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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
23/76

21 Trick

 ミケーレは思うところがあった。バーへの襲撃についても、ケイシーやイザベラなんかの思惑についても。だが、深読みしすぎることはよくないと考えて先に戻っていった2人の後につづいてビルのエレベーターに乗る。


「あまり激しすぎることはしたくないんだよな……俺は言いくるめてタリスマンの連中を引き込めれば……」


 フウ、とミケーレはため息をついた。能力のこともあって酔いとは無縁だが、酔いが醒めたかのように気分は落ち込んでいる。

 考え事をしている間にエレベーターは高層階についた。


「戻ってきてたんだぁ。成果は?」


 うろついていたイザベラがミケーレに声をかける。彼女はこの階に設置していた自動販売機で買った炭酸飲料を持っていた。いつも紅茶を飲む彼女には珍しいことだろう。


「俺に聞くなよ……何を知られてたか完全に対策されていた。バーでは弱い酒しか出されないしタリスマンの連中もそこで待機していた。最悪だよ。君、あっちのメンバーと内通していたりするのか?」


「してるわけないし。確かにルナを何とかしてこっちに引き入れようとはしているんだけどねえ? まあ、内通者がいることはありうると思うよ?」


 と、イザベラは言った。


「内通者なあ。俺、あぶりだしたりするのは好きじゃないんだよ。できるだけ少ない労力で穏便に目的を達成していきたい。俺が望むのは、タリスマンの全員がケイシーの下についてくれることかなあ」


「何回やり直しても無理だと思うよ? すでにケイシーのやつ、7回はやり直しているんだしぃ?」


「やり直し……それでも変えられないことってあるのか。俺には……」


 ミケーレはそう言って口を閉じた。ミケーレはケイシーの能力の詳細をよく知らない。やり直し、という言葉から何度も考えてはいるが、見当がついたにしても確信は持てていないのだ。だからといってその能力を知ったところであまり意味はないのだろうが。


「ねえ、ミケーレ。ケイシーはかなり慎重になってるけどさあ、早々に攻撃を仕掛けるべきじゃなあい? 今回が様子見だったにしても、あっちも動揺している。ミケーレも紅葉もいるんだから……ね?」


 と、イザベラ。彼女の目は本気だった。ミケーレはそんな彼女を止めようとしたが、それも無駄なのだろうと悟る。イザベラは気まぐれで強情だ。思い立ったことはなんとしてでもやりぬこうとするほど。ミケーレは彼女を止めようとはしなかった。止める前からもうあきらめていた。

 イザベラはケイシーたちのいる部屋へと軽い足取りで進んでいった。


 そして、例の一室。カーテンは開けられ、外の様子がよく見える。夜景を見ながら血液入りのワインを口にしていたイーサンとケイシーは談笑しているようだった。

 そこに戻ってきたイザベラ。


「おかえり」


 ケイシーは言った。


「ちょっと提案があるんだけどお」


 と、イザベラ。彼女が何かを企んでいることはその表情からでも見て取れる。


「何の悪だくみだ? 病院に手出しするとか言わないだろうな」


「言うわけないじゃん。私たちが手出しすべきは病院じゃなくてタリスマン支部。もう様子見をする段階は終わった……これからは全力でタリスマンを襲撃するのはどう?」


「なるほど……」


 ケイシーはどこか納得していたようで――


「いや、やるか。ギャリーのやつは焦燥してるが、あの薬を投与すればしばらくはどうにかなるだろ。どうせ覚醒する段階で死ぬはずだった命だ。コーディ、覚醒薬を持ってこい。ギャリーに投与する」


 即決したケイシー。さらに彼はコーディに覚醒薬を持ってくることを命じてギャリーの元に近寄った。

 イデアに覚醒してから日も浅く、さらには零やジェシカとの戦いで消耗したギャリー。精神的にも肉体的にも疲れ切っており、目の焦点が合っていない。当然、能力を無理に使ったことによる反動もある。


「持ってきた。注射でいいんだな?」


「注射だ。経口投与では時間がかかるし、煙を吸わせるのは俺達にも影響が出る」


 と、ケイシーは言った。

 すると、コーディはギャリーを抑え込み、注射器を出した。


「やめ……ろ……」


 ギャリーは必死に抵抗する。が、その細い身体はコーディから簡単におさえられて強引に腕に注射針を突き刺された。


「覚醒したときはあれだけ乗り気だったくせに……怖いのか? 死ぬのが?」


 コーディは冷たいまなざしを向けた。


 ――別に、死ぬのは。死ねば俺は救われるかもな。


 ふと、ギャリーの脳裏にジェシカの姿が浮かぶ。再会した時の困惑した表情。だが、彼女は彼女でギャリーを殺そうとはしていなかった。

 それでもギャリーは彼女を拒む。そのプライドと気づかないうちに壊れていた心ゆえに――


「脈はある。息もしている。まあ、この状態では長く持たないだろう。こいつがイレギュラーな例じゃなければな」


 コーディは言った。


「そうだな。こいつがユーリーと同じようになるとは考えにくい。早めに行くぞ。ここにいる8人でタリスマン支部に奇襲をかける。夜なんだ。吸血鬼の騒ぎもないタリスマンなら手薄だ」


 それに応えるようにしてケイシーは言う。

 イザベラの急な提案で決まったことであり、不満を抱える者もいたが――襲撃は決行される。


 ここにいた8人は再びビルを出て、タリスマン支部へと向かうのだった。



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