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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
28/76

26 Reborn

 電撃と打撃でイーサンの血肉が飛び散った。彼の返り血を浴びながら、シェリルはグランツの方を見た。


「……いけたかもしれません。やっぱり吸血鬼はその再生力を上回るダメージを与えれば斃せるんですよ」


 と、シェリルは言った。だが、後ろから2人の様子が見えていたグランツは安心などしていなかった。

 イーサンはまだ死んでいない。吸血鬼があの程度で死ぬはずもなく、そもそもイーサンの肉体はすべてが灰になっているわけではなかった。


「敵から目を離すんじゃねえ。まだあいつは肉体が残っている。生きてんだよ」


 グランツは言う。シェリルは焦りながら振り返る。そのとき、彼女が見たものは肉体がズタズタになりながらもどうにか命だけはとどめた吸血鬼。服は先ほどの電撃でほとんど失われてしまい、一見人の形をした肉塊にも見える。が、ただの肉塊と違ったのは少しずつ再生しているということ。

 イーサンはまだ生きている。


「まだだ……僕は降りていない……続けろ。僕と君のどちらかが戦闘不能になるまでだ」


 イーサンはシェリルと目が合った瞬間、こう言ったのだ。


「ギャンブル狂いのように破滅に追い込んでやりますよ」


 メイスの柄をぐっと握りしめるシェリル。イーサンより先に動き、彼の懐に飛び込んだ。

 帯電したメイスが空を切る。その隙を狙って振るわれるバール。どうにかシェリルはその一撃をのけぞって躱した。そうして、シェリルに隙ができた。


「この勝負、僕の勝ちということになるか?」


 と、イーサン。どうやら、戦闘中に言葉を発することができるほどに余裕があったようだった。

 戦況は完全にイーサンの方に向いた。イーサンの追撃を受け止めるシェリル。ここから電撃を撃ち込めれば活路が見えるだろう。シェリルはそう考えていた。


 シェリルがメイスに纏わせた電撃をさらに強める瞬間。イーサンは飛びのき、電撃を浴びることもなかった。それだけでなく、シェリルがメイスを持ち直す瞬間を狙って彼女をバールで殴りつけたのだった。


「シェリル!」


 叫ぶグランツ。シェリルは彼に言葉を返すこともなく、虚ろな目で倒れるだけだった。そんな彼女を見たグランツはイーサンに向けてダーツを放った。が、その攻撃はイーサンに届かない。避けた、外れたということでもなく、消えたのだ。


「賭けに参加していないなら僕に攻撃を当てることもできない。残念だったね。それとも、今度は君が賭けるかい?」


 と、イーサンは言った。

 賭ける、ということはすなわちイーサンと命のやり取りをすること。ルールの中であってもシェリルのようになる可能性があるということ。もちろん、先ほどのようにしてはグランツに勝ち目などない。


「……今はできない」


 グランツは答えた。


「だろうね。君やこの嬢ちゃんには酷だが、賭けたものは貰っていく。ちゃんと止血すれば命は助かるだろう……僕もこんなキモイ姿を晒すのはごめんだ。一旦離脱するよ……」


 そう言ったイーサンは踵を返し、タリスマン支部の裏口の方へと向かっていった。

 この場所に残されたのはシェリルとグランツだけになった。シェリルも意識を失っており、口からは血液がこぼれていた。さらに、左手と左脚は切り落とされ、左目もなくなっていた。これも、イーサンに負けたことが原因だ。


「くそっ……このままだとシェリルが死ぬ……止血しねえと……治療も必要なんだろ……誰か! フィルでもライオネルいい!」


 グランツは焦り、叫ぶ。

 せめて自分が錬金術を扱えたなら。自分が治療に有用な能力を持っていたら。グランツの脳内に、『もしも』の状況が浮かぶ。それで助かることなどないのだが。


 グランツはもう一度シェリルに目をやった。相変わらず痛々しい様子の彼女。


 ――まずは医務室に運ばねえと。処置のやり方はわかる。問題は、これから襲撃が来るってことだ。


 周囲の様子を確認し、グランツはシェリルを抱きかかえた。女性としてはがっしりとした体格のシェリルだが、欠損があるためかグランツが予想していたよりも体が軽い。


 シェリルを抱きかかえてグランツは医務室の方へ進んでいくのだった。

 そんな中。あちらこちらから感じられる敵の――イデア使い特有の気配。すでに襲撃者はこのタリスマン支部にいる。彼らが交戦中なのかはグランツの知るところでもない。


 できるだけ短いルートを通って医務室へ向かうグランツ。道そのものは覚えているが、その近くにあったのはある人の気配。そして、グランツが見たのは赤髪の男。


 ――敵だ。こんなところで何をするつもりなんだ? あいつが向かっているのは、執務室か?


 ここで、グランツは嫌な予感がした。

 執務室には重要なデータなどもあるが、そこにはルナティカもいる。戦わない彼女を危険に晒していいはずがない。


 ――いや、どっちを助ける? シェリルが先ならルナティカが殺されるかもしれねえ。ルナティカが先なら、それこそシェリルが失血死してしまう。


 グランツは究極の2択を迫られていた。二手に分かれることができるのであれば、すでにしている。が、ここにいるのはグランツと瀕死のシェリルだけ。迷っていれば、どちらも死ぬことになるだろう。


 ――何も、タリスマン支部にいるのは俺だけじゃねえ。ルナティカは他のやつらに任せるしかねえ。シェリルは多分、俺しか助けられないだろうな……


 ルナティカは他の人に任せる。グランツはそう決断した。

 助けようと決めたシェリルも、まだ息をしている。

 敵襲の中、グランツは密かに習得していた魔法――姿を消して一切の気配を遮断する魔法を使った。これで敵がグランツを見つけることはできなくなった。


 ――近道だ。敵がいようと関係ねえ。俺もシェリルも、絶対に見つからねえから。




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