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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
6/76

4 Anarchist

 タリスマンの町、その一角を通るアトランティストードの外側のとあるビルの高層階。赤や黒、紫で彩られたその一室に1人の青年が戻ってきた。


「ご苦労。普通は夜に活動する人間なんてあまりいないと思ったが」


 青年に声をかけた男――イーサン・シールズ。部屋の奥の光が当たらない場所に彼はいた。紫色のソファに腰かけ、ウイスキーを口に含むとイーサンは青年を見る。


「それで、コーディ。むこうの様子はどうだ?」


挿絵(By みてみん)


「ああ、トロイがいたときとは変わってきている。小さなところでは町の落書きが消されていたり、廃墟が解体されることもあるな。何より、ストリート・ギャングだとか俺の商売相手が消えちまった。本当に、ケイシーの助けがねえと俺も生きていけねえ」


 コーディは答えた。


「やはり俺の見立ては正しかったようだよ。一度秩序を無くした後、しばらく混乱は続くはずだ。混乱が続いているうちにタリスマン支部を乗っ取ってしまいたい……」


 壁に寄りかかりながらケイシーは言う。タリスマン支部から一度姿を消したケイシーはここにいた。コーディやイーサンらを味方につけ、よからぬことを企んでいる。


「その話なら前にも聞いているさ。ユーリー・クライネフを利用するやり方は失敗したんだってな?」


 イーサンはそう言いながらケイシーに目を向けた。


「ああ……俺にあのとき失敗があったとすれば、ヘザーを敵に回してしまったことだ。直近に起きたことならやり直せるけど、流石にここまで時間が経ってしまってはどうしようもなかった」


「全く、反則的だと言われていながら肝心なときに何もできていないのか」


 と、イーサンは言う。その態度にケイシーを責める様子などなかったが、ここにいる誰もがその威圧感を感じ取る。


「ま、想定外がいろんなところで起きたからだよねぇ。私もその原因だったけど執行部から切り捨てられちゃったしぃ?」


 窓際に陣取っていた白髪の女イザベラは言う。


「それは関係ないね。とにかく、俺達はタリスマン支部を攻め落とす。むこうの戦力も激減しているんだからな。特にユーリーの不在は大きい」


 と、ケイシー。必ず成功する、とでも思っているかのように彼は笑う。その不敵な表情を見たイーサンは呆れたような表情を見せる。1度目の失敗を受けてのことだろう。だが、イーサンは別にケイシーを咎めようとはしていなかった。

 イーサンはケイシーの上司などではなく友人にすぎない。友人が過度に咎めるべきではないと考えたイーサンはあきれることこそあるが、罰することも咎めることもしない。それだけの関係でいいと考えているのだ。


「そうか……試しに僕が向こうの様子でも見てくるとしようか。久しく貧民街には立ち入ってないんだよ」


 イーサンは言った。彼に「正気か?」とでも言うような目をここにいる全員が向けた。が、イーサンは気にすることもなく。


「大丈夫だ。僕が出歩くのは夜。ヘマもしない。タリスマンには光の魔法使いもいないじゃないか」


「危険じゃないのか?」


 コーディが言った。


「別に。アリス・アッカーソンが平気で出歩いていた町だ。僕だって大丈夫だろう」


 そう言ってイーサンは再びウイスキーを口に含む。


「いや、危ないだろう。俺も……」


「必要ない。この中で一番強いのはケイシーか僕だ。それを忘れるなよ、コーディ」


 そう言ったイーサンは椅子から立ち上がり、窓の方を見た。すでに暗くなりかけており、一帯――アトランティスロードの外側のエリア全体には明かりが灯り始めていた。一方、内側は暗い。その様子はタリスマンの町における分断された2つのエリアでの貧富の格差を示しているようだった。


 ――ケイシーもイザベラもコーディも向こう側にいたというのか。やれやれ、僕が見つけてやれてよかったというか。


 イーサンはため息をつく。


「どうしたんだい、イーサン。別に夜景を見る趣味なんてないだろう」


 ケイシーは言った。


「感傷に浸ってなんかいないさ。ありのままのタリスマンというものを見つめていたんだよ。僕が若い頃はこれほどの差なんてなかったはずだがなあ……」


 そう言ったイーサンはケイシーの顔を見ずに外だけを見ている。その身を夕日にさらさないよう、注意をはらいながら。そうやってイーサンは過去のタリスマンの姿と今のタリスマンの姿を重ね合わせて見ていた。


 ――時代についていけなかったのか、この町は。タリスマン支部というかトロイの城の陥落もそうだった。いや、もしかすると僕も時代についていけなかった存在かもしれないな。


「もうそろそろ出よう。別に援護の必要なんかはない。僕1人で十分だ」


 イーサンはそう言うと踵を返し、洗面所へと向かう。

 洗面所にはいくつものカラーコンタクトレンズのケースが置かれていた。イーサンは自身の赤い瞳を見ると、すぐさま緑色のカラーコンタクトを取る。この大陸――特に西側には黒髪に碧眼の人間が多い。イーサンは彼らになりすまそうと考え、緑色のカラーコンタクトを着けるのだった。


「では行ってくるよ。明け方までには戻るはずだ」


 その部屋を出るイーサン。そんな彼をケイシーたちは見送る。


「イーサンなら心配いらない。つかみどころはなくても、凄く強いからね」


 ケイシーはそう言った。



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