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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
36/76

34 Distrust

「襲撃者が撤退してるみたいだから、これから医務室に集合して」


 と、ルナティカはタリスマン支部の構成員とグランツに連絡した。


「深追いはしなくていいから。というか、しないでね」


 さらに彼女はジェシカにそうやって釘を刺す。

 今であれば、ジェシカは下手に行動しかねない。それこそ、とどめを刺し損ねたケイシーを追撃するか、ギャリーのもとへ向かうか。実際、彼女自身もそうしようか考えていたようで、ルナティカの言葉を受けて踏みとどまったようだった。


「……わかりました」


 ジェシカは言った。

 ジェシカにとってわからないことばかりだった。襲撃についてはその意図もどうにかわかったのだが、ライオネルが敵になったことについては。


「支部長。そういえば、タリスマンって裏切者がいるでしょ。まだ泳がせておくの?」


「ライオネルのこと? 言っても大丈夫だとは思うけど、別にライオネルは裏切ってもないんだよね。別でやることがあるから。多分そろそろ戻ってくる頃だけど」


 と、ルナティカ。


 ――ライオネルは一体何をしていたんだろう? それも支部長が関係している?


「支部長。まさかあんたも本当はケイシーと協力していたりしないよね。もしそうだとしたら、ここで切り殺すから」


 そう言ったジェシカはここで殺意を露わにした。

 もともと警戒していた相手。一時は信頼していたとはいえ、ジェシカの中では信用に値しない相手に見えてきた。それよりももっと悪質な、警戒心を削いで人をだますような相手にさえ――


 殺意に気づいたルナティカも明らかに表情が変わる。が、それは明らかな敵意には見えない。ルナティカは何を考えている。


「あまり自分が正しいと思わない方がいいよ。あんたが間違っていたとき、取り返しのつかないことになる」


 ルナティカはただそれだけを口にした。


 ぴりぴりとした空気の中、近くから足音が聞こえてきた。

 襲撃者かもしれない、と感じたルナティカは鞘に納めていた剣を握る。


「支部長。とりあえず1人半殺しにしてきたぜ」


 その声とともに現れたのはライオネルだった。誰かと戦った後のようで、服には返り血がついていた。が、そのライオネルが傷ついている様子はない。


「ありがと。皆から疑われてしんどかっただろうけど、無事でよかった」


 と、ルナティカは言った。

 ジェシカの心配は杞憂にすぎなかった。勝手に1人で仲間を疑って、下手をすれば殺そうとしていたというだけだ。


「まあな。やったのはコーディ・エメット。イザベラが単独で暴れるお膳立てをする役目を担ってたみてーだが、策にはめてしまえばどうってことなかった。もう少し時間があればちゃんと殺せたんだがな」


「見張りにでも気づかれた? いや、撤退のタイミングと重なった感じだね。本当はもう少しもつれると思ったんだけど……得た情報は後で頼むね」


「了解」




 撤退したケイシーたち。

 彼らが本拠地としているビルの中で、イザベラは不機嫌そうにしていた。それもそのはず、ライオネルには裏切られ、ギャリーと紅葉とイーサンは撤退、さらにケイシーとコーディは動けない状態になってしまった。


「ケイシーの容態。結構悪いね。外傷とはまた違う傷だと見たが、これは自然治癒を待つべきか」


 ケイシーの寝ているベッドの隣に座っていたイーサンは言った。このピリピリとした空気の中で、唯一自身のペースを保っている。


「ふーん。で、コーディは?」


「錬金術師を呼んだ。死にかけてはいるがイデアでどうにか生きている。解除すれば死ぬだろうね」


 と言って、イーサンはイザベラを見た。

 彼の様子は傍から見ればイザベラを責めているようにも見えた。事実、彼女が襲撃を決行したことでケイシーとコーディは重傷で、さらにコーディは彼女が目を離したことで半殺しにされた。イザベラは間違いなくここで立場が悪くなる。だが、イザベラはその空気を察したとしても行動を改めることはないだろう。


「そっか。うん、錬金術師……どれだけの金を積んだのぉ?」


 イザベラはさらにイーサンに尋ねた。


「50万。ま、金は受け取ってくれなかったけど僕が保管していた臓器をちらつかせたらそっちで払うならと引き受けてくれたよ。いやあ、錬金術師って変人が多いこと」


 と、イーサンは答えた。


「へえ……」


「それで、僕がさらに臓器のことを話すとこれから一緒に戦ってくれるとも言ったよ。事情は知らないけどまともなことを考えていないというのは言える」


 イーサンはさらにそう続けて血液パックを取る。

 シェリルとの戦いで消耗していることを、彼自身が確信していた。イデアという能力を使うにも、相当な疲労感が襲ってきていたのだった。


 そのまま飲むこともできるだろうが、イーサンは血液パックから血液をグラスに注ぐ。


「やれやれ、やっと落ち着ける。吸血鬼は死ななくても力尽きることはあるんだよ」


 血液を口にしたイーサンは言った。


「ふぅん」


 イザベラは興味なさげだった。

 彼女が今興味あるのは吸血鬼の身体のことなどではない。まだ、イザベラにはやることがあった。


 ――当分こことしても動けないし、ユーリーには会っておきたいんだよねぇ?


 室内を照らす薄明るい光がイザベラの爪に反射する。

 天蓋付きのベッドに横になったイザベラは何か良くないことを考えているようにも見えた。



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