第1話:全ての始まり
懲りずに新作です。
といってもどうせ舞台は一緒だよ!
はよ前の仕上げろと言われそうですが、今回の話の方がしっくりくる気がします。
よろしければご覧ください。
* * * * *
『くっ……』
全身を苛む痛み。
原因は自分にあることは重々承知だ。
『反逆者め』
目の前に立つ連中の声が聞こえる。
こちらを人と認めていないような――いや、まるで自分たち以外を蔑むような目だ。
まるでこいつらは成長していない。
進化を謳いつつ、その実破滅をもたらす愚か者共。
『……「反逆者」か。ではお前達はなんだ、「破壊者」か、それとも「愚者」か?』
『黙れ』
いつもこれだ。
自分たちに理解出来ないもの、納得いかないものを無視しやがる。
その結果どうなるか、考えようともせず、黙殺し、あるいはそのものを隠蔽しようとする。
『黙ったところでどうなる? どうせ、お前達は俺を殺すつもりだろ? あの老害共も、本当に成長しないというか……』
『貴様……元老院を侮辱するか!』
元老院、ねぇ。
ご大層な名前を掲げているが、結局自分の権益を守るためだけの寄合じゃないか。
国王を導くと言いつつ、実際には足を引っ張る連中。単なる害でしかない。
そう考えつつ、俺は隣に倒れている「彼女」に目を向けた。
まるで眠ったかのように安らかな表情。
あながち間違ってはいないのだが。既に永遠の眠りについているのだから。
愛しい彼女の美しい紅色の髪を撫でつつ、来るべき時を待つ。
そうしながら、俺を睨み付ける連中をからかいつつ時間を潰していると、下から足音が聞こえてくるのが分かる。
遂に来たか?
そう思っていると、白髪と白髭を湛えた老人が現れた。
『遂に追い詰めたぞ、ヴァイス。お前もここで終わりだな』
『………』
くだらないヤツだ。
自分が国を操りたいからと好き勝手行動し、結局は無駄に終わるのだから。
どのみち俺はこいつと会話なんぞしたくないが。
『何とか言ったらどうだ? 結局貴様は陛下を守れず、いや死なせた罪で終わるのだ』
『……お前と話していると馬鹿が移るから願い下げだな』
こいつは本当に理解出来ない。
俺や彼女が必死で組み上げたものを、自分の願望だけで奪おうとするのだから。
話しているだけでこっちの頭が悪くなりそうだ。もちろん馬鹿は移るものではないが。
……ある意味、頭の悪い話をしているなら影響を受けてしまうな。
まあ、そんな事はどうでもいい。
俺も彼女も、「この世界」を守るために全力を尽くした。
だからこそ、彼女は先に逝き、そして俺もこれから向かわなければいけない。
その前の後始末だ。
ちなみに、俺のさっきの一言でヤツの取り巻きが騒いでいるが、単なる雑音でしかない。
『減らず口を。まあいい、正当な方法で処理するつもりだったが、貴様がその気ならここで処理することにする。無駄死というやつだな』
『さぁ、どうかな』
さあ来い。俺はここだ。
お前の「知っている」俺の弱点を突いてこい。
そうしている間にも、老害が武器を抜いて構え――その場所を貫いた。
『ぐっ……』
『ふっふっふ……これで目障りな者は消えた。遂にこの国を我が手に出来るぞ……!』
笑っているな。
自分の思うようにいったと、自分の勝ちだと喜んでいるな。
だが――それは俺の方だ。
『……む?』
流石に愚鈍なお前らでも気付くだろう?
