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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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エピローグ1 Veterans

 主要な構成員の死亡、取り仕切っていた立場にあったケイシーの死亡とイーサンの捕縛。それが2度目の戦いの結果だった。当然ながらタリスマン支部の方にも被害はあったわけで、構成員のライオネル・インフェルノは殺されていた。


 戦いの結果を知らせられて、ルナティカは一瞬だが暗い顔をした。死者が出ることくらいは予想していた彼女だが、いざ知らされてみれば心を裂かれるようだった。


「そっか……大変な仕事をさせたね……これじゃあ、恨まれても仕方がない」


 と、ルナティカは言った。


「そうやって恨まれながら仕事を遂行するのもお前の役目だろうよ。やることは違うが、そこは俺も変わらねえよ。それにライオネルは自分から望んでああいう戦い方をしただろ?」


 報告に来ていたグランツは言った。


「そうだね。止められればよかったんだけど」


 ルナティカは心残りがあるような口調で言った。


「過去を悔いるんじゃねえ。ユーリーだって救出できただろうがよ」


 グランツの言うとおり、ケイシーを討ち取った後にユーリーは救出された。酷い環境にいた様子はなく、飼い殺しにされていたようだった。


「言われてみれば、ね。さて、私は報告書を書くよ。念のためにって会長がタリスマンに来てるしね。会長は何て言うんだろう」




 同じ頃、医務室ではジェシカが目を覚ましていた。ケイシーとの戦いの後、緊張が解けたことで気を失っていた彼女。だが、見たことのある場所だと知ってそれとなく戦いの後のことを察した。


 ――おそらく私はあの戦いの後、ここに運ばれた。あと……


 ジェシカは戦いで傷を負っていたはずの部位に触れた。そこには痛みもなく、傷もない。傷そのものがなかったことにされているようだった。そこでジェシカは思い出す――自分の肉体の時間を巻き戻し、かけられた能力や負わされた傷をなかったことにする力を持った敵、ケイシーを。そして、まだ彼が生きているのではないかという疑いまで持ち始めていた。


「……ありえないことじゃない。殺した感覚があったときも、その瞬間に能力を発動させていたくらいなんだ。ケイシー……今度こそ……」


「安心するんだ。ケイシー・ノートンはちゃんと死んでいる。君が殺したんだ、何を疑う必要がある?」


 ジェシカが呟いた瞬間、白髪の錬金術師が声を挟んだ。


「……ヘンリクさん」


 ベッドから少し離れたところにいたのはヘンリクだった。ヘンリクはにこりと微笑んで口を開く。


「復讐して、仇敵と一緒に逝くなんて後味が悪いだろう? そうでなくとも僕は君がここで死ぬことを許すつもりはなかったんだけどね」


 と、ヘンリクは言った。


「君と零の怪我のことなら安心していい。痕が残らないように治療しておいた。もっとも、零は出血がひどくてまだ寝ているが」


「そっか。それで、ライオネルは?」


 ジェシカが言うと、ヘンリクは一瞬固まった。聞いてはいけないことを聞いた気になったジェシカ。だが、聞かれた方のヘンリクは一呼吸置いて口を開く。


「死んだよ。恵梨が応急処置をしたみたいだけど、僕のところに来たときには死んでいた。全く、治療しようとして救えなかったのは久しぶりだったよ……」


「え……」


 にわかに信じがたいことだった。ジェシカはしばらくの間黙っていたが。


「そうだったんだね。自分から苦労するような役を買って出ておいて、それで死んで。自己犠牲のつもりだったとしても本当に洒落にならないよ」


 ジェシカは言った。


「ああ。自分の命は軽いとでも思っていたんだろうね。知っている人は少ないだろうが、僕はそういう行動が大嫌いだよ。で、ジェシカ。君はもう動けるかい?」


 と、ヘンリク。


「動ける。処置するのに邪魔だっていうなら別の部屋に行くよ。零に比べたら軽傷だったんだし」


「なら、この部屋は零の治療のために使う。隣の部屋にベッドがあるからそこで休むんだ」


 そう声をかけられ、ジェシカは頷いて隣の部屋に入る。

 ジェシカがいなくなった医務室。ヘンリクは零の元に近寄ると顔の半分にかかった髪をのけた。そうして露わになった零の顔の右半分。10年以上も前に焼かれ、このような状態となっていたという。ヘンリクは零の顔を見て眉間にしわを寄せた。


「……そういう治療を受けることができない状況にあったことは知っている。だが、僕はその綺麗な顔を元に戻すことができる。零は何と言うのだろうか」


 治療するべきか、放っておくべきか。ヘンリクは迷っていた。が、当分は零が回復するまで待たなくてはならない。


「待つか。どうせすぐに斃すような敵だっていない。一応は片付いたんだ」


 ヘンリクはそう呟いて、零のベッドの近くに置いてあった椅子に腰かけた。


 6時間ほど経った頃だろうか。ようやく零が目を覚ます。彼自身が今、生きていることを不思議がっている様子だったが。


「おはよう、零。まさかこの僕が君を簡単に死なせるとでも思ったかい?」


 ヘンリクは言った。


「……確かにシェリルを傷ひとつない状態にまで回復させたからな。わからなくもない。それで、今はどうなっている?」


 と、零。


「ケイシーはジェシカとグランツが斃した。尋問部屋にはイーサン・シールズという吸血鬼を閉じ込めている。死者はライオネル、他にジェシカが重傷だったが別室で休んでいる。この状況の報告はルナティカがやっているから、君は休んでいればいい」


「そうか……」


 零は何か思うところがある様子だった。


「何か気になることでも?」


「今日は何日だ?」


 と、零は尋ねた。


「3月21日の早朝。君が思ったほど時間は経っていないよ」


 ヘンリクは答えた。


「そうか、ありがとう」


 零はそう言ってベッドから立ち上がり、医務室を出る。「待て」と制止するヘンリクの言葉も聞かずに。



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