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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
61/76

59 Against1

「汚いことをするものだね、君は」


電撃を受け、肌の一部が灰となって崩れるイーサンは言った。だが、崩壊した部位もじきに再生するだろう。吸血鬼はそれほどの存在だ。


「ルールが決められてなきゃ何されても文句は言えませんよ?」


そう言ったシェリルは既にイデアを展開。迸る雷をイーサンに撃ち込もうとしていた。

イーサンはシェリルの知っている相手。前に戦ったとき、彼の使った能力の動きをよく見ていたのでどう戦うべきか見えていた。

まずは彼の能力が強制するルール。


――彼のルールに従わされてはいけない。ルール無用なら、あるいはルールに従っても突破口はあるのかも?


雷を受けたイーサンは後ろにのけぞった。再生することはシェリルにもわかっていたが、イーサンに攻撃が効いたことも確認した。前に戦ったときと耐性は変わっていないようだ。


「……そうかい。君は僕にルール無用の殺し合いを仕掛けようとしているのか。もし僕がそこから2人での賭けに持ち込んだらどうする?」


受けた傷を再生させるイーサン。

彼の口調は穏やかで、同時にシェリルを揺さぶろうとしている。彼女を揺さぶってイーサン自身のペースに、ルールの中に引きずり込もうとしている。

シェリルが気がつけばイーサンはイデアの展開を終えていた。おそらく、シェリルはルールに引きずり込まれることになる。だがシェリルはそれにも抗った。


――イザベラ相手に使わなくてよかったかも!


シェリルが左手に持ったのは対イデア用の炸裂弾。イーサンが油断した間に炸裂弾を投げるのだ。


光が広がり、イーサンの展開したイデアがかき消される。ルールに従わせることもできず、動揺したイーサン。シェリルはそれを見逃さない。一気に肉薄すると人体が消し飛ぶような電撃をイーサンに浴びせた。


「そのときはそのときです。賭けとかわからないけど、なんとかなりそうですし」


黒焦げになったイーサンを見て、シェリルは言った。そうは言ったものの、シェリルはまだ勝ち筋を見つけられていなかった。相手が吸血鬼でなければ先程の一撃で勝てたのだろうが――


――そう。問題は相手が吸血鬼であるということ。光の魔法も刃物も私にはない。吸血鬼を撲殺した話は聞いたこともない。


黒焦げのイーサンから炭化した部分が剥がれ落ちた。脱皮するようにしてイーサンの新しい肉体が現れる。完全に復活する前に攻撃せねばならない、とシェリルは直感した。


――再生も気にせずにボカスカぶん殴れば勝てるかな? 吸血鬼がどうやって再生してるのか知らないけど。


シェリルはイーサンに詰め寄り、さらに電撃を撃ち込もうとした。だが――


雷ははじかれた。まるでイーサンが何かに守られたかのように。それだけではない。周囲の壁や床にも傷1つない。


――待った。この状況、覚えがある。


自身の放った攻撃で被害が出ていないことを確認したシェリルはある光景を思い出す。


「……いつのまにこんなことになっちゃったんですか。さっきまであなたは無防備だったはずです。どうして……」


シェリルは声を漏らした。態度に出ないようにしていたが、声には出てしまう彼女自身の困惑。彼女の声を聞いたイーサンは身体を再生させながら呟いた。


「いつ……僕が黒焦げになるとイデアを展開できないと言ったかい……?」


焼けてかすれた喉から絞り出されたイーサンの声。再生には時間がかかることは明白だ。


「へ……そんなこと聞いてないんですけど……はっ!」


シェリルは今自分が置かれた状況を理解した。

今、シェリル自身は賭けの現場にいる。傍観者ではなく、ルールを強制された当事者としてこの場に立っている。


「理解したかい? 君は先ほどの攻撃を『賭けた』んだよ。もう賭けは始まっている。ホイールオブフォーチュンがね」


身体の半分ほどを再生させたイーサンは立ち上がった。


「聞いたことあります、そのゲーム。どこにどれだけ賭けるか、それくらいしか自分でどうにかすることができないんですよね。教えてくださいよ。どうして賭けに持ち込んだんですか?」


と、シェリルは言った。


「簡単だよ。この前みたいに全裸にされたくないからね」


イーサンは答える。

今、イーサンは黒いズボンだけを身に着けているようだった。ここに現れたときに着ていた服の一部は消し飛んだようだが。


「なんだ、そういうことなんですね。てっきり壊されたらマズいものがこの近くにあるとでも思いました」


シェリルがそう言うと、イーサンの表情は一瞬引きつったようにも見えた。が、彼はこれまでの調子を取り戻す。


「ホイールオブフォーチュンのルールはわかるね? これから僕と君は『攻撃』を賭ける。僕と君が戦えば互いの与えたダメージがパネルに蓄積される。こいつがいつ止まるかはわからないが、止まったときにダメージの指数が高かった方の攻撃だけが通る。わからないことは?」


「どれくらい賭けるのかはわかった。問題はどこに賭けたらいいか。それを話さないのはどう考えてもイカサマでは?」


イーサンを煽るようにしてシェリルは言った。


「失礼、忘れていた。シンボルを技名みたいに言えばそれで賭けられる。シンボルは、君が知っているものと変わらないから安心してくれ。それと、何も言わなければAgainst1扱いになるから、さっきの攻撃の倍率は1.5ということになる」


と、イーサン。


「わかりましたよ。だったら、さっさと始めろください! ド変態!」



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