『な、なんだ……力が……いや身体が、消えて……!?』
まず一人。
ヤツの手下の一人が、手の先から徐々に消えていく。
『貴様! 何をしたっ!?』
教えるかよ。
どうせ理解出来ないだろうから。
『これは……魂が……!』
ほう。気付かれたか。
身体が消えることは理解出来ても、何を消しているか理解出来ないと思っていたが。
『ヴァイス貴様……! 儂らの魂を……』
老害が床に這いつくばりながらこちらを睨む。
ゆっくりと立ち上がった俺に合わせて、ヤツの視線が上がっていく。
さて、と。
『珍しく、理解が早いな。だからどうという訳ではないが』
『ぐっ……貴様……』
『やれやれ……大概注意していたんだが、案の定取り込まれていたか……』
ヤツの魂には、明らかに例の影響が見られた。
しかも、それが世界に影響を与えるようにまで改造されたのが今なら分かる。
『どういう意味だ……』
『なに、簡単な話さ。邪神に憑かれたというだけのな』
『なん……だと……』
さあ、幕引きだ。
彼女を待たせるわけにはいかないし、これ以上この世界への影響を出されると困る。
『ま、己の不運を呪うんだな――【アニマ・イレイズ】』
手をかざし、俺がそう呟くと同時にヤツは消えた。
無論、ヤツの手下も全て。
『ふう……』
溜息を吐きつつ、彼女の身体を抱きかかえる。
彼女は先に送り届けた。
あくまでこの身体は抜け殻みたいな物だが……それでも、他の奴に触られたくはない。
『ぐっ……』
流石に血を流しすぎたか。
微妙に意識が朦朧として来た。
だが、まだだ。
俺は扉を開け、外に出る。
そこからは、見渡す限りのビル群がある。
水平線に目を向けると、夜明けと共に顔を出そうとする太陽の光を感じた。
『……空は美しいな』
もう一度、彼女と飛びたかった。
だが、今はもう時間がない。
次の機会に持ち越しとするか。
しばらく空を眺めていた俺だが、そろそろ仕上げに移らねば。
腰に下げている小太刀を抜き、胸に当てる。
覚悟はしているが、流石に緊張する。
息を整え、大きく息を吸うと同時に――
――俺は自分で自分の胸を刺し貫いた。
『……ぐっ……よし』
自分の力が解放されていく。
唸りを上げ、空間を歪める勢いで、魔力が噴き上がる。
さあ、今こそこの世界を解放しよう――
新たなる世界の到来のために――
『全て遍く 浄化され 新たなる世界の 礎となれ――――』
全てを塗りつぶしていく白い光。
暖かなそれを感じながら、俺は最後の言霊を紡ぐ。
願わくば、未来に幸あらんことを。
『――――【創世】』
* * * * *
(定時って、なんだろうな……)
この頃の俺は、本当によく生きていたと思うよ。
中々就職できず、さあ就職したと思ったら結局ブラックでしたというオチ。
最初の頃は良かったんだが……
「働き方改革」? そんなものは最初の1ヶ月で終了だったな。
残業がダメなんじゃなくて、30時間越さなければいいんだよ、って。
あの時点で毒されていたんだろうな。
え、今何をしているか?
見りゃ分かるだろ。ひたすらコード書きだよ。
手が勝手にキーボードを叩いてくれる感じ。
入っちゃった感じだな。
俺に限らず、みんなそうだと思う。
隣のヤツも、後ろのヤツも、みんな手だけは動いているんだ。顔は死んでるが。
考えなしに仕事を取ってくる上ってなんなんだろうか。
いや、仕事がないのも困るんだが……。
ま、俺は家族もないし、一人住まいだから別にいいんだ。
他の連中で結婚しているヤツは、相当辛そうだな。
「……これ」
「……おう」
隣のヤツから何か来た。
ああ、新しい仕様ね。
課長が機械音痴過ぎて、こう言うのプリントして渡すんだよ。
うっとうしい。
しかし……なんかさっき夢を見ていた気がするな。
ちょっとトイレがてらコーヒーでも飲みに行くか。
《トイレ行きま》
《りょ》
《りょ》
《はよ》
チャットで他のメンバーに伝えてから席を立つ。
しかしこの職場、トイレが別の階というクソ仕様。
女子トイレは同じ階だが、男性用は上か下の階なんだよな。
コーヒーのためにも急いで階段を駆け下りて……
あれ?
階段が……正面に?
おや、天井が……
――ゴンッ!!
あれ……身体が動かん。
頭打ったか?
