表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
4/76

2 Examination

「ここで戦うのもなんだからよ、外でやるぜ」


 ルナティカの後ろからした、女の声。ただならぬ気配を感じながらジェシカと恵梨は外に出た。そして彼女らの後に続くフィルとライオネル。


「入団試験は俺、フィル・エルウッドとライオネル・インフェルノが相手をすることになっている。人手不足だとしても、入団試験はしろって言われてんだよ」


 フィルは言った。受付にいた彼はただの事務員などではなく、れっきとした鮮血の夜明団の魔物ハンターなのだ。もっとも、彼らも入団して日が浅いのだが。

 2人の前に立ったジェシカと恵梨はそれぞれイデアを展開し――大剣と薙刀をその手に取った。


「てなわけだ、かかって来いよ! 2対2だぜ!」


 ライオネルの声とともに入団試験が開始される。先に飛び出したのは恵梨とフィル。恵梨は地面すれすれに薙刀を振るう。その範囲でこれから起きることが、恵梨にはわかる。


 ――そいつは下手に突っ込んでこない。代わりに動くのは、もう1人か。


 恵梨は一度、薙刀を持ち直すと声を上げた。


「来るよ!」


「OK、こっちも準備くらいできている」


 隙ができたようにも見えた恵梨を狙い、『化け物』を繰り出したライオネル。そのタイミングを見計らったかのようにジェシカが飛び出し、化け物の一撃を受け止めた。化け物の体に食い込むジェシカの刃。そのままジェシカは化け物を両断した。


「……読まれたか」


 フィルは呟く。ここで状況を有利にしようと、時間差でジェシカの懐に飛び込み――


「悪いな」


 その一言とともに、拳を叩き込んだ。だが――フィルは拳に違和感を覚えた。重さが、人間のそれではない。イデアで強化されているのはフィルも承知のことだったが、感覚は壁を殴ったときの方が近い。


「だから? この通り、ノーダメージなんだけど」


 笑いながらジェシカは言う。そんなフィルだが、ジェシカの他の相手を忘れていた。ジェシカを殴った際の異様な感覚のせいで。

 そんなフィルの後ろに回り込む恵梨。ライオネルが介入しようとするも、薙刀で一蹴。フィルを殺さない程度の一撃を後ろから狙っていた。その殺気に気づいたフィルは身を翻し、薙刀を避けようとした。

 だが。その一撃はフェイント。本命はジェシカの方。


「フィル!」


 焦った様子を見せるライオネルは紫色の塊をナックルのようにしてジェシカとフィルの間に入ろうとした。だが。


「行かせないよ」


 薙刀をライオネルの前で構える恵梨。


「この範囲の動きは全部読めている。どうすんの? この薙刀で致命傷でも負っちゃう?」


「……クソ。フィル! 恵梨から離れろ!」


 ライオネルは叫んだ。

 すると、ライオネルはジェシカの斬撃を受け止めて彼女を吹っ飛ばすと恵梨から距離を取る。このままジェシカを追撃することもできたが、フィルはあえてそうしない。ジェシカと恵梨の両方が見える場所を維持するために。


 そんな中で、ライオネルに恵梨の一撃が命中する。服ごと切り裂かれたライオネルは傷口を押さえてうずくまる。


「ライオネル!」


「……あんたの相手は私じゃないの?」


 フィルが叫ぶのと同時にジェシカは立ち上がる。ふらついている様子もなく、重い剣を軽々と持ち上げてフィルに斬りかかる。


「く……」


 フィルが剣を受け止める。ジェシカは、力比べは負けんとばかりにそれすらも押し返す。その後ろには恵梨が。彼女は押されるフィルの首筋に薙刀を突き付けた。


「勝負、あったね」


 ジェシカは言った。下手に動けば首が飛ぶフィルは諦めたような笑みを浮かべ。


「負けたな。コンビネーションから違いすぎる。一体どういう訓練を受けたんだ」


 フィルは言った。


「ジェシカが受けた訓練は知らないけど、あたしは薙刀術をずっとやってるからね。それをあたしなりにアレンジしてる」


 そう言いながら、恵梨は薙刀を下す。


「私も父さんにある程度は稽古をつけてもらったね」


「なるほど……どうりで相当戦えるみたいだな。特に恵梨。戦い方がイデア使いによくあるチンピラみたいな戦い方じゃねえ」


 フィルはそう言いながら表情を緩める。そうやって彼は恵梨やジェシカを認めていった。一方のライオネルは不服そうな顔をしていた。


「おい、フィル! そいつらを支部長のとこに連れて行ったら俺を治療しろよ!」


 ライオネルは叫ぶ。


「わかってる。つうか、ライオネルの傷深いな。あんた達は先に支部長のところに行ってくれ」


 と、フィル。信頼している様子はないがルナティカの元に2人を行かせてもいいという確信があったようだった。それがどういった理由によるものかはわからない。ルナティカの力を信じているのか、それとも彼女に護衛でもいるのか。


「お、新入りですらないあたしたちを通せるくらい自信ある感じ?」


 恵梨は言った。


「信頼うんぬんというよりは……まあ、行けばわかるだろう。そいつの低温に驚くなよ」


 フィルはそう返す。


「気を付けるよ。少なくとも、あまり怒らせないように。私も恵梨もここの鮮血の夜明団との接点なんてほとんどなかったから」


 ジェシカはそう言って踵を返すと、タリスマン支部の建物内に入っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