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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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56 No More Creature

 電撃がほとばしる。

 落雷とはまた違った、電気の網が化け物たちを捕らえた。その電撃は化け物の脳や神経に干渉し、動きを止める。


 シェリルはその間を走り抜け、非常ボックスにたどり着いた。ガラスの部分もあるが、がっちりと閉じられた非常ボックスをこじ開けることは簡単ではない。が、鍵を探す時間もない。

 強引に開ければいい。シェリルにはイデアによる身体能力の強化がある。


「おおおおおっ!」


 シェリルは叫びながら全身に力を込め、非常ボックスの扉を強引に開けた。

 非常ボックスは音を立てて壊れ、中に入っていたバールが露わになった。シェリルは無言でバールを取り、化け物たちがいる方へと向き直る。


 電撃を浴びせた化け物はまだ動けないでいるが、いずれ動けるようになるだろう。

 そうではない化け物は、恵梨と戦っている。そのうちの1体は恵梨の薙刀で目から切り裂かれている。が、そいつもまだ動いている。


「耐久とか人間の比じゃないよ!」


 恵梨は薙刀を一度消して言った。

 別方向から突撃する化け物の攻撃をいなし、再び薙刀のイデアを展開する。その瞬間、彼女の勘が冴えわたる。薙刀のリーチ内に限り、これから起きることが読める。


「だよね、わかる」


 シェリルは言った。

 そんな彼女も行動可能になった化け物を相手取る。シェリルに向かってくる化け物は、いずれも電撃による麻痺から抜け出したものたちだった。それゆえ、動きもばらばら。シェリルにとっては相手にしやすい。


 バールを手にしたシェリルはまず1体目の化け物を殴りつける。

 この一撃は電撃入りだ。雷のように叩きつけられたバールで化け物は相当な傷を負っていた。斜めに入った傷と皹からは血液のような粘液が出ていた。


「楽勝。イーサンに比べたら全然戦える相手だよ」


 傷を入れられても痛みを感じていないかのように動き回る化け物。

 シェリルはそれ以外の化け物の気配を感じていた。

 横だ!


「おらぁ!」


 飛び散る赤い粘液。

 シェリルはまたもや化け物に傷を入れた。が、そうしている間にも1体目がシェリルに迫る。2体目の化け物がよろめいた瞬間、シェリルは1体目の方に向き直り――同時にバールと雷での打撃。今度は傷からさらに衝撃が入るように、向きも考えていた。


 化け物の断末魔。

 どうやら、この打撃は化け物の心臓にまでショックを与えたらしい。化け物はその場に崩れ落ち、絶命する。


 シェリルは化け物のふるまいを見て、あることを思いついた。流した電気が多ければ倒しやすくなるのではないか、と考えた。


「試すチャンスができましたね」


 シェリルがそう呟いたとき、彼女の近くには別の化け物が近寄っていた。

 肥大した頭を揺らしながら迫ってくる化け物に狙いをつける。バールにはこれまで以上の電撃を纏う。そして――間合いに入ってきた化け物を、殴る。

 鈍い音とともに、血が辺りに飛び散った。と、同時に化け物の動きが鈍る。いや、鈍ったというよりは麻痺したようだ。


 また別に近づいてきた化け物にも、電撃を纏ったバールを叩きつける。攻撃を受け流しながら、連続して叩き込む。化け物のうち1体は攻撃を受けるとそのまま卒倒した。残りも相当なダメージを受けており、身体を痙攣させていた。


 ――多分、神経に干渉する? よくわからないけど、神経は電気信号とかあるし。


 シェリルは辺りの様子を確かめる。まだ無傷の化け物が4体いる。それに加えてシェリルが攻撃したが生きている7体に恵梨が戦っている1体。


「恵梨、死にそうなら声をあげて。私なら助けられるから」


 と、シェリル。

 彼女の声を聞き取った恵梨は化け物の肥大した腕をはじいた。


 恵梨も1体は倒していた。目を貫き、そこから傷を広げれば失血して倒れたのだ。

 問題はもう1体目。先ほどと同じようにはいかないだろうとふんでいた。


「硬すぎない……?」


 恵梨は呟いた。

 まだ助けを求めずとも戦えると考えていたが、予想以上に厳しいのだ。


 恵梨が思う以上に俊敏な化け物は、肥大した腕の先に伸びた爪で引き裂こうとしてきた。打撃ではなく、斬撃のつもりのよう――


「くぉぉ!」


 恵梨は声を漏らしながら攻撃を受け止める。が、化け物の力はあまりにも強すぎる。押されることはわかっている。恵梨は薙刀を一度消して攻撃もすべて避ける。避けながら入り込むべき場所がある。


 人の形をして生きている以上、首を落とせば致命傷を与えられる。

 恵梨は首をガードされずに狙える方向に入り込んだ。シェリルが戦っているということもあって、他の化け物からの妨害も受けにくい場所だ。

 恵梨は再び薙刀のイデアを展開し、化け物の首を刎ねた。


 肥大した頭がぼとりと転がる。首からはだらりだらりと赤色の粘液が流れ出る。

 首を刎ねられた化け物はびくんと痙攣し、その場に崩れ落ちた。


「倒せた……」


 恵梨はそう呟いてシェリルの方を見た。10体以上を相手に立ち回っていたシェリル。彼女もその敵の数を半分以下にまで減らしている。


「加勢した方がいい!?」


 と、恵梨は言う。


「その必要はないから! 私なら、これくらい楽勝だからね!」


 シェリルはそう答えてバールを振りぬいた。

 また1体倒す。さらに、別方向から迫っていた手負いの化け物にも攻撃を加え、そちらも沈黙。まだ残っていた2体も、かなり消耗している。そんな相手を前にしたシェリル。彼女は最後まで手を抜かず――


 シェリルは化け物の血で辺りを染め上げた。

 ヌルヌルした赤い液体は化け物の血にほかならない。


「終わったよ、恵梨。先に進もう」



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