あ、意識が――――
* * * * *
「…………嫌な夢を見たな」
久々に昔の夢を見た気がする。
結局私は、あのときに死んだのだろう。
「……~~」
欠伸をしながら、ベッドから降りる。
私の名前はレオニス。
現在11歳の冒険者だ。子供冒険者である。
今私が住んでいる都市、【ヴェステンブリッグ】は【冒険都市】とも呼ばれる都市。
有数の大国である、【グラン=イシュタリア王国】の西方辺境の領都でもある。
ここでは、孤児や貧しい子供たちのために10歳から冒険者登録が可能になっていて、私もその一人として働いている。
まあ、子供と言っても、前世の国における子供と比べて体格も力も強いし、教育も早くから行われるから、実際のところ10歳の時点で12歳レベルと考えても間違っていない。
つまりは、私もそれなりに大きいというか……現状、身長が160センチくらいはある。
ただ、この世界では2メートルくらいの身長の人もいるので、年齢にしては大きいが、だからといって目立つわけではない。
さて、今日も仕事だ。
といっても、冒険者としての階位は【Eクラス】なので、下から2番目。
いずれにせよ、ゴブリン討伐と採取だ。せいぜいコボルトが出てくる程度だろう。
子供の冒険者は受けられる仕事が決まっている。
基本的には店や大きな家の雑用であったり、少し外に出て薬草採取を行う。
登録して1年は、このような雑用をすることで見聞を広め、人との繋がりを持ち、社会を学ぶ。
その後クラスが上がれば、遂に魔物と呼ばれるモンスターの討伐に参加することが出来るようになるのだ。
だが、それもこの都市にあるダンジョンの浅い階層だけ。
13歳になるまでは制限が掛けられている。
理由としては、子供の犠牲を減らすことらしい。
その分、冒険者登録をしている子供たちには住居と、最初の装備の支給があるのだ。
大きな討伐などは、大人になってから行えばいい。それまで地力をつけさせるというのが領主の方針だとのことである。
そんな私も洗顔したり、自分の装備を調えたりして準備を終えた。
さあ、働きに行こう。
* * *
宿舎から20分ほど歩くと、【冒険者ギルド】の看板が見えてくる。
戸口のところでは、何人もの冒険者が出入りしており、一人で行動する者、複数人でパーティを組んで動いている者など様々だ。
「よっ、レオニス」
「ああ、おはよう」
歩いていた私に声を掛けてきたのは、私より少し背の低い少年だった。
彼は今私が加入しているパーティのリーダーで、いつものようにラウンドシールドと片手剣を装備している。
元気溢れる彼は、その赤い髪も相まってまさに周りを引っ張る雰囲気を持っている。
恐らく彼のパーティメンバーは、そんな彼の雰囲気に惹かれたのだろう。
私?
私は元々ソロなのだが、彼らのパーティの戦力補強のためギルドから加入を求められただけである。
まあ、彼らのパーティは雰囲気が良く、この都市でも評判がいい。
普通、子供冒険者がやりたがらない雑用や掃除などの依頼も良く果たしている。
「今日はどうするよ? やっぱりダンジョンか?」
「そうねー、それが無難にいいわよね」
冒険者ギルドに入ると、彼のパーティメンバーが既に待っていたようで、どんな依頼を受けるか考えているようだ。
「おっす!」
「お、来たなリーダー。レオニスも」
「おはよう」
挨拶をしつつ、今日の流れを考える。
やはりダンジョンが稼ぎやすいのは事実であり、低階層なのでこのメンバーなら十分だろう。
「なら、【ゴブリン討伐】と【薬草採取】にするか」
『『了解!』』
少しここで説明しておくと、普通冒険者が受ける依頼は、依頼ボードに貼ってある分を取って受付に申請することで受けられる。
つまりは、取り損ねると仕事を受ける事は出来ない。
これは当然だ。
同じ依頼を何人も受けるのは無駄であり、おかしいことだからだ。
だが、ダンジョンの依頼は違う。
ダンジョンはいわば素材の宝庫。
どんなに討伐しても、時間経過と共に魔物はまた出てくる。
薬草も、2日すれば元通りになるのだ。
それで、ダンジョン依頼の場合は依頼の種類がリストで張り出されており、それを受付に申告するだけで良い。
ちなみに手に入れた素材については、基本的にはギルドに買い取ってもらうのだが、自分が使いたい場合は、買取価格の1割をギルドに納める。
ちなみに依頼を受けていないものを討伐、あるいは採取した場合、それらの素材は自分の持ち物として受け取れる。
ただ、ダンジョン自体には依頼を1つは受けておく必要があるし、依頼を受けていないものを討伐しても余程でない限りはクラスアップの功績にも加算されないというデメリットらしきものがある。
こうやって、円滑に回しているのだろう。
「おーい、受付してきたよ」
