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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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54 The Psychopath

ユーグの語るケイシーの過去から。

「ケイシーの味方でいてあげなさい」


 私はこの言葉を聞き飽きていました。少しケイシーが何かをやらかすたびに、私はこう言われていたのです。外面の良かったケイシーは特に疑われるようなこともありませんでした。ですが、私が知っているケイシーはそんなものではなかったのです。




 私が16歳の頃。

 ケイシーは鮮血の夜明団タリスマン支部にいました。その頃に出会ったのがあのユーリー・クライネフ。ケイシーが一番執着していたと言っても過言ではない相手です。

 私はケイシーとユーリーとの関係についてかなり危惧したことがありましたが、曰く問題はないようでした。私が『教育』と呼ばれるものの様子を見るまでは。


 あるとき私はタリスマン支部を訪れました。私もケイシーと関係があり、彼の助けになりたい以上構成員になりたいと。事前に連絡を入れていたので訪問そのものは許可されました。

 訪問したとき、私を歓迎してくれた人はいませんでした。ですが、ケイシーに会いたいと告げれば、イザベラは私をある部屋に案内したのです。


「……ったく、俺はお前の親友で、お前はこれから人殺しになるんだよ。そうじゃねえお前なんてお前じゃねえよ」


 部屋からはケイシーの声が聞こえていました。それは私が知っている表向きのケイシーではない。彼の本性ともいうべき部分でしょう。


 イザベラがドアを開ければ、そこにはユーリーとケイシーがいました。が、ケイシーはユーリーを椅子に縛り付けて木の棒を持ち、明らかに尋常ではない様子でした。いえ、本性をむき出しにしていただけでしょうね。


「ユーグか。なんでよりによって今来たんだよ。後輩の教育中だってのに」


 ケイシーは向き直ってそう言いました。


「彼が後輩ですか。あまり虐めすぎるのもどうかと思いますよ」


「そんな忠告は必要ない。どうせユーリーは俺のことを親友と思っているし、俺だってユーリーのことを大切にしてんだよ。少し無茶したからこうやって教え込んでいるだけだ」


 と、ケイシーは言ったのです。


 そのとき、私はケイシーなりの考えがあったのだろうと思って止めはしませんでした。そもそもケイシーを止めるという選択肢もなかったように思えます。


「そうですか。鮮血の夜明団への入団についてですが」


「お前には無理じゃないか? たかが弾丸を操る程度で、銃火器の扱いが得意な程度でどうこうできることない」


 ケイシーは私にそう言いました。


「確かに、今の鮮血の夜明団の在り方であればそうなんですね。わかりました。イザベラ、話はなかったことに」


 私がこのタリスマン支部を一度離れたことで、ケイシーの行いについてはうやむやになりました。




 あの日――ケイシーが本性を見せた後。私は度々ケイシーに違和感を覚えるようになりました。独占欲が強いうえ、人を人とも思わない。それだけではありません。気が付けば、とある吸血鬼で闇商売を行う者と関係を持っていました。


 それでも私はケイシーが改心することを期待していました。が、期待していた私が馬鹿でした。

 私が18歳のとき、ケイシーから相談を受けました。


「俺は人を恋人だとか友人だと思っても愛情が湧かない。それは異常なことなんだろうか」


 ケイシーは私にそう言いました。


「さて、私もわかりません。普通だと思われていることが普通だとも限りませんし、異常だと思われていることが異常だとも限りません。貴方が異常だと思うなら、どうか理性を失わないでください」


「理性って何だ? 試しに付き合った女の前で理性を働かせることができなかった俺が悪いのか!? お前は、俺を何だと思っている……?」


 私は私なりに声をかけたつもりでしたが、ケイシーはそう言いました。


「契約の相手であり、友人とも思っておりますよ」


 それが私の嘘偽りない言葉でした。ですが、ケイシーはそのとき私のことを信じてなどいませんでした。


「友人って、この程度か。軽い関係だな……そうか、ここまで軽いならユーリーにも……」


 ケイシーはここからおかしくなったのかもしれません。いえ、おかしかったのは昔からなのかもしれません。


 それから、私はできる限りケイシーに助言をして、改心するように働きかけたわけです。が、ケイシーの認知は私が思っていた以上に歪んでいました。私が働きかければ、すべて逆効果。もしかすれば私が悪いのかもしれませんが、見限るしかありません――




 ♰




「これが私の見たケイシーです。外面がいいように見えても実際ではそうでもない。今や化けの皮がはがれたも同然ですが、昔はうまく取り繕っていたようですね」


 そう言ったユーグはため息をついた。


「変わらなかったんだ、ケイシーは。事情があってああなったのかもしれないって思った私が馬鹿だったよ。もう、殺すしかないね。多分父さんを殺したのも……ギャリーに変な薬を打ったのも……」


 ジェシカの顔に浮かんでいたのは諦めたような笑み。涙こそ流していないが、そこには絶望や憎しみなんかもあるだろう。


「執事さん。あんたはケイシーに仕えるより、今の鮮血の夜明団にいた方がいいよ。人を人とも思わない馬鹿なんて、味方するに値しないから」


 と、ジェシカは続けた。

 するとユーグは少しだけ表情を崩す。


「そうでしょうね。彼に失望すればそれが最良の選択になるでしょう。わかりました、ケイシーを殺して生きてここから出られたらそうしましょう。それと私は確かに執事ですが、名前はユーグ・ディドロです。絶対に忘れないこと」


 ユーグは言った。

 それから3人はサンプルとして薬を取り、ドアを見た。この先にもまだ何かがある。いや、本命はこの先なのかもしれない。



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