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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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62 Half-killed Vampire

 気を失ったイーサンを前にして、シェリルはがくんと膝をついた。体中に走るのは激しい痛み。意識を手放したくなるほどだ。

 そんなシェリルのいた部屋のドアを開ける3人の男女。シェリルは音がした方を向く。


「……ジェシカとライオネルだ」


 シェリルは言った。


「そうなんだけど、そこにいる半裸の吸血鬼は生きてるの?」


 部屋に入ってくるなりジェシカは尋ねた。


「一応ね。再生するまでに1週間かかるんだって。で、私がこいつの生死を決めるべきかまよってる。眼鏡の執事さんはどうしたいんですか?」


 と、シェリル。


「……そうですね。殺すのもいいかもしれませんが標本にしましょうか。ニンニクのエキスに漬ければできますよ」


 ジェシカとともに行動していたユーグは言った。


「それもいいけど、まずはケイシーを殺さないと。ここまでにあったところ、探したけどセーブポイントらしきものがなくて」


 と、ジェシカは言った。

 ジェシカの言葉を聞いたシェリルは何か思うことがあった。さらに彼女は倒れているイーサンを見た。その下にあるのが、何かの扉らしきもの。明らかに床下に何かがあるようだった。


「……この部屋にはあるかも。この吸血鬼が倒れてるところに収納っぽいのあるし」


「そうですね、開けましょう。ジェシカの持っている鍵で、まだ使っていないものもあります」


 ユーグはそう言うと、倒れているイーサンを引きずり、扉を開けられる状態にした。そしてジェシカが鍵を開けて床下収納らしきものを開けた。

 重い扉の下にははしごがあり、さらに下に向かって続いている。明らかにそこに何かがあるような雰囲気だった。


「行きましょう、ジェシカ。ライオネルはここで見張りをお願いします」


「おう。誰が来ようが返り討ちにしてやる。念のためここは閉めるぜ」


 ジェシカとユーグが床下の空間に入っていったことを確認すると、ライオネルは収納の扉を閉めた。ここでライオネルはセーブポイントを探してるふりをする。


 床下収納は規模の小さい倉庫のようだった。ユーグが照明をつけると、そこにあったのはいくつもの標本。イデア覚醒薬を打たれた人間の頭部や人間の目玉などが置かれている。悪趣味極まりない空間だということはすぐにわかった。


「化け物もそうだけど、本当に気味が悪い……」


 ジェシカは呟いた。


「でしょうね。私はさっきので慣れましたが、そうとう刺激が強いのでしょう。さて、探しますよ。ここ以外に残っていないはずですから」


 ユーグはジェシカにそう言うと奥へと進む。

 奥の方でも、やはり置かれているものは変わらない。が、ユーグは棚に置かれた1冊のノートに気づき、それを手に取った。開いてみれば、そこに書いてあるのは誰かの悪口。憎い人でもいるのかと読み進めていたら――


「おや、これはまさか私のことですか。口うるさい、右腕を気取っている、奴隷のくせに……私が彼を信じたのは間違いでしたね。もはや更生する余地もありませんか、わかっていましたが」


 ユーグは呟いた。

 それでも彼は読み進める。ケイシーの考えていたことを知るために。すると、糊で張り付けられたページに行きついた。これは何か、と考えてユーグはそのページを剥がす。すると。


【ひいおじいちゃんの腕。俺の能力はこれがあれば無敵。多分これで思い通りになる】


 赤い色鉛筆でこう書かれており、となりには吸血鬼の腕を漬けたものの写真が張り付けられていた。


 ――これだ!


「ジェシカ。『ジョシュアの腕』とラベルが貼られた標本を探してください。恐らくそれがセーブポイントです。どうりで見つけられないと思いました」


 ユーグは言った。


「わかった」


 ジェシカはそれだけを言って、片っ端から標本を見ていく。どれも気味の悪いもので、好んでみていられるものではなかった。指が詰められたオブジェのようなものや、人の生首のようなものだってあった。

 ここに標本を置いた者は本当に悪趣味だ。ジェシカはそう思いながら標本のラベルを見てゆく。そして。


「あった」


 ジェシカは呟いた。

 彼女が見つけたのは筋肉のついた男性の腕。液体に漬かった腕は何年も腐敗あるいは崩壊することなくその形を保っていたらしい。さらに、ケイシーのセーブポイントであることの裏付けというべきか。『ジョシュアの腕』はイデア使い特有の気配を放っていた。


「やはりこの部屋でしたか。誰にも知らされていなかったのか、知った人間を化け物として使い捨てにしていたのか、記憶を消したりすることができたのか。まあ、今となってはどうでもいい話ですが」


 と、ユーグ。


「それにしても、上から嫌な気配がする。わかるよね、ユーグ。私だったわかる。こいつは、以前タリスマン支部を襲撃してきたやつ」


「ええ、ボス自ら出てきたというわけですね。ライオネルがここを守り抜くか欺くか、どちらかをできればいいのですが」


 と、ユーグは言った。


 床下収納の上には、確かに『彼』が迫っていた。


「なんだ、裏切り者じゃないか。それにイーサンが、どうしてここで転がっている?」


「おーおー、ヤボなこと聞くなよ。そいつは半分死んでいる。けどな、ほんのちょっと生きてる。ま、ここが崩壊するまで目を覚ますことはねえだろうけどなァ!」



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