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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
32/76

30 Every Thing Will Be Right Place

 恵梨が紅葉と戦っているのと同刻。

 執務室へと走るジェシカ。恵梨は宿舎近くにおいてきた。とにかく早く、と半ば焦りにも近い感情を抱いている――

 早くしなければルナティカが危ない。ルナティカに限ったものではないだろう。下手すればこのタリスマンに所属する誰もが――


 走っていたジェシカの視界に入ったのは、前にも見た黒髪のあの男。ギャリー・ゴルボーン。ジェシカは困惑し、思わず立ち止まった。


「……え」


「またお前か……」


 同時に声を漏らしたジェシカとギャリー。2人が敵対して顔を合わせたのは3回目。しかし、今回ばかりは事情が違うようだった。

 ギャリーは目が血走っている。それだけではない。異様な雰囲気を彼自身が醸し出している。何によるものかはジェシカの知るところではないが――ジェシカは本能的にギャリーの危険性を感じ取る。


「そんなに俺が哀れだと思うか!? どうせお人好しのお前だからなァ! こうまでなって可哀想だとか思ってんだろ! ちげえよ! くははは……お前を好き勝手出来るのが嬉しくて仕方ねえ……」


 ギャリーは言った。


「狂ってる……」


 ジェシカは剣を握った。が、まだ抜かない。抜けばギャリーを殺すことになるから。

 敵対してもなお、以前の面影を残すギャリーに対して迷いを抱いていた。


「どうとでも言えや……」


 と、ギャリーは吐き捨ててジェシカに突撃する。両手に持ったのはよく研がれたナイフ。これでジェシカの喉元を掻き斬るつもりか。ジェシカは歯を食いしばり――ギャリーに向かって強い重力をかけた。

 あまり知られていないこの力。突如重力をかけられたギャリーはその血走った目をジェシカに向けた。が、重力に耐えることもなくギャリーは地面に倒れ込んだ。


「てめえ……いつの間にこんな力を……」


 と、ギャリー。

 このときギャリーは殺されることを覚悟していた。かかっている重力はもはやギャリーが動くことを許さない。どれだけ力を入れようと、どれだけ身体能力を強化しようとも。


「言えない。けど、ここであなたの命までは取らない。せめてここでおとなしくしてて……」


 それだけを言い残してジェシカはその場を去る。そのときの彼女のまなざしはどこかギャリーを憐れんでいるようにも見えた。――それがギャリーの癪に障る。


「なんでジェシカ……てめえは俺に情けをかける……ふざけるな……ふざけるなよ」


 ギャリーは地面に這いつくばったまま、そう言ったのだ。




 ジェシカが向かったのは執務室。

 辺りに誰もいないことを確認してドアを開ける。中にいたのはルナティカただ1人。そんな彼女は手りゅう弾を手にして緊張した様子だった。

 そして――


「……なんだジェシカか。てっきり襲撃者かと思った」


 ルナティカは手りゅう弾を投げようとした手を止めていた。どうやらジェシカを敵だと勘違いしていたらしい。


「襲撃者……確かにいるよ。この支部にもすでに何人かいる。私が確認したのは煙使いとギャリー。でもまだだれかいるはず」


 と、ジェシカは言った。


「だろうね。襲撃者の顔ぶれから、ケイシーがここまで来てもおかしくない状況だとは思うんだけど……」


「私もそう思う。もしケイシーがここに来たなら……容赦なくぶっ潰すし、支部長の命も守るから。私が死んでも」


 そう言ったジェシカ。

 ルナティカはジェシカの中にある種の危うさを見ていた。確かにジェシカは新しい能力も得たのだし、急速に強くもなっているようだった。だが、それ以上にジェシカの精神は不安定だ。バーでのこともある。なにより、襲撃者の中にギャリーがいることについて、ルナティカは特に難しそうな顔をしていた。


 ――ジェシカ。あんたは何かを犠牲に下強さを得たようだけど、本当はどうなの。私はあんたの感情まではわからないよ……?


「大丈夫。私がケイシーを巻き込んで死ぬことがあれば、運命は繰り返される。あいつはそういう能力を持ってんの」


 と、ルナティカは言った。


「運命を繰り返す……?」


「そ。どの地点まで巻き戻すかはわからないけど、私はあいつが能力を発動する瞬間を見たんだよ。道連れにしてやろうと思ったら、あいつは死ぬのを嫌がって巻き戻したってわけ。おそらく襲撃前に」


 ジェシカに聞き返されたルナティカはこれまでの経緯を話した。

 それはイデアを、あるいはケイシーを知らない人間が聞けば単なる戯言だと考えるだろう。が、ジェシカはその根拠もなしにルナティカの話を信じたのだった。そして。


「だったらケイシーを迎え撃ったとしても、都合のいいように巻き戻されてしまう! せっかく支部長を死なせずにケイシーを討っても……」


「死なせずに退却させればいいの。何度ここを攻めても無駄だってわからせてやればいい。それで、今はあいつらにどれだけ損害を与えられてる?」


 ルナティカは言った。


 ジェシカは誰一人として生きて返さないことばかりを考えていた。だが、ここから撤退させても勝利であることには変わりない。ルナティカの言葉でそう気づかされたのだった。


「1人は撤退させた。誰がやったかわからないけど、吸血鬼が逃げていたくらい。あとは、恵梨が煙使いと戦っている。その結末次第かな……」


 と、ジェシカは言う。


「なるほどね。どれだけ攻めてきているかわからないけど、撤退させることくらいは多分できる。信頼してるけど、無理はしないでね」


 ルナティカは言った。

 それは外から迫る気配を察知してのこと。この執務室に敵の脅威が迫っていたらしい。ジェシカも内部で待ち伏せる体勢に入った。



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