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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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55 Decapitation

 階段をかけ上がる途中、シェリルの視界に入ったのは頭から血を流した男たちの死体。一発で絶命するように銃弾を撃ち込まれているようだった。


 シェリルは立ち止まらず、階段を上る。

 まずはジェシカか恵梨と合流する。話はそれから。そのあとに情報を共有すればいい。それまでに何もなければ、という条件付きだが。


 死体の転がっていたフロアの4フロア上。シェリルは足を止めた。


「恵梨……と、それは……」


 シェリルは思わず呟いた。


 血だまりの上には女の死体が転がっている。首が完全に切断されたわけではないが、頸動脈を切られたようでそこから血が出ていたようだ。首から上は、目を半開きにしたまま動かない。動くはずがない。


「あたしが殺した。策を読まれていたようなものだったからね……どうしたらいいかわからなかったんだけど」


 恵梨はそう言って死体に目をやった。


「悪くないことだと思うよ。下手に生かして情報を漏らされるよりは死なせておく方が全然いいから!」


 と、シェリル。


「そうだね。まあ、あたしの正体は多分ばれた。ここからどう仕掛けられるのかも怖いんだけど。イーサン・シールズも動いていないし」


「だ、大丈夫! 私とジェシカが恵梨を守るから!」


 シェリルはそう言って微笑んだ。彼女の言葉と笑顔にはどこか頼もしさがあった。


 このとき、シェリルはフロアのどこかから異様な気配を感じ取っていた。

 ケイシーもイーサンもイザベラもここには来ない。彼らはもっと安全なところでシェリル達を笑っているに過ぎない。この気配の正体は、彼らの駒にすぎない。


「通路から何かが来る! 構えて!」


 シェリルは叫び、立て掛けてあったパイプ椅子を取る。そして――先陣を切ってきた化け物を、雷を纏ったパイプ椅子で殴りつけた。


 ――手応えはある。けど、これで死ぬの? 見た目がただの人間じゃないし、そもそも気配が。


 化け物たちの気配は何かに似ていた。これが何なのか、シェリルにはよくわかる。これは――


「イデア使い特有の気配の派生。何か変なことをされたイデア使いかな?」


 電気の刺激を受けてピクピクと痙攣する化け物。シェリルは直接感じた手応えからその正体を考察していた。傍らの恵梨も薙刀を手に取る。


「え……」


 恵梨は彼らが人間だったことに薄々気づいていたようだった。少し反応が遅れ、彼女にも化け物が迫る。


「人間だったとか考えないで! こいつら、やばいから! 殺さないと私たちが死んじゃう!」


 シェリルは声を上げた。

 恵梨は我に返り、薙刀を振るった。薙刀の刃は化け物の体表を撫で、そこからは血も出ている。が、致命傷を与えるには至らない。斬った時の手ごたえで、恵梨は硬いと気づいたのだ。


「殺す……できるの? めちゃくちゃ硬いよ……?」


 珍しく恵梨は弱気だった。

 これまでに予知に頼り、賭けに出るようなことがなかったから。自分が勝てるとわかった状態で蹂躙するように戦ってきたから。今そのつけが回ってきたのかもしれない。

 恵梨は先のビジョンを見ながら化け物の攻撃を躱していた。試しに何度か攻撃しても、その効果はそれほどない。


「元は人間だったんだから首を落とせば死ぬはず。だって、吸血鬼でも致命傷になるくらいなんだから」


 と、シェリル。

 まだ彼女も致命傷を与えたわけではないが、近くの化け物たちの動きを鈍らせている。メイスを使えない今はパイプ椅子だけでどうにか立ち回っている。


「それと、目玉も脆いはずだよ。どれだけ守ろうとしても無防備になるはずだから」


 シェリルはそう言って、別方向から迫ってきた化け物をパイプ椅子で殴打した。頭蓋骨が陥没するような音とともに化け物はよろめいた。


 ――今がチャンスだ。多分この化け物は斃せる!


 シェリルはパイプ椅子を投げ捨てて、よろめいた化け物に鋭い蹴りを入れた。すると、化け物は近くに崩れ落ち、血をまき散らす。シェリルはその血を浴びないようにと少し距離を取る。だが、化け物が絶命したことは気配の消失でわかった。


「まずは1体!」


 シェリルは威勢よく叫ぶ。が、まだこのフロアには化け物が残っている。そのうえ、今の彼女には武器がない。化け物が少ない方に移動して、素手で戦うか。


 シェリルが見たのは非常ボックスの中に入っていたバール。これを使うしかない、と考えたシェリルは両手に電気を纏った。


「恵梨は離れてて!」


 と、シェリルは戦闘中の恵梨に言う。

 今の恵梨は化け物と距離を取りながら隙を伺っていたときだ。その声を聞き、さらに恵梨は距離を取る。化け物が薙刀の間合いの少し外側になるように離れて、その間合いに化け物が入ってきた時を狙う。


 シェリルからも離れたし、電撃を浴びることはないだろう。そして、恵梨は化け物の行動を見逃さなかった。

 突っ込んでくる化け物。恵梨は両手で薙刀を持ち、化け物の左目を薙刀で突いたと思えば強引に下へ斬る。


 恵梨が化け物の目をついたと同時に、シェリルも放電していた。化け物たちの動きを鈍らせるのではなく封じるために。封じている間にバールを手に入れるために。



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