「おう! それじゃ行くか」
パーティのシーフ役の少年が戻ってきた。
さあ、仕事開始だ。
* * *
「とはいってもな……」
「「ギャッ……」」
左右から襲ってきたゴブリンを一刀で斬り捨てる。
本音、ゴブリン程度ならすぐに処理できる。
まあ、私の場合は体系的にしっかり訓練をして来たからな……それに耐えられるだけの精神力もあったし。
人型の魔物の多くは頭が良いはずなのだが、どうもゴブリンというのは馬鹿で、気配をすぐに掴める。
上位種であればもう少し戦術とかも使ってくると聞いたことはあるが……
とはいえ、他のメンバーからすれば魔物に変わりはないので……
「右だ!」「はああっ!」
「危ねえ!」「そこっ!」
とはいえ皆危なげなく戦っているな。
善哉善哉。
いくら雑魚とは言えども魔物。
魔物は魔力の多い土地に生まれ、繁殖力も強く、力がある。
どこぞの高速機動の黒い虫ほどではないにせよ、常に討伐依頼があり、ともすると物理攻撃を受け付けないものもいるのだ。
ダンジョンは魔力が多いから、ひたすら魔物が湧く。
数は力と言うように、いくらゴブリンでも集団で襲われてはひとたまりもない。
と、暢気に説明しているのだが、私たちはまさしく集団に襲われた。
この機会だから、二人一組での戦闘に慣れさせよう、という私の方針で彼らは戦闘している。
最初は危なっかしい戦いだったが、今では十分戦えているな。
「最後の……1体!」
「ギャアアッ!」
今リーダーが倒したのがちょうど最後だな。
『『よっしゃあっ!』』
「お疲れ」
討伐を終え、ガッツポーズをしたり、ハイタッチをしているメンバーに声を掛けると、向こうからもねぎらいの言葉が飛んでくる。
「レオニスもお疲れ!」「いや~、助かったぁ……」
そうお喋りをしながら、ゴブリンの討伐部位を回収していく。
ゴブリンの討伐部位は右耳。それと、魔石をきちんと回収しておかなければな。
「ほら、剥ぎ取るぞ」
『『ふえ~い』』
気の抜けるような返事をするメンバーだが、それもそうか。
これだけ戦ってすぐに剥ぎ取りというのは、ある意味拷問に近いかもな。
「うぅ……ゴブリン臭いよ……」
「少しくらい休みたかった……」
泣き言を言っているのが約2名いるが、放置。
ダンジョンで魔物を放置すると、しばらくしてダンジョンに吸収されるのだ。
一説によると、ダンジョンはいわば魔物の一種で、倒される魔物の生命力や魔力を吸収して成長するらしい。
さらに、人が出入りすることでも、少量の魔力を得る事が出来るらしく、成長すると共に新たな魔物を生み出すそうだ。
もちろん、人が中で死亡した場合も吸収されてしまうので、どうしても遺体を回収するのであれば早めにしなくてはいけない。
まあ、話が逸れたが、つまりはすぐ剥ぎ取りをしなければ消えてしまうので色々損することになるのだ。
私も自分が討伐した分をひたすら剥ぎ取る。
結局、パーティで30体近いゴブリンを討伐したことが分かった。
これならパーティで分けてもかなりの金額になるな。
依頼単位としても複数回という扱いになるし。
それが分かっているからこそ、皆必死で剥ぎ取りをしたのである。
「終わった~……」
「臭い……」
ゴブリンは雑食性で、それこそ腐肉も食べることで有名だ。
そのためゴブリンの肉は非常に臭く、食べるものではないと言われる。
どうしても討伐後の剥ぎ取りで触らなければいけないため、どうしても臭いが付いてしまい、しばらく取れないので女性陣には特に嫌がられる。
だが、ありがたいことにこれは対策が存在する。
「ほら、【消臭剤】だ」
「「ありがと~」」
リーダーが出したのが【消臭剤】。
これはとあるスライムから手に入る体液を薄めたもので、消臭効果が非常に高い事で知られている。
これは比較的安価で販売されているため、私たちのような子供冒険者もすぐに手に入れることが出来るのだ。
ちなみに私は私で自前の消臭剤があるので、それを使う。
どうしても仮加入のパーティなので、正規メンバーの共有物を使うわけにはいかないからだ。
「さて、そろそろ戻るか」
少しの休憩の後、皆でダンジョンを離脱することにする。
「帰ったらなにする?」「装備の修理しなきゃ」「串焼き食べに行こうぜ」
そんな事を口々に言いながら、皆で帰路に着く。
私たちだけでなく、他にも同じような少年少女のパーティがおり、やはり同じような話をしているのが聞こえてくる。
これが私たちの日常。
大人になれば変わるだろうが、今はこの生活がすべて。
だが、どうやら今日は違っていたらしい。
だからあの夢を見る日は嫌いなのだ。
――大抵、日常が「異常」になるからな。
なんでこのようなことを話すかというと。
――うわああああっ!!
――逃げろ、早く逃げろ!
――た、助けて……!
