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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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48 Absolute zero

 零はミケーレを抑え込んだことへの安堵とともに不安を抱いていた。

 これまでに戦ったミケーレも能力からかなり強かったうえ、本来であれば相性もよくない。何か策を練っている可能性もある。


 ――杞憂であってくれ。


 零はそう考えながら、ミケーレを殺しにかかった。

 抑え込むために使っていた液体空気を絶対零度にまで冷やし、ミケーレの体内に入るように調整した。そのときだった――ミケーレの炎が、液体空気を吹き飛ばす勢いで大爆発を起こしたのは。


 液体空気に押しつぶされるその中心での爆発。それは液体空気をいとも簡単に吹き飛ばす。直後、解放されたミケーレは炎のジャックナイフだけを持って零に突撃する。

 見ただけでわかる消耗具合。ミケーレの顔は土気色になっており、明らかに息も上がっている。目の焦点だって合っていないようにも見えた。


「死にたいのか……」


 零は呟いた。


 突撃してくるミケーレに向けて、零は氷の鎖を放つ。

 ミケーレはもはや炎の噴射もできずに、賭けとして突撃してきたようだった。が、激しく消耗した状態でそれは叶わない。あっという間に氷の鎖で四肢を拘束された。炎のジャックナイフも勢いを失って消えてゆく。


「……やはりうまくいかなかったか。慢心だったか、君が強すぎたのか」


 と、ミケーレは呟いた。

 絶対零度の氷の鎖はみるみるうちにミケーレの身体を冷やし、四肢はほぼ凍傷に近い状態だった。


「俺を恐怖で煽るようなことをもっとしていれば結果は違っただろうな。お前、優しすぎて損するタイプじゃねえのか?」


 零は言った。


「そこは想像に任せておく。そうだね、出会い方が違っていれば君とは友人にでもなれていたんだろう。とどめを刺すなら刺しなよ。もう手足の感覚がない」


 と、ミケーレ。


「その前に教えてほしいことがある。ケイシーの言うセーブポイントは何だ?」


 零がそう尋ねると、ミケーレは表情を変えた。


「誰がセーブポイントのことをばらした。ライオネルか? あいにく俺は知らない。もっとケイシーに距離が近いやつなら知っているかもしれない。聞き出せるものなら、彼らに聞くといい」


 ミケーレは答えた。

 やはりか、と言いたげな表情の零。そんな彼の気持ちを汲んだのか、再びミケーレは零を見た。


「……まあ、あれだ。どちらかの過去の選択が違えばこういう結果にはならなかったかもな」


 零はそう言うと、ミケーレを冷凍してとどめを刺した。


 ――俺も、過去の選択次第ではこうやって殺されていたのかもな。




 少し時間は遡る。

 まだコーディが倒されていないとき。イザベラは鬼の形相をシェリルに向けていた。


「ここで叩き潰してやろうか」


 先ほどまでの猫を被ったような態度とは打って変わって、イザベラは殺意を露わにしていた。彼女の周囲にはイデアが展開されている。


「できるもんならさっさとやってみればいいじゃん! 変な眼帯しやがって!」


 シェリルは言った。


「くっ……ふふふ……望み通りぶっ潰してやるよ……今は雨が降ってるしねえ」


 笑みを浮かべたイザベラ。

 シェリルの方へと突撃し、接近戦を挑む。が、当のシェリルはそれを拒否した。電撃を辺りに放ち、イザベラの接近を止める。


 ――どうにも嫌な予感がする。ジェシカの話を聞いてなんかわかった気がするけど、多分この人だよね?


「なあに? そのメイスがないと攻撃できないんじゃないのぉ?」


 今度はイザベラが挑発するように言った。シェリルを怒らせて彼女自身のリーチに引き込もうとする意図は見え隠れしている。それに気づいたからこそ、シェリルは挑発に乗らずにいられた。そして。


「私が接近戦しかできないとでも思ってたんですか? そうですね、多分その眼帯の下も腐ってるんでしょうねー」


 と言いながら、シェリルはメイスを振り上げる。イザベラにはその意図がまだわからなかったが――空が光った瞬間に理解する。

 落雷。襲撃のときにシェリルがイザベラたちに近づかずして攻撃した手段。脅しのようなその手段を使った人物を、イザベラは理解した。が、そのときにはすでに遅い。イザベラは雷に打たれた。


「……なんだ、案外ちょろいものですね。ジェシカの話から、相当な強敵だと聞いていたのですが」


 雷に打たれてよろめき、倒れたイザベラ。彼女の様子を確認するなりビルの中に突入しようとした。だが、彼女の背後から攻撃が。

 投げられたものは展開されたイデアをかき消す炸裂弾。それが炸裂し、シェリルが展開したイデアは消え去った。と同時に、後ろから迫る気配。

 イザベラだ。


「効いてないしぃ」


 その声とともに、振るわれるイザベラのメイス。

 気配に反応したシェリルは後ろに向けて回し蹴りを繰り出した。ブーツのヒールでメイスをはじき、どうにか攻撃を受けずに済んだ。それでもブーツの靴底は腐敗している。


「……汚い」


 と、ぼやくシェリル。すると、彼女の言葉が聞こえていたのかイザベラはにたりと笑う。


「ええ? 誰に向けて言ってんのぉ?」


 そう言ったイザベラはさらにシェリルとの距離を詰め、メイスを叩きつける。

 受けることはできない。避けるしかない。少しでも掠ればシェリルの得物は即座に腐敗する。


「ま、そんなこと言っちゃったこと後悔しても知らないからねぇ」



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