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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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49 Drown in measures

 メイスを携えてシェリルに迫るイザベラ。メイスが振り抜かれるたびに、シェリルは後ろに下がる。雨の降っている範囲ではあるが、ビルの正面の入り口からはかなり離れている。


 ――迂闊に攻撃できないのはわかってる。遠隔攻撃だって奇襲みたいなものだ。


 少しずつ距離を取りながら、シェリルは横目でビルの窓を見る。どうにかして中に侵入できないだろうか。少しでもガラスが多いところからであれば。イザベラから距離を取ったシェリルはもう一度攻撃をしかけるタイミングをうかがっていた。待ち伏せであれば相当な痛手を負わせられるだろう。


「逃がさない。そうやって動き回りやがって」


 イザベラの声が近づいてくる。

 シェリルは足を止め、メイスに雷を纏う。目標は怯ませること。ダメージは二の次。


 ――来たら、その瞬間にやる。勝負は一瞬だし、そのタイミングを逃せば私がやられる。


 イザベラの声と気配はすぐ近くにまで迫っていた。よほど自信があるのかそこまで気がまわっていないのか。とにかくイザベラは気配を隠さない。

 そして――勝負を決める一瞬が来る。


「逃がさないよぉ」


 邪悪な笑みを浮かべたイザベラがメイスを振りかぶる。その先端に付加されているのはどす黒い腐乱死体の一部のような塊。いや、その塊が触れたものを腐敗させる。事実、少し塊が触れたゴミは即座に腐敗した。


「今だッ!」


 シェリルはイザベラより一足早くメイスを振り下ろす。が、それはイザベラに当たらない。メイスは雷とともに地面に激突し、とんでもない音を放つ。

 すると、イザベラはシェリルの目論見通り怯んだ。これがシェリルの狙い。シェリルはイザベラとの距離を詰め、彼女との勝負を決めようと再びメイスを振るう。だが――


「はい……?」


 シェリルはその感覚を疑った。

 手ごたえは、あった。だが、問題はその手ごたえの先だ。イザベラの骨が折れたような感覚もあったが、メイスの先端も軽くなった。取れたのか、消えたのか。このとき、シェリルが見たものはイザベラの腕にまとわりつく黒い塊。そして、その下にはぼろぼろになったメイスの残骸が転がっていた。


「痛いよう……腕1本ってめちゃくちゃ痛いんだからぁ」


 とイザベラは言う。


 ――忘れていた。物体を腐敗させる能力は、イザベラ自身にも。


 シェリルは一気に焦りと絶望に包まれる。どうにかして立て直さなくては。

 イザベラはそんなシェリルに畳みかけるようにして攻撃した。片手でもメイスの風圧はすさまじい。それだけでも相当な脅威であるが、先端には黒い塊。空気も腐敗したようだが、それ以上に足場が腐敗する。


「ちょっ……勝てなくない!?」


 と、愚痴をこぼすシェリル。

 彼女の言葉を聞いたイザベラはより一層攻撃を激しくした。空気まで腐敗したような――それこそ腐乱死体のような臭いがあたりに漂い始める。


「だって、私を怒らせたんだもん。コーディがやられないうちに片をつけないとねぇ」


 イザベラはそう言って舌なめずりをする。攻撃の手はゆるめない。明らかに殺意を持っている。


 異常だ。シェリルはイザベラの攻撃を避けながらどうにかできないかと考えた。侵入できる経路も見つからない。さらに――


 ――多分、コーディってやつのサポートも受けてるんだよね。そのサポートがなくなるためには。


 シェリルはコーディという名前の人物を知らない。顔も特徴も能力もわからなければ、どのように対処すべきかも。


 ――いっそのことビルの壁壊して中に入っちゃう?


 壁をちらりと見る。

 内部に侵入できる窓なんてない。この路地で、どうにかしてイザベラと戦わなくてはならないあるいは、場所を移す。


 ――やっぱり、逃げるしかない。それでもう一度奇襲する!


 シェリルは猛攻を続けるイザベラに背を向けた。すると。


「怖いんだぁ! 私を煽っておいてそれはないよねえ!? 何か言えよ!」


 イザベラは言った。そのときだった。空から雷がイザベラに直撃したのは。

 その瞬間を狙ってシェリルはイザベラの視界から消えた。




 シェリルはビルの正面に戻ってきた。結局、別の扉も大きな窓もなかったのだ。

 ビルの正面ではまだ戦闘が繰り広げられている。一方ではコーディとフィルが戦い、鉄の雨が降っている。もう一方ではミケーレと零が戦っている。そして、ビルとは違う方向から増援がやってきていた。


「邪魔! あと武器貸して!」


 と、シェリルは増援へと突入する。近距離で範囲攻撃ということでも、それなりには戦える。シェリルは身体から電流を放った。すると、その電流を受けて増援たちは失神。シェリルは彼らの持っていた重火器――ロケットランチャーを手に持った。


「いいこと、思いついちゃいました」


 シェリルは呟いた。

 このときもシェリルはイザベラの気配を感じ取っていた。ロケットランチャー以外に持って行ける武器を物色し、小銃を背負って拳銃をコートに隠す。

 そのままビルの正面の入り口から離れ、零やフィルの邪魔にならないようにと注意をはらう。


 来た!


「こっちだからね! そこからじゃ私を腐らせるなんてできないでしょ!」


 シェリルはイザベラを挑発した。少しおびき出せたタイミングで、シェリルはロケットランチャーを発射した。



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