ほら、悲鳴が聞こえてきた。
声からするに近い年齢の少年少女たちだ。
気配からして、こちらに向かってきているのが分かる。
どうやら他の連中も気付いたらしく、武器を構え始める。
まだEクラスに上がって間もない連中のようで、こちらを伺っているのが分かる。
確かにこの場では私たちの方が経験があるか。
「レオニス……」
リーダーが声を掛けてくる。
こいつのいいところは、こうやって意見を聞くことだ。
見た目からすると猪突猛進に見えるが、意外と慎重で、よく考える。
「……追われているな。4人……後ろから1体だが……」
私が気配として捉えているのは4人の人間と、それを追う魔物1体。
「どうする?」
「ヒーラーを守れ。防御優先だ。アーチャーは牽制。シーフは足止めとなるトラップを組め。状況次第だが、シーフは最悪後ろを見捨ててでもギルドに報告をしろ。魔物の種類だけは確認を忘れるな」
『『了解!』』
こういう場合、とにかく回復要員を守りつつ撤退するしかない。
もちろん出来れば追われている連中を助けたいが、もし不可能な場合はギルドに支援を要請するしかないし、見捨てる決断も必要になる。
それも無理であれば、シーフだけ報告に向かわせて救援要請をする。
「……お前は?」
「私か?」
確かに私の役目は伝えていなかったな。
私は盾を持たない剣士。つまりはスピード優先の剣士という意味だ。
そして、撤退の場合の役目、それは……
「――殿に決まっているだろう」
* * *
身軽になるためにできる限りの荷物を捨て、残った回復薬をポーチに、剣の鞘を腰に差す。
そうしているうちに、足音が近付いて来た。
「は、早く……! 出口に!」「た、助けて……!」
2人の少年たちが現れる。
おかしい。2人足りない。それに魔物が近付いて来る気配がない。
「おい、お前たち。他のメンバーはどこだ?」
「え……?」
呆けたような声を出しながら一人が辺りを見回すと、途端に真っ青な顔になった。
「ま、マズい! リナが!」
どうやら必死で逃げていたために、メンバーが欠けていることに気付かなかったらしい。
気配からすると、少し奥にいるようだ。
「拙いな。魔物が近いぞ」
『『!!』』
私の言葉にさらに顔を青ざめさせながら、一人が口を開いた。
「た、頼む! リナを助けてくれ! あいつは……!」
必死の形相で頼み込んでくる少年。
さて……どうしたものか。
しかし、流石に見捨てるわけにはいかない……か。
ひとつ溜息を吐きつつ、尋ねる。
「魔物の種類は?」
「ワーウルフ……だったと思う」
「ワーウルフか……」
Dクラスモンスターとして知られる二足歩行の狼。
狼型にしては珍しく、基本的に単独、せいぜい2、3匹で行動するようなモンスターだ。
基本的に噛みつきと爪による引っ掻きという攻撃方法をとるが、厄介なのはその素早さだろう。
Dクラスのなかでも中位のレベルとされる魔物である。
まあ、どうにかなるだろう。
そう思いつつ、うちのリーダーに声を掛ける。
「悪いな。少し奥に行く。出来ればヒーラーには待機していて欲しいが……」
「ああ、もちろん待っておくさ」
よく分かっているな。
いずれ彼らは立派な冒険者になるだろう。
そんな事を考えつつ、私はダンジョンの奥に向かった。
* * *
「グルルルルッ!!」
少し奥に入ったところで、2人の少女がワーウルフに詰め寄られているのが見えた。
どうも一人は肩を庇っているようで、恐らく怪我か骨折をしているのだろう。
もう一人は魔法使いのようで、何発かの魔法を放ちながら接近を阻もうとしている。
しかし、魔法使いとは珍しい。
魔法使いは、100人に1人いれば良いレベルの存在。
しかも多くは貴族に発生する。
冒険者の魔法使いもいなくはないが非常に珍しいというのが本音だ。
と、その時。
魔法使いの少女が牽制のために立ち位置を変えようとした瞬間、足元に出ていた石に躓いてしまった。
「きゃっ!」
当然その隙をワーウルフは狙ってくる。
一瞬のうちに接近し、魔法使いの少女を仕留めようとしている。
「しまっ……!」
もう一人の少女がそれを阻もうとするも、ワーウルフのスピードに適うはずもなく……
「間に合え……!」
私の位置からは少し離れている。
仕方ない。
「疾ッ!」
腰のホルダーから短剣を抜き、ワーウルフの腕付近を狙って投げる。
「ガアッ!?」
ワーウルフは投げられた短剣に気付いたようで、当たる直前で後ろに飛び下がった。
だが、おかげで時間が出来たな。
私はその隙に彼女たちとワーウルフの間に立ち、剣を構えた。
ご覧いただき、ありがとうございます。
出来ましたら感想、評価等いただけると嬉しいです。
作者のテンションが上がります。