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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
後編 Will to Vision
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47 Burning Snow

 ――コーディがやられたか。


 ミケーレは吹雪の中、横目で味方を見た。撃ち抜かれて倒れているコーディ。おそらく意識はない。生きているかどうかもわからない。ミケーレは覚悟を決め、炎の鎧をその身に纏った。

 冷気が炎でかき消されてゆく。灼熱の炎は絶対零度にも近い冷気をいとも簡単に打ち破る。


「同情は必要ないよ」


 声とともにミケーレの姿が現れる。炎の鎧を纏い、零に突撃する。その最中、ミケーレは両手に大きめのジャックナイフを持った。

 その姿を見て、零は一瞬だが動揺する。その炎が自身を焼くことを考えれば、たった少しの間でも恐怖が零を支配した。これが零の隙になるとは――


 ――間に合わない!?


 氷の盾で炎のナイフを防ごうとするも、炎はあまりにも熱すぎる。灼熱のナイフに耐えきれず、氷は溶かされていった。零はそのナイフを少しだけ受けたのだ。


 じわりと皮膚を焼いた炎。服に引火し、藍色のニットは燃え始めた。皮膚を舐める炎の感覚に気付いた零はすぐさま上着を脱ぎ捨てた。

 そんな零も少しずつ焦りを見せる。長期戦が己にとって不利であることを知っているからこそ。


「……手っ取り早く片付けなくては」


 零は呟き、さらに冷気を強めた。

 炎が熱すぎるのなら、それにも負けない物量の氷あるいは冷気を使えば良い。幸い、コーディの降らせた雨――雨水が残っている。

 雨水を操り、枷にする。足りなければ空気から。過去に戦った相手にやったように。だが、それは敵を無力化するにはあまりにも心もとない。


 ――できない!?


 零は目を見開いた。凍ったはずの水が蒸発する。氷の枷でとらえられるところだったミケーレは炎のナイフを振るい、爆炎を噴射した。その爆炎は零を襲うだけでなく周囲のものにも引火した。たとえば、近くに集められていた枯葉。辺りにあるいくつかの可燃物が炎上し、辺りを取り囲む。いや、そこまではいかずとも簡単に消火できないような火災となった。

 この光景は、零の精神を揺さぶるようなもの。


「……くそ……逃げるな、零。たかが炎だ……!」


 暗示をかけるように呟いた零。その顔に滲み出るのは恐怖。この激しい炎は零のトラウマそのものだ。

 炎に怯んだ零に畳み掛けるようにミケーレは迫る。


「よく頑張ったよ。君の操る低温を賛美する。敬意を払って火葬くらいはしてあげるから」


 と、ミケーレ。

 彼の放った炎が零にふりかかる。咄嗟の判断で零は冷気のシールドを貼った。それだけでは足りないと考えて、さらに後ろにさがる。だが、それでも零の服に炎がふりかかる。次の攻撃に合わせて、零はシャツを捨てた。

 露になった肉体を見てミケーレは一瞬だけ顔をしかめたが――まだ攻撃の手は緩めない。


「当たらない、燃えてくれないね」


 ミケーレは呟いて炎を放つ。


 ――あのときと違いすぎる。火力も、持続力も。粘り勝つのが難しいくらいだ。


 炎を避けても周囲のものが炎上する。天候の変化がなくなった今、零としても戦闘を長引かせるのを避けたかった。

 今度は近くの民家が火災になった。が、そんなことはミケーレの知ったことでもない。


「諦めてくれるならそれでいいんだ。参ったと言って撤退してくれるなら、ね」


 と、ミケーレは言った。すると零はすかさず。


「それはできない。俺には背負っているものがあるし、中にいる人を助けなくてはならない。たとえ恐怖で足が震えてもな」


 そう言ったのだった。


「そうかい。怖いのはわかっているが、それをわかれば俺も全力でやらせてもらう」


 牽制しながら猛攻の手を止めていたミケーレは今まで以上の炎をジャックナイフに纏う。その熱は零にもほんのりと伝わってくる。それほどまでの火力なのだ。


 先に動いたミケーレ。

 対する零も攻撃そのものは読んでいた。冷気を応用して、近くの火災を鎮火。そこに退避する形でミケーレの攻撃を受け流す。攻撃後のミケーレにできた隙は見逃さない。


 ――ここか。凍結させるのでもいいが、多分消耗を狙った方がいい。


 液体空気を四方から叩き込む。勿論これでミケーレの致命傷になればいいが、そうでなくとも零には狙いがあった。


 ――こいつの能力は多分、長く続かない。戦闘中に能力を使い切るくらいだ。対して俺は気温がこれくらいなら8時間は耐久できる。つまり、粘れば勝てる。


「こんな芸当もできたのか」


 と、呟いたミケーレ。

 彼を包み込もうとした液体空気は低温に加えて相当な物量だった。これをすべて打ち消すには相当な熱が必要となる。判断は一瞬だった。

 これを迎撃すればすぐに勝負を決める。覚悟を決めたミケーレ。炎の鎧より格段に激しい炎をその身に纏って液体空気の層を突破する。が、計算どおりとはいかない。さらにその外側から極低温の液体空気が吹き付ける。それを迎撃しようにも、さらに外から。


 ――まずいな。短期決戦に持ち込むつもりだったが。


 ミケーレは顔をしかめた。

 この調子で炎を保っていれば炎を操るために飲んだ酒が持たない。いずれ炎を出せなくなる。それも3分ほどで。だが、炎を弱めると液体空気の物量に押されることは明白だ。八方ふさがりだと思ったミケーレだが、1つだけ方法を思いついた。


「あるな、これは限りなく賭けに近い。勝負は一瞬か」


 と、ミケーレ。


 一方の零も少し疲労した様子を見せていた。


「……吹雪とは違うな。消耗がけた違いだ。あとどれくらい持つだろうか?」



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