だが、なぜフィアが少し言いづらそうなのか。

 その理由は次のフィアの言葉で理解できた。


「実はの……中央演算部を組み上げる上で必要になるコアのパーツが足りんのじゃ」

「……何気に重要部じゃないか」


 どうしたものか……

 流石にハードウェア部なんて俺は作成したことが無いし、大体この世界の(旧世界のだけど)技術でどうやって仕上げるのかすら分からない。


「で、どうしたらいいんだ?」

「うむ、実はな……材料はある」


 あれ? 材料があるのか?

 なら、なぜパーツが足りないという話に?


「……材料はあるんだろ?」

「うむ」


 俺が首を捻っていると、フィアが答えを述べた。


「加工ができん」

「……え?」

「加工のための機材がない」

「……えぇー」


 まさかの製作道具の問題かよ。

 詳しく聞いたところ、材料となるのは魔石だそうだ。

 だが、その魔石を【魔晶】と呼ばれる結晶に仕上げるには、専用の道具がいるのだそうである。


「……研究所には?」

「無いのう……」

「マジか……」


 【マギ・カリキュレータ】製造頓挫。

 どうしたものか……


「ま、まあ、しばらくは妾が作るからな! 心配するな、レオン!」

「まあ……そうだな」


 とは言っても残念なものは残念なんだがな。

 今回の調査で、見つからないものだろうか……


 * * *


 2日後。


「――ここに、ジェラルド・カスティージョを名誉子爵位に叙勲し、ベネトナシュ騎士団2番隊長に任ずる。力を尽くせ」

「御意。我が剣も、名誉も、全て殿下に捧げます」


 俺は騎士剣を抜き、剣の腹の部分で軽く、跪いたジェラルドの肩を叩く。

 これで正式に俺の部下の騎士、そして名誉貴族となった。


 名誉貴族というのは、一代限りの爵位。

 基本的には、何らかの功績を挙げた庶民の褒賞や、あるいは近衛騎士として働く際の立場として扱われるもの。

 貴族としての義務というのは基本的にないが、爵位がものを言う世界にあって、名誉位とはいえ爵位を得るというのは、部下の統制だけでなく、仕事をする上でも必要になる。


 特に星黎殿では貴族位を持つものでなければ入る事ができない場所もあるため、プラエトリアの騎士にとって爵位は重要だ。

 貴族に仕える準貴族扱いの騎士では入れない場所にも、名誉貴族持ちであれば入る事ができるからな。


 俺が直轄するプラエトリア、【ベネトナシュ騎士団】では団員は全て名誉男爵位を得るようになっている。

 団長であるガインは名誉伯爵位であり、その直下である各隊長たちは名誉子爵位を得る。


 ああ、そうそう。

 名誉貴族位の場合、名前に貴族を示す前置詞「フォン」は入らない。

 退団と同時に名誉爵位を失うため、どうしてもこれは仕方の無いことだ。

 逆に、ガインなどは元々貴族出身であるために名前に「フォン」が入っている。


 さて、この叙勲式。

 俺がジェラルドを叙勲するというものであることにお気付きだろうか。

 大公位を持つ俺の場合、実は叙勲権を持っているのである。

 もちろん名誉爵位だけでは無い。必要であれば世襲爵位も与えることができる。

 だがまあ、領地を持たない以上必要性は感じないのだが。



 さて、叙勲式を終えまして。


「さて、ジェラルド」

「どうした、殿下?」


