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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
19/76

17 Heavy Drinker

 ルナティカと情報共有した後、執務室で彼女からもうひとつの知らせを受けたジェシカ。


「新入り……じゃなかった。こっちに復帰してくる人がいるんだ」


 と、ルナティカは言っていた。

 彼女が言うそばから執務室に入ってくる赤髪の男。ルナティカは彼の姿を見て安堵したような表情になっていた。その男クリフォード・カーライル。タリスマンが荒廃するきっかけとなった戦いに参戦したイデア使いである。


「久しぶり、クリフォード。死体研究所の方も終わってやっと移籍できたんだね」


 クリフォードの姿を見るなりルナティカは言った。


「おう。本当はあの戦いの後すぐに移籍したかったんだがどうにも研究所がうるさくてな。でも今はそういうのも関係ないぞ!」


 と、クリフォード。彼とルナティカは親しげに話している。二人の間に何があったのかはジェシカの知るところではないのだが。

 しばらく言葉を交わしていた二人はジェシカの方を見る。


「ジェシカって言うんだな。俺がいない間に知らない人がいてびっくりしたぞ」


 クリフォードは言った。


「ちょっと事情がある新入りだけどね。ああ、そうだ! せっかくクリフォードが来たんだから今夜はバーにでも飲みに行こう!」


 ルナティカが言う。あまりにも唐突なことだった。実際、ルナティカにそのような余裕があるようには見えなかったこともあり、ジェシカはぽかんとしてしまっていた。

 こんなときに。タリスマン支部もまだ安定しているとはいえない時期に。ルナティカは何を考えているのだろうか。


「本当に突然なんですね……!?」


 ジェシカは精一杯の言葉を絞り出す。


「うん、明日じゃないとできない書類が多くてね。クリフォードもいるし、ジェシカと恵梨の歓迎も兼ねたいなって。いいかな?」


「私はいいですよ。けど、支部長は……」


 ジェシカはルナティカの身を案じていた。戦う力を持たない彼女を危険に晒していいのだろうか、と。だがルナティカはそれも承知のうえで考えていたのだ。


「問題ないよ」




 タリスマンの町のダウンタウン。以前ほどでないにしても人で賑わうこのエリアにはバーもある。エヴァルドの紹介もあり、ジェシカたちはとあるバーに立ち寄っていた。


 雰囲気のあるバー。

 注文されていたノンアルコールカクテルとワインがテーブルに置かれる。


「そういえばルナティカ。なんでエヴァルドさんは良くて俺たちはアルコールダメなんだよ。もう成人してるだろ、ここにいる全員が」


 クリフォードはカクテルの入ったグラスを手に取りながら言った。


「まあ、時間が経てばわかるから。戦う前に酒入れるのは得策じゃないからね?」


 と、ルナティカ。

 戦う。その事態は最悪の可能性としてジェシカも考えていた。が、ルナティカはそれが間違いなく起こることだと判断していた。彼女は店に入ったときからずっと、客の様子を観察しているのだ。不審な行動をする者はいないか、と。


「確かに、襲撃されるくらいだもんね」


 恵梨は呟いた。ジェシカたちが襲撃された場にはいなかったが、その話なら彼女から直接聞いていた。それから、ケイシーのことも。


「そうなんだよ。ケイシーのことがあるから余計にね」


 と、ルナティカは答えてバージンモヒートのカクテルを口に含む。


「客層はエヴァルドさんの言う通り。そこまで悪い客はいないんだろうけど、ケイシーは案外品性があるふりをしていた。だからここにも普通に現れるんじゃないかな」


 ルナティカはそう踏んでいた。彼女の考えは他の者たちの先を行く。その考えがあってこそ、タリスマンの支部長になれたと言われると誰もが頷くだろう。


 ふと、クリフォードはカウンター席に目をやった。

 そこにいたのはバーテンダーに馴れ馴れしく話しかけ、困惑させている赤い髪の男だった。身長は185センチ前後だろうか。大柄だがそれほど威圧感を与えない雰囲気だった。


「おっちゃーん、このカクテルちょっと弱くない?」


 男はグラスをバーテンダーに突き返している。困ったような顔をしたバーテンダーはグラスを見て言う。


「レシピ通りに作っていたはずなのですが……」


「いやー、弱すぎるんだよなあー。もっと強いカクテルにしてくれよー。裏メニューとかでもいいし。それかウォッカでもいいからさー」


 バーテンダーが戸惑うのもお構いなしに、男は頬杖をついて彼自身の主張を通す気でいる。迷惑な客だ。


「ミケーレ……てめえ、俺だけじゃなくて店員にまで迷惑かけやがって……出禁になっても知らねえぞ」


 そんな彼の隣に座っていたのは長身長髪の青年――ジェシカもよく知っているギャリーだった。


「あー、それは困るね。美味い酒が飲めなくなる」


 ミケーレはそう言うとグラスの中のカクテルを口に含んだ。突き返そうとしておきながら、なんやかんやで飲んでいる。

 そんなミケーレの姿を見ながらギャリーはため息をついた。


「ったく、悪態ついといて飲み方だけは上品なこった。オイ、いつやるか?」


「まだだよ。コイツを飲み終わってからだ」


 ミケーレはギャリーの前に置かれたグラスに視線を移した。それはミケーレが勝手に注文したウイスキーだった。ギャリーはそれに一切手をつけることなく、辺りの様子を見ているだけだった。そして。


 ――ジェシカ……


 ギャリーの視界に入るジェシカの姿。彼女たちは談笑しながら酒を飲んでいる。ギャリーはそんな彼女たちをこれから襲撃することになるのだ。彼も少なからず罪悪感は覚えているようだったが。



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