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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
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3 Contract

 建物の奥に進むにつれて気温が下がってきた。それは不自然ともいえるほどで――


「冷気でもあやつるイデア使いがいたりするのかな?」


 恵梨は呟いた。そうやって奥へと進むと――そこには1人の青年がいた。まず目を引いたのは、どんな民族とも違う藍色の髪と藍色の瞳。整った顔は半分が前髪によって隠れているが、隠れてない方の半分には濃い化粧が施されている。が、それは嫌味なように見えず、かえって彼を美しく見せる。


「新入りはお前たちか」


 青年は言った。今のところ、敵意は感じられない。とはいえ彼の周りにはダイヤモンドダストにも見えるイデアが展開されているのだが。


「そうそう、今さっき入団試験とやらを受けてきたんだよねえ。とりあえず実力は認められたみたいなんだけど」


「恵梨。あんまり軽率に喋らない方がいい。ここにいるからって敵じゃないとは限らないでしょ?」


 ジェシカが言う。彼女はさらに青年――織部零の方を見る。どうして彼がそこにいるのかも考えながら。


「私にも恵梨にもあなたへの敵意はない。彼女の言う通り、私たちは入団試験をうけてきた。それで、建物の奥に行けと言われてね」


「そうだったか。だったら行っていい。ただし、2人きりで行かせはしない。まだ新入りということは、裏を返せば信用されていないに等しいということだ」


 零が2人を攻撃してくる様子はなく、2人はそのまま建物の奥へ向かう。その後ろから2人についてゆく零。信用するに値する人物かどうか品定めするように2人を見ていた。

 零の視線に気づいていたジェシカ。彼女はあえてその視線に気づかないふりをしていようと努めていた。そして――


「ありがとうね、零。監視をしてくれて何より。それで、2人にはこの書類にサインしてもらう。一見ペラい紙切れだけど、2人の意思を確認するためのものだからそこは我慢してほしいな」


 ルナティカは机の上に件の紙を出す。そこに書かれているのは入団の意思、様々なルールを守ることについての罰則、そして鮮血の夜明団がどういった組織であるのか。



 鮮血の夜明団は600年続く魔物ハンターの組織である。魔物ハンターとは吸血鬼や魔法を使った犯罪、錬金術による違法な生物、イデア使いを捕らえることを生業とする者と定義する。一度団員として鮮血の夜明団に入ることがあれば、形は違っても生涯それにかかわらなくてはならない。機密事項を外部に漏らしてはならない。鮮血の夜明団の中で特別な事例を除き、大規模な抗争を引き起こしてはならない。宗教または政治の組織へ所属してはならない。本部の許可なしに政治の組織との取引を行ってはならない――



「確かに、歴史的な背景から宗教とは仲が悪いと聞くからね……」


 恵梨が口ごもる。


「そうだったっけ。まあいいけど、私が気になるのは2人がそれに同意できるかどうか。できるなら、サインして」


 と、ルナティカは言う。すると、納得したのか恵梨は書類にサインした。その一方でジェシカは迷う様子を見せた。鮮血の夜明団に一時的に所属することはできない。もし所属してしまうことになれば父ジャレッドが中心となっていたコミュニティと関わることができなくなるのかもしれないのだ。


「迷ってるの、ジェシカ。私はできるだけあんたの意思を尊重する」


「一つ聞きたいんだけど。このタリスマン支部は町のコミュニティとどうかかわっていくの? 私は、ずっとかかわってきた人を敵に回したくない」


 ジェシカは言った。するとルナティカは何とも言えない表情を見せる。


「ごめんね、ジェシカ。これまでは敵に回さざるを得なかったし、多分暫くは住民たちからもよく思われないのかもしれない。でも、これから関係を作っていけばいい」


「本当に? 今の関係が悪ければいずれ……」


「あんたならできるはずだよ。ジャレッドとのことがあるなら。私だって協力する。トロイとは違うから」


 ルナティカはジェシカを説得するように言った。


「そこまで言うのなら。恵梨もサインしてしまったというわけだし」


 そう言ったジェシカは机に置かれていたペンを取って紙にサインする。


「ありがとう、2人とも。これで2人は晴れて鮮血の夜明団の一員になった」


 と、ルナティカは言う。


「で、支部長。あたしの知っている鮮血の夜明団はゲートとか呪いの調査とかをしていたけどここでは何をするわけ?」


 恵梨は尋ねた。


「当分は見回りかな。治安ははっきりいってよくないし、ストリート・ギャングがいなくなってもヤバいものの売人なら何人もいる。イデア覚醒薬とか、紅石ナイフの売人がね。知っているかどうかはしらないけど、イデアっていう能力に覚醒させたり吸血鬼になるための道具だったり。そういうモノを流通させてしまってはまずいんだよね」


 そう答えるルナティカ。ジェシカからは有能そうに見えた彼女もまだ手を焼いているという。


「吸血鬼が増えるからね。それはわかる。だったら、私も恵梨も力にならないとね」


 と、ジェシカは言う。するとルナティカは再び言う。


「まあ、今夜から見回りに入れようってわけじゃないんだけど……」




「例のブツだ。これでも手に入れるのは大変だったんだからな……」


 闇の中、口元を黒いマスクで覆った青年が言った。彼の前にいるのは薄汚れた服を着た男。青年はコートの内ポケットから赤い石――先端が尖り、少し間違えば手指を怪我しかねないものを手渡した。勿論、それは透明な袋に入っているのだが。


「ありがとうな……コイツを欲しがっていたヤツに、やっと渡せる……」


 男はにやりと笑いながら青年に紙幣を手渡した。


「17デナリオン、毎度。俺も助かるよ、こういうの売っていねえと生活もできねえ。姉貴の治療費も出せねえ」


 そう言い残して、青年は闇の中に消えた。



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