 執務室に戻り、少しだけソファーで休憩する。

 ミリィが紅茶とお菓子を持ってきてくれたので、俺は隣にノエリア、対面にジェラルドを座らせて話し合うことにした。


「少ししたら例のカリャキン男爵領に向かう。お前は数人連れて、俺たちとは別ルートで入れ」

「了解」


 叙勲式なんてものはあっさり終わらせて、さっさと執務に戻る。

 そうでもしないと、やることは沢山あるのだ。

 さらに、俺やフィア、ノエリアがしばらくいないため、前倒しで終わらせるべきこともあるわけで。


「いつ頃動く予定なんだ、殿下?」

「一応、来週頭だな」

「マジか……」


 仕事の忙しさもさることながら、どうやって潜り込むかを考えているのだろう。

 とはいえ、そこは俺に任せて欲しい。

 俺がベルを鳴らすと、スヴェンが入ってきた。


「失礼します」

「スヴェン、よく来た」


 スヴェンは現在、「スヴェン・アルステッド」と名乗り、俺のプラエトリア騎士として名誉子爵位を与えている。

 1つの隊を預かる隊長格だ。といっても、大体俺の護衛として扉の前に立っていることが多いが。


 俺はスヴェンに座るように指示し、必要な事を尋ねることにした。


「スヴェン、今でも【黒鉄】の名前は使えるか?」

「ええ、もちろんです」


 スヴェンからの返答を聞き、俺は決定した。


「ジェラルド、そしてスヴェン。それぞれ2名の部下を選び、合計6人で【黒鉄】としてカリャキン男爵領に入れ。噂を聞いて来たという体でな」

「なるほど」

「そいつぁ良い」


 二人とも了承してくれたようだ。

 これで、少しは上手く行くだろう。

 “もしも”が発生すれば、合計9人でどうにかできる。それだけ鍛えたんだからな。


「では、以上だ。副隊長は残せよ? 仕事が滞るぞ?」

「はは、そりゃそうだ……引き継ぎかぁ……」

「もちろんです」


 ジェラルドは少し頭を抱えているようだ。

 引き継ぎって面倒だからね。

 対するスヴェンは、真面目だからというかこういう調整はしやすいタイプだ。


 対照的な二人だが、だからこそ上手くいっている気もする。

 そんな事を考えながら、俺は旅に向けて思いを巡らせるのであった。


 * * *


 当日。


「レオン、気を付けてくださいね?」

「ああ、エリーナも。叔母上や母上と共にいてくれ。何かあったら困るからな」

「ええ、もちろんですわ」


 出発前に双竜離宮のホールでエリーナと話す。

 彼女としては付いてきたかったらしいが、流石に王女を連れて行くのは難しい。


 ならお前は何だ、と言われそうだが。

 俺は既に冒険者として高クラスだからいいのだ。

 だが、今回は「冒険」という名の「調査」であり、必要であれば断罪も行わなければいけない。


 普通の遺跡調査くらいなら良いんだがなぁ……と思いつつも、こればかりは仕方ないからな。

 その分数日エリーナと一緒に過ごしたのだが。


 ジェラルドとスヴェンは既に出ている。

 少しタイミングをずらして動く事にしたのだ。


「フィアもノエリアも、レオンをよろしくお願いしますわ」

「うむ、任せておれ」

「ちゃんと手綱は握っておくわ」


 エリーナはフィアとノエリアにも声を掛けている。

 というか、なぜ「手綱を握る」と言われるのだろうか。別に俺は何もやらかさないぞ?


