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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
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6 Queen after King

 早朝。ルナティカのもとに来客があった。

 忙しさのあまり、執務室で寝泊まりしていたルナティカはノックする音で目を覚ます。そして彼女は数日前にした約束を思い出した。


「入っていいから」


 ルナティカは眠い目をこすりながら言った。すると、ドアが開けられて水色の髪の男――鮮血の夜明団の潜入チームに所属するグランツ・ゴソウが入ってきた。


「よう、支部長。ケイシー・ノートンの居場所に目星がついた。ついでにイザベラも。ローレンの協力もあって思ったより早く見つけられたぜ」


 そう言ったグランツはルナティカの机に近寄り、数枚の写真を置いた。一番上にあるのはミントグリーンの髪の男、ケイシーの写真。その写真は町で取られたようだった。


「これは……」


 と、ルナティカ。彼女にはその景色に見覚えがあった。というのも、背後にある建物や道路はどれもタリスマンの町のアトランティスロードより外側のエリアのものだったのだ。

 ケイシー以外の写真もそのエリアで撮られたもののようだった。


「裏切ったなら逃げればいいし、乗っ取りたいなら今がチャンスのはず。なのに、ケイシーはなんでタリスマンにとどまる。まさか……」


 ルナティカが手に取ったのは3枚目の写真。これだけは彼女の知らない人物が写っている。街灯の前で電話をかけている黒髪の男だったが、彼も只者ではない気配を持っているようだった。


「グランツ。この人は誰? 知らなくてもいいんだけど、なぜか1枚写真がまぎれていて」


「そいつか。ケイシーだとかイザベラだとか言ってたみたいでな。俺が撮った。気のせいかもしれねえが、ケイシーよりやばい気配しかなかったな」


「ケイシーよりやばい……」


 ルナティカは呟く。彼女がケイシーの能力を知っているからこそ、それが取り返しのつかないことになるだろうと考えてしまったのだ。


「グランツ。あんたの意見も取り入れたい。私はケイシーがまた戻ってくると思うんだけど、どうやって対策すべき? 写真を撮ったりしていたから最近の事情もわかると思って」


 ルナティカは尋ねた。


「戻ってくると思えばそれに向けて訓練なり作戦立案なりしてくれ。なんなら、俺も手を貸そうか?」


「できるならお願い。でも今はまだ戦うときじゃないのかもしれない。私たちの方でも戦力が足りないから……」


 今、ルナティカが思い浮かべたのはユーリーの顔。定期的に彼の顔を見に行くルナティカだったが、彼が目を覚ます気配はない。眠り続けるユーリーは日ごとにやつれていくだけだった。


「だろうな。まあ、あの2人にも事情があったわけだからな――」


 グランツの視界に入り込む者。窓から見えた男はグランツとルナティカの方を見ていたのだ。それに気づいたグランツはすぐさまイデアを展開し、その男の動きを見る。その男はこちら側の様子をうかがうだけで特別変な動きを見せることはない。


「支部長。伏せろよ。あんたはこの支部の運営と作戦立案と指揮っつう仕事があんだろ」


「え……」


 ルナティカは声を漏らすも、この状況に気づく。外に人がいる。彼もグランツと同じイデア使いで、こちらの様子をうかがっているかあるいは――


「すまねえ、支部長! 弁償はする!」


 そう言ったグランツが放つダーツ。それは窓ガラスを突き破り、見ていた男に向かって真っすぐに飛んで行く。その男はグランツの攻撃に気づくなり、木の枝の上から高く跳び上がる。


「逃げられたか……」


 と、グランツ。逃げられはしたものの、その男の特徴はよくわかった。この部屋の中を見ていた男は口元を覆うマスクのようなものをつけていた。髪の色はくすんだ金色。目の色は緑色。マスクのようなものを外せば、町の中に溶け込んでしまえるような外見だった。


「みたいだね。ケイシーみたいに目立つ見た目でもなかったし」


 ルナティカも言う。


「やっぱり狙われているみたいだよ、ここは」


 そう言いながらルナティカは携帯端末からジェシカやフィル達に「タリスマン支部に集合せよ」とメッセージを送るのだった。




 数時間後、タリスマン支部の会議室にメンバーが集合する。集まったのはルナティカとグランツを含めて7人。全員がいることを確認したルナティカはすっと写真の束を取り出した。


「今ここで私が伝えたいことは2つ。1つは、ケイシーとイザベラの居場所に目星がついたこと。この写真からわかることなんだけど、多分アトランティスロードより外側にいる」


 と言いながらルナティカはメンバーに写真を手渡す。一同はそれに写った人物を見るのだが。


「支部長! この人見たことがある!」


 ふいに恵梨が声をあげた。誰もが彼女を見る。


「まって、その人は私も名前を知らないんだけど。どこで見かけた?」


 ルナティカは言った。


「タリスマンのダウンタウンでね。あたしがジェシカとはぐれたときに声をかけてきたんだよね。凄い怪しかったし……」


「恵梨、あんた声かけられたんだね。私に言ってくれれば……」


 ここでジェシカが口をはさむ。慣れない場所にやってきたばかりの恵梨に対してやや過保護になっていたのだ。


「いや、実害なかったしまあいいかと思ったんだけど。写真見て気づいたよね」


 恵梨は答えた。


「なるほど。外側だけかと思ってたけどダウンタウンにも来るんだね。様子でも見に来たのかな」


 ルナティカは言う。


「さて、それで2つ目なんだけど。このタリスマン支部が狙われている。今朝ここに来たんだけど襲いに来たというよりは偵察に来たって感じだった」


「多分また来るだろうな。そうじゃなかったとしても、できる限り支部長を守るしかねえよ」


 グランツが続ける。そんな彼は口にしなかったが、今朝この場所を覗いていた男がまた来ると確信していた。


「安心しろよ。今回もきっちり手を貸してやるからよ! トロイがいねえから表立ってもやれるしな!」



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