51 Killing me, Killing it
――中で何か起きている?
拳銃を握りしめ、ジェシカは中の様子を探る。聞き耳を立てて、中で起きていることを探る。
中からは2人の男の声がする。修羅場にでも近いだろうか。そうでなくとも、今は自分から関わるべきではないと本能が叫んでいる。
何か動きがあれば、ここを離れる。そうしたら、階段をまた上ればいい。上には恵梨がいるはずだから。
赤髪の執事は拳銃を抜く。彼の行動を目にした錬金術は震え上がり、両手を上げた。
「その拳銃。外にいる侵入者に向けてのものだろう……そうだろう!?」
錬金術師は言った。
「そうですか、あなたは侵入者に気付いていましたか。不覚ですね、私は全く気付きませんでしたよ」
赤髪の執事――ユーグ・ディドロは拳銃の先端にイデアを展開する。それが見えていた錬金術師はさらに震え上がり、応えるようにイデアを展開。その瞬間、ユーグは錬金術師を品定めするような視線を向けた。
「あなた、名前は? 実に面白そうな能力の見た目のようで」
と、ユーグは言った。彼の言葉に感情など籠っていない。が、視線と展開されたイデアは錬金術師の恐怖を煽る。
「グレン。ケイシーに雇われたあの錬金術師だよ……」
「ふむ、そうでしたか。あの馬鹿、私に黙っていたのですね」
と言いながら、ユーグは発砲。拳銃の弾はグレンの下半身に命中。と同時に、悶えるグレン。地面には血が滴っていた。
「痛いですか? そうでしょうね。そうなるように狙いましたからね」
ユーグはそう言って銃口をグレンに向けた。
「さて、今は相当痛いでしょうね。治療しても無駄ですよ。また銃弾を撃ち込みます。今度は失ったら生命活動にかかわる臓器を狙いましょうか」
「それだけは……」
痛みに悶えながらグレンは声を漏らす。命乞いをしていることは一目瞭然。
ユーグはそんなグレンを見てあることを思いついた。ケイシーに雇われているグレンでもケイシーの隠し事を知っているのではないかと考えて。その可能性が低くても試してみる価値はあるだろうと。
「冗談ですよ。ですが、それはあなたが秘密を吐いてくれればの話です。私はケイシーに仕えているつもりですが、あの馬鹿はどうも隠し事が多すぎる。それをあなたが知っているのではないかと目をつけまして」
と言ったユーグは笑みを浮かべる。
「先日、ケイシーが隠し持っていたこのビルの間取り図を見つけまして。確認してみたところ、どうにもこのビルに怪しい区画があるようでして。その区画の入り口を教えてもらいたいものです。もちろん、できますよね?」
冷たい引き金に指を添わせる。いつでもこの銃でグレンの心臓を撃ち抜くこともできる。が、今ユーグがやることは殺害ではなく拷問。
「知らない……! そもそもこの実験室は……」
グレンが口を開くと同時に、発砲。弾丸がグレンの左耳を貫いた。痛みを自覚したグレンは左耳を押さえる。ユーグの意図で、致命的ではない場所に弾丸を撃ち込まれたようだった。
そんな姿を見ていたユーグは拳銃の引き金に指を添わせたまま。
「質問を変えましょうか。この実験室の使用目的を洗いざらい話せ」
と言って、実験室の設備を見回した。ユーグ自身にはわからなかったが、試験管やアンプル、分離装置などが並べられている。それ以外にも、壁に沿って置かれた棚には『薬品V』と書かれた瓶がある。ろくでもない実験をしていることはユーグも一目でわかった。
ユーグの目の前にいるグレンは口を割らない。が、何か知っていることはユーグにもわかった。
「そこにある薬品の瓶。ろくでもない実験をしていることはわかりました。そしてあなたは錬金術師。それらしい証拠もあるんですが、あなたはどうなのでしょうか」
と、ユーグ。次の狙いは右耳。弾丸がかすめる恐怖を味わわせる意図がある。
「……それは僕が作った薬品……それ以上でもそれ以下でもない、ただの薬品だ」
グレンはただそれだけを口にした。
やはり簡単に口を割らないか、と思いながらもユーグは引き金を引きかける。が、ここでユーグはあることを思いつく。
これはほんの好奇心と出来心から来た衝動。ユーグは踵を返し、棚に近寄った。
「何をする気だ。まさか……」
「なに、実験ですよ。あなたを拷問して吐かせるつもりでしたが応じてくれないようですので」
命乞いをするかのようにユーグを止めるグレン。だが、彼を尻目にユーグは棚にある『薬品X』を手に取るとグレンに向き直る。さらにグレンの反応を見ながら銃を懐に仕舞って瓶を開けた。
グレンは明らかに焦っている。
「やめろ……確かにそれはイデアを強化するが……」
グレンの言葉も聞き入れず、ユーグは瓶の中身をかけたのだ。
「凶暴化する代もノ……ダ……!」
薬品をかけられたグレン。彼の展開したイデアは瞬く間に変形する。最初に見たときは金色のベールの形を取っていたイデアが赤黒いものへと変色してゆく。そこに現れる、虫のようなもの。
そうやってイデアの形状が変わり、まがまがしさを増してゆく。
本体であるグレンの方も目が濁って化け物へと変わってゆく。
「ああ、なるほど。理解しました。改良していないアレでしたか。ギャリーに投与されたというアレのオリジナル」