「レオンはすぐ隠れて動くんですの」

「む……」


 それを言われるとなんとも言えない。

 確かに俺は正面突破も好きだが、裏から手を回すのも好きだ。

 というか、裏では正面突破する事が多いというか。


「……何かあってもどうにかなるさ」

「こっちを見て話してくださいまし」


 微妙に視線が逸れていることを見とがめられた。

 実力的にも、早々問題が起きるはずも無いんだがな。

 とはいえ、待たされる側というのは往々にして心配にもなるから、言われておくしかない。


 さて、そろそろ行こうか。


「では、行ってくる」

「ええ、待っていますわ」


 エリーナに見送られながら、俺たちは馬車に乗り込む。

 とはいえ、流石に王城から冒険者の格好では出られないので、【月夜の歌亭】に移動し、そこから冒険者の格好で出て行くのだ。


 【月夜の歌亭】では、相変わらず気怠げな女将に見送られる。

 彼女は【黒揚羽】の一人だが、どのタイミングで行ってもいるんだよな……組織はどうした。


 そんな事を考えつつ、俺たちは【水簾門】という名の一般用出口から出ていく。

 といっても、本当は一般人では無い。


 Bクラス冒険者は準貴族扱いだし、(レオニス)は今でも【特務近衛騎士】なのだ。

 そのため、星樹門を使おうと思えば使えるのだが、その場合どうしても報告が上がってしまう。

 貴族の王都への出入りというのは、国としてきちんと把握していなければいけないからである。


 カリャキン男爵は領地貴族だし下級貴族であるため、まず星黎殿内部に情報網を持っているとは思わないが、念のため。


「でも、こんな感じも良いわね。普段馬車だし」

「確かに、王都では馬車移動だったな」


 ヴェステンブリッグでは普通に門を出入りしていたが、王都に来てからはまず王都を出ていないし、王都内では立場上馬車か馬での移動だ。

 そう考えると、徒歩で王都を出るというのは初めてかも知れない。


「妾はここに来たときは門を通ったのう……かなり爆走しておったが」

「……」


 フィアがここに来た方法が方法だ。

 赤竜の背に乗ってここまで飛んできて、しかもBクラス冒険者としての立場で通過している。

 その後は街中を爆走して王城に突撃したため、こんなのんびりとした動きでは無かっただろう。


 なんとも言えない気分になりつつ、俺たちは王都を出たのであった。



 さて……今後は陸路を爆走する予定である。

 ノエリアもこの半年ほどで色々身につけたからな。

 実は、ノエリアは闇属性に適性のある【白】だった。


 【白】であっても、実は光と闇属性については習得できる可能性がある。

 というのも、【光】そして【闇】はどちらも精神性による要素が大きいからだ。


 精神を元に魔力により敵を「拒絶」し、境界を生み出すのが【光】。

 精神を元に魔力により相手を「容認」し、境界を曖昧にして入り込むのが【闇】。


 そのため、教会に入り信仰心が高まれば【光】が扱えるようになりやすいのだ。

 逆に【闇】の場合、相手を容認し、相手の精神に入り込む。


 そのため、光の習得以上に自分の精神の強さが求められる。

 ある意味自我が強いと言い換えても良いだろう。


 それだけの精神性は、普通の人族では持ち得ない。

 できるとすれば、長命種であるエルフなどだろうか。エルフは竜ほどでは無いが長生きだからな。

 そう考えると、ノエリアは相当才能があるとも言えるだろう。


 なお俺の場合、前世の記憶が邪魔をしているのか未だ習得できていない。

 精神力は大概だと思うのだが……


 まあいい。

 つまりはノエリアにも、必要な魔術は教えているということである。


「今日はどうするの? 流石にこれでも今日の内には到着しないでしょ?」

「ああ、一旦途中の街で泊まるぞ」


 カリャキン男爵領は、北方……北西に位置する山間部の領地。

 ヴェステンブリッグから王都に向かうほどでは無いが、それでも普通の馬車ならそれなりに時間が掛かる。


 カリャキン男爵領周辺は、あいにく大きな貴族領は無い。

 大体が準男爵位か男爵位の貴族が治める土地であり、「小領主群域」といわれることもある。


 準男爵領で4つの村、男爵領で1つの町と2つの村といったところだろうか。

 地産地消を地で行くような素朴な領地が集合しているエリアだ。


 その中で、カリャキン男爵領は2つの町を治める。

 このエリアの筆頭貴族と言えるだろう。

 だが、かつての問題により、今では影響力も資金力も抑えられていたはずなのだが……


「これ」

「ん?」


 フィアから窘めるような声を掛けられ、そちらを向く。

 すると、フィアの人差し指が俺の頬に突き刺さった。


「うおっ」

「今難しいことを考えても、詮無い事じゃ。それよりも、今どうやって楽しむか考えた方がよいじゃろ」

「……確かにな」


 こういうところは流石だと思う。

 色々考えすぎるよりも、今の最善を尽くしていくことが大事だ。

 彼女の言う“楽しむ”というのはそういうことなのである。


 さて、俺たちはこんな話をしつつも現在道から少し離れた場所を爆走中である。

 時速にして、約50キロ程度だろうか。

 前世で考えればなんて無いスピードだが、この時代では明らかに異常なスピードだろうな。

 俺たちはとにかく目的地……というか今日の宿泊地に向けて一直線に走るのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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というより、星が増えると作者も頑張る気になれます(・ω・=)

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